罪悪感…
【クーロ目線】
目の前には、ホブゴブリン…
だけど私の視界には、ホブゴブリンからの血が舞ってる…
どうして…
そんな疑問が心の中に湧いてくる。
でも、私の記憶がすぐにその答えをくれた。
ホブゴブリンの血が舞う、ほんの数瞬前…
見慣れた何か…
違う。
薄くてほぼ透明…
だけど何故か目に見える魔力の塊…
それが、ホブゴブリンの腕目掛けて襲い掛かったの…
これは…
私はそれが飛んできたであろう方向に目を向ける。
するとほんのすぐ目の前に彼がいた。
その彼は、彼が傷をつけて痛がっているホブゴブリン目掛けて、また魔法剣を振るっているところだった。
当然、魔法剣を振ったことで魔力が出てくる。
そしてその斬撃が、ホブゴブリンの首を切り裂いた。
一瞬だった。
私じゃ、軽い火傷しかつけれないのに…
私が、彼の行動とその結果に驚いていると…
彼が私に優しい顔を向けてきてくれた。
その笑顔がすごくうれしくて…
悲しく…
そして、ホッとした…
だけどすぐに、彼は険しい顔になった。
私の後ろを睨みつけるように…
そして…
また、彼が魔法剣を振った。
私がすぐに後ろを振り返ると…
そこには私が火傷痕をつけたホブゴブリンが、手にできた新しい傷を痛がりながら、さっきまで彼がいた場所の辺りをすごく睨んでいた。
だけどその視線は、すぐに動く。
そして動いた先に、彼が現れた。
すでに、魔法剣を振るところだった。
彼が振ることで出た斬撃を、ホブゴブリンは右手で庇う。
だけど庇った結果…
右手から右肘にかけてを、深く傷が刻まれて血が舞う。
その右手の、痛みを抑えるためか…
出血…
それとも他に何かあるのかもしれない。
その何かしらの理由で、ホブゴブリンは痛めて右手を左手で押さえた。
だけどそんな隙を、彼は見逃す気はないみたいで…
すぐに、次の斬撃を放つ。
その斬撃を、ホブゴブリンは忌々しく、悔しそうな顔で見つめていた。
そして…
ホブゴブリンのそんな表情なんてお構いなしに、斬撃が首を大きく切り裂いた。
傷の場所と大きさ…
その傷が致命傷ということなのがすぐに分かった。
その理解は正しかったみたいで、ホブゴブリンの目から意思という色が消えていく。
そしてそんな傷をつけた彼は、いつの間にか後ろを振り向いていた。
で、やっぱり…
斬撃を放つ…
きっと、最後の1匹に向けて…
そして…
私が振り返った時には、最後の1匹は絶命していた…
圧倒的だった。
いや、圧倒的過ぎた。
かっこよかった。
もうほんの少し先に、私の命がその辺に転がっていた。
そんな境地に、こんな颯爽と現れて、相手を瞬殺して…
これがかっこよくないわけがない。
本当に、かっこよかった…
そして嬉しい。
本当にうれしい。
死ななくても良いのが…
ホッとするし…
急に目の前から絶望がなくなって、心と脳がまだ少し置いてけぼりな感もある。
どこか、ふわふわとしている。
でも、泣いちゃいそうだ。
そして死ぬ前に、会いたくて…
謝りたかった人にも会えた…
それが、幸福に思える。
ほんとにうれしい…
ほんとにうれしい…
本当にうれしい。
そして、本当に悲しい…
そう、本当に悲しい。
今の戦闘のどこに、私が必要な個所があるの?
絶対にない。
ないに決まってる…
多少注意は惹ける。
でもそれだけ…
それ以外、何もできない。
なのに…
そんな粗末な役割でさえ、彼一人だけでもやってのけれる。
本当に…
本当に…
もう私なんて、彼にとって本当に必要のない存在になってしまった。
それが本当に悲しい。
そんな事実にもう、気づいているのに…
気づいていたのに…
だから、悲しいのを我慢して彼と別れたのに…
それなのに、目の前でそんな事実を見せつけられて…
突きつけられて…
大事な存在だった。
もっと、一緒にいたいとも思ってた。
でも…
だから…
彼にふさわしい場所にいて欲しいと…
彼が幸せになれる場所にいてほしいと…
彼がより成長できる場所にいて欲しいと…
そう感じてしまう。
思ってしまう…
悲しい…
辛い…
そして…
泣いちゃいそう…
もう、ぐちゃぐちゃだ…
「クーロ、大丈夫か?」
彼が心配して、声をかけてくれる。
その優しい声…
そして、優しい表情…
それが、すごく私のぐちゃぐちゃな心を癒してくれる。
応急処置にしか…
この一瞬にしか、効果はないのに…
「大丈夫…」
私はなんとか、それだけを言葉にした。
ほんとは、もっと言いたいことがあった。
ありがとう…
なんでここに…?
かっこよかった。
嬉しかった。
強くなったね…
死ぬかと思った。
ごめんね…
なんで、私なんか…
やっぱり、もっと…
どれも言えなかった。
恥ずかしいし…
そして、泣いちゃいそうで…
「歩けるか…?」
その言葉に、私は頭を振った。
ほんとは歩けた…
でも、とっさにそう答えてしまった。
死ぬ寸前だったからなのか…
心の中がぐちゃぐちゃだったからなのか…
今はもう少しだけ、彼に甘えたかったのか。
どれか分かんない。
でも…
そう答えてしまった。
そんな私の回答に、彼はしゃがんで背中を向けてくれた。
罪悪感が襲ってきた。
しょうもない気持ちで、嘘をついた…
でも今この時だけは…
許してほしかった。
あとあと、もう一話出します




