レミーアロ…?
「お前さんら、そういやーあれ、知ってるか?」
何かブライスが、言いたいことがあるみたいだ。
「あれ…?」
「あーすまん。あれじゃ伝わんねぇよな。あれだあれ。ここ最近、ゴブリンの区画の森にさ、異常な数のホブゴブリンが出てきただろ?その調査にな、””レミーアロ”が行くらしいんだぜ。」
「へー、そうなんだね。」
「そーなんだよ。」
クーロには、ブライスが言ってる言葉が伝わってるみたいだった。
でも俺には…
「レミーアロ…?」
だから尋ねてみた。
みたんだけど…
「えっ!?まじか!!お前さん、知らねぇのか…!?」
「す、すまん…」
「これだから、非モテは…」
「非モテは関係なくね?というか、俺は非モテじゃ…」
「はいはい、そういうのはいいって…」
なんだ、こいつ…
というか、知らなくてもしょうがなくね?
俺、元々この世界の人じゃないし。
だから知らなくても…
いやまぁ…
そのこと、ブライスには言ってないんだけどさ…
「で、レミーアロってなんなんだ?」
俺の質問にブライスは、はぁと一度大きなため息をついてから…
「あれだよ。Bランクの冒険者だよ。」
「B!?すごいな!!」
「そうだよ。すげぇんだよ。なのに何で知らねぇんだよ!」
「す、すまん…」
俺たちがEランク…
ブライスたちがDランクだから…
そのレミーアロってパーティーは、俺たちにとって目の上のたんこぶ…
違った…
俺たちからしたら、雲の上の存在みたいだ。
だから、ブライスが少し興奮しているのもわかる気がする。
そして謝ってる俺を、クーロは苦笑いで見ている。
俺が転移者というのを、当然クーロは知っている。
だから…
俺がレミーアロというパーティーを知らなくてもおかしくないというのはクーロも理解してる。
そしてそのことを知らないブライスが、なんで知らないんだよっていうのもクーロは理解している。
だからきっと…
お互いしょうがないよねって言う感じの目線なんだろ…
で、俺が自分が転移者ということを教えたら解決なんだけど…
なんだけど…
ここで思い出してほしいのは、転移者の人たちがなんて呼ばれて敬われているか…
そう、勇者や聖女だ。
なのに、俺は…
俺は…
こんな…
ブライスががっかりする姿が目に浮かぶし、その反応に俺が悲しむ姿も浮かぶ。
だから言わない。
絶対言わない。
だって、傷つきたくないもん。
ブライスが少しふてくされていて、クーロは苦笑い…
そしてそんな二人を見ている俺…
そんな俺たちに、ようやく最後の一人が口を開いた。
そう、トゥーリさんだ。
いや、こんな勿体付けるようないい方しなくてもいいんだけどね。
「レミーアロは、ブライスの恩人。だから、ブライスは彼らが大好き…」
「へー、そうなんですね。」
俺はテキトーに相槌を打った。
打った、けど…
彼ら…
大好き…
なんでも…
何でもないんだ。
そう、なんでも…
「じゃー、そのブライスの憧れのパーティーが調査に行くんだな。」
「あぁ、そうなんだ。だからよ、きっと森の異変なんかすぐに解決してくれぜ。きっとな…」
ブライスは言い終わると、ニカっと笑みを浮かべた。
でもその言葉…
なんというか、変なフラグ的なものが…
まぁ、気のせいか。
そしてそういやー…
俺は、この二人に伝えること…
謝らないといけないことがある。
そう、パーティーの脱退だ。
短い間だったけど、お世話になった。
だからちゃんと、お礼か謝罪をしたい。
だけど…
ちょっとだけ、気恥ずかしい…
でも…
「あのさ…」
俺がそう言うと、他の三人の視線が俺へと集まってきた。
「えっとさ…」
でも、なかなか言葉が出てこなかった。
そんなときブライスが…
「気にすんな。良くある話だよ。」
ブライス、いいやつ…
えっ、好…
危ない危ない…
ほんと危なかった。
もう少しで、俺まで変な世界に…
「そっか。でも、ありがとな。」
「おうよ。」
「うん。」
良い人たちだな…
俺はそう感じた。
そしてブライスは立ち上がってから…
「じゃ―俺らはもう行くな?お二人さんの邪魔するのもいい加減悪いしな。トゥーリも…」
「うん。」
トゥーリさんも立ち上がってから、二人は離れて…
離れていく、ブライスたち…
そして何故か、ブライスだけが振り返ってきた。
「お前さん、また一緒に”あれ”行こうぜ。今度は最後まで、な。」
あれ…
あれ、というのはきっと”あれ”のことだろう。
それを最後まで…
何故か、一瞬で鳥肌が立った。
こう…
全身の毛が逆立つくらいの…
「ブライス。あれって…?」
「それはな、男だけの嗜みだよ。」
「ん?」
良く分かっていないのか、トゥーリさんが首を傾けた。
だけどブライスは、それを笑ってごまかしてた。
こうして二人は、外へと出ていった。
出ていった、のだけれども…
最後に爆弾を残していきやがった。
「あれって…?」
クーロからの質問…
さて、どう答えればいいのだろうか…
正直に言うとしたら…
男が相手してくれる男専用のあれに行った。
さぁ、こんなの言えるかな…?
言えるかっ!!!
どう考えても言いにくいわ!!
というか、言いたくねぇわ!!!
あの野郎…
最後に爆弾落としていきやがって…
クッソ…
ほんとクソだわ。
「なんだろうな。あはははははは…」
そう答えた俺を、クーロはじっと温度の籠っていない目で見つめてくる。
そして…
「あれ…。男の嗜み…」
これだけ呟くと、何故かクーロの眉間に皺が出来た。
そして…
「へー。私がいない間もお楽しみだったんだ。」
この言葉に…
心臓が掴まれた気がした。
「いや…」
「いや。何…?その後、何が続くの?」
「えっと、それは…」
「それは?」
さっきまでの感情がないような視線はどこへやら、クーロはきれいな笑顔を向けてきてくれる。
わー嬉しいな…
「」
俺は嬉し過ぎて、何も答えられなかった…
そしてそんな俺を見逃してくれる…
ことは当然なく…
「帰ったら、ちゃんと教えてね…?」
「はい…」
これが俺の、最後の言葉だった…
あいつ…
あいつ!!!!




