防具屋へ…
今俺とクーロは、防具屋に向かってすすんでいる…
らしい…
らしいだよ。
だって俺、まだそんなにこの街のこと詳しくないからさ。
ただ進んでいる先は、前に行った武器屋の方面だ。
だいたい、冒険者ギルドが街の中心…
そしてその中心から、たぶん北西の方角だろうか。
その方向に、今向かっている防具屋があるみたいだ。
その方向に、クーロと二人で進んでいる。
そして…
「あれだね。こう、二人でお出かけしていると、まるで…。まるで…」
まるで…
なんだろう…
続きが気になって言葉を待っていても、なかなかクーロから言葉が出てこない。
というか最近、なんだかクーロの様子がおかしい。
変なものでも食べたのだろうか…
いや元々、ショタ好きの変なやつではあるんだけど…
「まるで…、なんだ?」
待つのも焦れたから、尋ねてみた。
だけど…
何故かクーロは顔を赤くなっていって…
「何でもないけどっ!?」
「お、おう…」
「ほんと、何でもないから!!」
「はぁ…」
大丈夫か…?
こいつ…
自分で何か言おうとしたくせに、なんか急に声荒げたんだけど…
というか、もしかして…
「そ、そんなことよりも着いたよ!」
「はぁ…」
クーロの様子に少し思うところがあった。
だけどクーロの言葉通り、今日の目的地に着いたみたいだ。
だからまぁ、あと回していいか…
俺はそう思って、今日の目的地へと視線を向けた。
視線の先…
そこにあったのは…
前行ったくたびれた武器屋とは全く違う、きれいな外装のお店だった。
「きれいなお店だな。」
「だね。」
この世界では、おんぼろな建物が多い。
なのにこのお店は、そんな他の建物と比較すると異質なくらいきれいだった。
当然、木造…
そしてペンキとかで色が塗装されてはいないから、外装は木の色…
つまり、茶色だ。
なのに、それだけなのにきれいだ。
もしかしたら…
膝などを塗ってたりしてるのかも…
または定期的に外装の清掃でもしてるのかもしれない。
それくらい、外装の色がてかてかときれいだった。
「この前の武器屋とは、えらい違いだな。」
「ほんとだね。きれいすぎて、ちょっと入りづらいね。」
「確かに…」
例えるならそう…
陰キャが、おしゃれなカフェに入る時の心情に似ている気がする。
自分たちが纏っている薄暗い陰のオーラでは、陽全開のお店にオーラに力負けして、入店という意思をことごとく破壊される…
そんな気持ちに…
俺…?
俺は入れたから!
全然余裕だったから!
なんなら一人でも入れるから。
それくらい余裕だったから。
店員さんに、変な目で見られてた気もするけど…
「外にいてもしょうがないし入ろうか。」
「だな。」
ということで、俺たちは陽の空間に入っていった。
陽は関係ないな。
防具屋だし。
入った感想…
中が思ったよりも広い。
外装からは想像も…
もしかしたら、外装のきれいさに目を取られて、お店の大きさまで目が行ってなかったのかもしれない。
それくらい、入った時のインパクトがあった。
そして物の配置は…
だいたいが防具…
それは当たり前か、防具屋なんだし。
盾が左手前、そこからずーっと奥までが盾だった。
けっこう多い…
ただ盾の置き方に基準は見られなかった。
もしかしたら、値段とかそう言うのを基準にしているのかもしれない。
で、右側…
手前に軽装備、そこから段々と重装備が置いてあるみたいだった。
そして奥には、軽装備と重装備とがごちゃまぜに置いてあるみたいだ。
で、俺たちの今日の目的のもの…
ローブは、軽装備が置いてあるところに…
そして奥にも、何点か置いてあるみたいだった。
「こっちだね。」
そう言って、クーロが軽装備…
ローブを置いてあるところに進む。
俺もそれに付いて行った。
「やっぱり高いね。」
「だな。」
ローブの値段は、安くとも5千…
ちらほらと、万越えのものもある。
けっこう良いお値段だ。
ただまぁ、命を命を守るもの…
そう捉えると必要経費…
もしかしたら安いのかもしれない。
そして今から始まるのは、女性のお買い物…
つまり、きっと長い。
その未来に今更気づいた俺は、まだ一日は長いのに心がぐったりとし始めた。
前世でも…
母親との買い物…
あれはすごく長かった。
もういいから、俺は何回もそう言うけど…
母さんは…
もう少し、あともう少しだから…
そんな言葉が永遠と続いた。
今となったら良い思い出、なんだけど、あれは辛かった。
他にも、母さんとの…
母さんとの…
あれ?
おかしいなー。
女性とのお買い物…
母さんとの記憶しかない。
おかしい…
どう考えてもおかしい。
きっと、気のせいだ。
そうだ、そうに決まってる。
だってそれじゃーまるで、俺は母さん以外の女の人と、お買い物をしてないみ…
ダメだ。
これ以上考えてはいけない。
考えてはいけないんだ!
「これにしようかな…」
俺が過去を振り返っているうちに…
クーロはもう、買うものを決めたみたいだ。
早い…
「どう思う?」
クーロはそう言って、買う予定のローブを指さす。
明るくてきれいな、赤色のローブだった。
「良いと思う…」
似合うと思う。
「テキトーだねー。」
クーロはニコニコと笑顔を向けてくる。
俺はそんなつもりはなかったけど、クーロはそう受け取ったらしい。
そしてそんなクーロは、ローブを手に取って奥へと向かった。
きっとお会計だろう。
俺もそれに付いて行く。
そしてお会計後…
もう用もないから、俺たちは店の外へと向かう。
なんだけど…
前を進むクーロが立ち止まった。
俺もそれにつられて、立ち止まる。
何事かとクーロの顔を伺うと、クーロはじっと立てかけられているローブを見つめていた。
そして…
「きれい…」
そう、言葉をこぼした。
確かにきれいだった。
紅色…
深紅のローブ…
見れば見るほど、奥までも色が続いているかのように奥深い色…
でもそれ以上に…
きれい…
そう呟く、 薄い赤色…
いや、淡いピンク色の瞳…
そんなきれいな色で、きらきらと輝くクーロの瞳…
うっとりとしていて、白い肌を少しだけ赤らめている横顔…
その顔の方が、俺には…
俺は立てかけられているローブの値段を見る。
すると…
「うぇっ…」
「はは…、高いね…」
そのクーロの言葉に、俺は何も返せなかった。
「行こっか。目の毒だしね。」
「あぁ…」
ローブ…
すごく高かった…
3千万…
どう頑張っても、今の俺じゃ手が届かない。
でも…
思い浮かぶのは、クーロのきらきらと輝く横顔…
そんなの見たら…
見てしまったら…
こうして…
この世界での、俺の人生の目標が出来てしまったらしい。




