クーロは…
【クーロ目線】
さて、今日の私はいつものようにゴブリン討伐に来ていた。
今目の前で焼けているので、今日3匹目だ。
私にしては順調だった。
でもけっこう焦げてるから、またリリスさんに怒られちゃうかな。
見分けがつかないって…
謝れば、許してくれるよね…
そんなことを思いながら、私は次の獲物へと足を向かわせていた。
そして…
「やっ…、来ないで…」
こんな声を聞いてしまった。
声は若くて可愛らしい…
きっと、若い女の子の助けを呼ぶ声だった。
私は声が聞こえた方に向かう。
グングンと先に向かい…
そしてその先にいたのは、私と同じ年くらい…
20歳手前の女の子と…
そして…
何の運命なんだろう…
またホブゴブリンだった。
この辺の区画は、ゴブリンしか生息しない地…
だから、ホブゴブリンがいることはおかしなことではないんだけど…
でもここは、その生息地の中でも浅い階層…
だから本来、ホブゴブリンがいるはずがない場所。
なのに目の前には、女の子と、その彼女を襲って…
いや、今にも襲い掛かろうとしているホブゴブリンがいた。
とっても疑問だった。
けど、今私がするべきことは…
「【ファイアーボール】」
「グワァァ!!」
私は火の玉を生成して、背後からホブゴブリンへとぶつけた。
不意な攻撃に、ホブゴブリンが痛みからくる野太い叫び声をあげる。
完全な不意打ち…
そのおかげで、良い場所に入ったみたいだった。
火が消え失せると、ホブゴブリンはすぐに魔法を放った私にへと振り返ってくる。
忌々しく、怒気を含んだ表情で…
やっぱり…
私の魔法ごときじゃ、痛みは与えられても致命傷は与えられないみたいだ。
怖くて震える。
自分よりも圧倒的に強い魔物に、獲物として標的にされてしまう。
身体だけじゃなくて、身体の奥…
心まで震えてるみたいだった。
でも…
それでも…
視線の先には、女の子が…
だから…
「【ファイアーボール】」
私はまた、火を生成した。
そして…
またホブゴブリン目掛けて放つ。
その火を、ホブゴブリンは手で軽々と跳ねのけた。
知ってた。
でも、それでいい。
ホブゴブリンの視線…
その視線には、今はもう私のことしか映してないみたいだった。
だから…
私は駆けた。
森の奥に行く気はない。
ただ、今の森の深さを維持するように移動するだけ…
そしてある程度走ったら、私も森を抜ける。
そのつもりだった…
かなりの距離を走った。
そして、ちゃんと私の後をホブゴブリンは追いかけてきてくれた。
だからきっと、さっきの彼女もきっと今頃は安全で…
もしかしたら、もう森を抜けだしているかもしれない。
だから、あとは私も離脱すれば…
私がそう思った、その時…
「えっ…?」
2匹のホブゴブリンが、私が進んでる先…
その先の、木の陰から現れた…
なんで…
私はとっさに、左足で地面に急ブレーキをかける。
前後に挟まれても、左右に逃げれば…
そう言う考えだった。
なのに…
ズルっ…
「えっ…?」
足が滑った。
こんなときに…
ドスっ…
滑ったせいで、腰から地面に落っこちた。
「ッ!!!」
すごく痛い…
身体の芯に響くような、鈍くて重い痛み…
すぐさま、動くのは厳しい。
それがすぐに分かった。
でも今は、それどころじゃ…
その通りだった。
目の前には、2匹のホブゴブリン…
背後にも1匹…
しかも距離は数メートル…
完全に挟まれていた。
終わりかな…
私はすぐに、そう悟った…
目の前にいる2匹はニチャァと、気味の悪い笑顔を向けてくる。
そして、背後のは…
怒りを纏った表情…
一思いに、一発で殺してくれ…
ないよね、きっと…
嬲ったりして、痛みつけてくるんだろうな…
すごく痛いだろうな。
嫌だな…
でもそんなことよりも…
死にたくないな…
もっと、生きていたかったな。
ちょっと後悔しちゃうよ。
女の子庇ったこと…
でも、しょうがないんだよ。
だって、優しいお姉ちゃんに憧れちゃったんだもん。
私には、5歳上のお姉ちゃんがいる。
そして私たち姉妹の家系は、代々貴族に使える家だった。
だから私も、小さい頃からその貴族に仕えてた。
でも私は、やっぱり昔から不器用で…
何度も同じ失敗をして、何度も怒られて…
でもお姉ちゃんは…
一緒に怒られてくれて…
慰めてくれて…
たまに、私の代わりに怒られて…
それでも私に、優しくしてくれて…
褒めてくれて…
そんな優しくて、器用なお姉ちゃんに憧れてた。
でも私は不器用…
お姉ちゃんみたいにはできなかった。
でも…
それでも…
人に優しくすることはできる。
だから私は、人に優しくしようと決めたんだよ。
お姉ちゃんみたいに…
だから…
さっきの女の子を庇ったことに後悔なんか…
後悔なんか…
なんか…
ある…
すごくある!!!
もっと、色んなものを見てみたかった。
お洋服…
おいしいご飯…
おしゃれな街…
景色…
それに…
可愛い男のk…
おっと、また怒られる…
でも誰にだろう…
今誰もいないのに…
いてくれないのに…
私から、選んだのに…
なのになんで怒られるんだろう…
なんで…
一人の男の子の顔が浮かんだ…
私と同じくらいの年…
私よりも、背が高くて…
太くも細くもない体型…
そして、普通の顔…
イケメンでもなくて、不細工でもない。
そんな普通の顔…
なのに、すごく鮮明に思い浮かぶ…
一緒にいた期間はそんなに長くもないのに…
なのに、すごく…
好きとかそう言うのは分からない。
でも、少なくとも彼が大切な存在だったってことは…
ほんとは分かってた。
でもダメなんだよ。
私といたら…
だって彼には…
目の前には、やっぱりホブゴブリン…
いたぶられるくらいなら…
「【ファイアーボール】」
そう呟いて…
私は手の平に、火を生成した。
その火を見て、奴らは顔をしかめて警戒してくる。
その光景に少し思ってしまった。
このまま火を出し続けたら、ずっとこのままかなって…
そんなわけないんだろうけど…
手の平の火を見る。
赤く揺らめいていて…
すごく熱そうで…
痛そうで…
嫌だった。
無理だった。
こんなの自分で自分に向けたくなかった。
火が消える。
嫌だ。
自分で自分を殺したくない。
そして、ホブゴブリンが近づいてくる。
でも死にたくもない。
だから…
だから…
助けてよ…
誰か、お願いだから。
でも…
そんな私の願いなんて届くことなく、ホブゴブリンの手が私に伸びてくる。
そして…
血が舞った。
ホブゴブリンから…
「えっ…?」




