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スキル…

 俺が出来なかった、ホブゴブリンを殺すという行為…

 その行為をしてきたブライス、それとトゥーリさんが俺の元に歩いて近づいてきた。


 「おつかれさんっ。」

 「おつかれ。」


 二人とも、特にブライスの方はボロボロだった。


 そして二人からのこの言葉…

 俺に受け取る権利があるのかを考えてしまう。

 

 確かに、2匹のホブゴブリンの気を惹くことはできた。

 それは、俺ごときからしたら誇っていいのかもしれない。

 でも、もっと取れる手が必ずあった。

 そしてそのせいでブライスが…


 ふー…


 「二人ともお疲れ。」

 「おう!」

 「うん。」


 俺は、少しでも場の空気を壊さないことを選択した。

 わざわざ、雰囲気を悪くする必要はないし、反省は家に帰ってからでもできる。

 なら、今は置いておこう。

 きっと、そうするべきだから…


 「ブライス、大丈夫か…?」

 

 ブライスは左の脇腹をさすりながら…

 「なんとかな…」

 「大丈夫。ブライスは丈夫だから。」

 「トゥーリ、お前が答えんなよ!」

 「気にしなくていい。」

 「気にするわっ!!」


 さっきまでの殺伐としていた雰囲気はどこへやら、いつもの雰囲気だった。

 きっと、いくつもの死線を乗り越えてきたんだろう。

 二人に、絆みたいなものを感じた。


 そして会話に一区切りついたからか、ブライスがまたこっちに視線を向けてきた。


 「お前さんのおかげで、なんとかなったわ。さんきゅーな。」


 なんとか…

 俺視点では、俺が足を引っ張ったって印象だった。

 でもブライス視点では違うみたいだ。

 いや、気を使っている可能性も…

 そんなの、考えなくてもいいか…


 「そうか…?」

 「そうそう。ほんと助かったわ!」

 「うん。」


 褒められると、少しヘラっていたメンタルが少し回復した気がした。


 「そっか…」

 

 「そーよ!」

 ブライスはそう言葉にすると、いつもの笑顔を俺とトゥーリさんに向けてきた。

 「さて、じゃーさっさと帰りますか。」


 そうブライスが口にした、その瞬間…

 グシャ…

 草木が踏みつぶされる音がした。


 ッ!!!!!


 一斉に、音がした方に振り返る。

 そこにいたのは…

 またホブゴブリンだった…


 「「ははっ…」」


 笑い声しか出てこなかった。

 こんなに疲弊しているのにまだ戦闘をしないといけないのかという、気持ちを込めた…

 

 そして、ブライスからも笑い声が…

 きっと、俺とそう遠くない感情だろう…


 そしてトゥーリさんは、顔をしかめている。


 俺は…

 敵はこっちの都合なんて気にしてはくれない。

 そんな感じの言葉を、今すごく実感した。


 ただ、少し様子がおかしかった…


 新しく現れたホブゴブリンと最初、目が合った気がした。

 だから俺たちに確実に気づいているはず、なのに…

 俺たちには目もくれず、辺りをきょろきょろとしている。


 そしてきょろきょろと、辺りを見渡しているうちに何かを見つけたみたいだ。

 俺たちとは全く違う方向に歩いていく。

 見たことのない動きだった。

 だから釣られるように、その奇行を視線で追ってしまう。

 

 やつは、さっきの場所から一直線に歩いていく。

 目的が明確にでも、決まっているかのように…

 そして立ち止まった。

 

 移動したやつの目の前には、何かが落ちていた。

 それが何なのか、俺は視線を小さく落とす…

 その何かは…

 ホブゴブリンの死骸だった…


 「まさか…」

 「どうした…?」

 「本当にいるだなんて…」


 ブライスの呟きに反応するも、ブライスからは返答といえるものが返って来ない。

 どう見ても、目の前の光景に目を奪われているみたいだ。

 だけどすぐに、我に返ってきてくれたみたいだ。


 「トゥーリ…」

 「何?」

 「魔力残ってるか?」

 「あんまり…。中級がなんとか1発。初級なら何発か…」

 「そうか…。なら…」


 ブライスが何か言いだしたその瞬間、ホブゴブリンは目の前にあった死骸を持ち上げ…

 死骸の頭部を喰いだした。

 

 「はっ…?」

 「えっ…?」

 「ちっ…、遅かったか…」


 俺とトゥーリさんから戸惑いの声が…

 ブライスからは、別の…


 「逃げるぞ!!」

 「「えっ…?」」

 「はやくっ!!!」

 「分かった。」

 「う、うん。」


 こうして俺たちは、その場から逃げ出した。




 「「「ハァハァ…」」」


 あれから、かなり走った。

 少なくとも1キロくらいは…

 しかもほぼ全速力で…

 だから今俺たちは、走って疲れた身体を休めるために木に身体を預けている。


 「ブライス…。さっきのは何なんだ?」

 (コクコク…)


 俺の質問にブライスは呼吸を整えるためか、一度大きく息を吸い込んで吐いた。


 「スキルってあるよな…」

 「あぁ…」


 俺にないやつね。

 わざわざ、口には出さないけど…


 「そのスキル…。人間はな、そのスキルを、数割くらいのやつらが持ってるんだよ。人によって、どんなのかは違うけどな。でな、持っているのは人だけじゃないんだよ。」

 「人だけじゃない…。まさか…」

 「そう、魔物も持ってるんだよ。人よりかは圧倒的に数が少ないけどな。」


 人よりかは少ないけど、魔物もスキルを…

 そしてわざわざ、このタイミングで言うってことは…

 

 「ということは、さっきのやつも…」

 「あぁ、俺も見たことがないから、たぶんだけどな。でだ、人のスキルは多種多様。でも魔物は違う。魔物には1種類のスキルしかない。」

 「1種類…」

 「そう、1種類だ。そしてそれを、冒険者間では”悪食”って呼んでる。」

 「悪食…」


 響きからして、確実に良い響きじゃない。

 どう考えても、嫌な…

 悪食…

 じき…

 食べる…

 だからさっきのやつは、ホブゴブリンの死骸を…


 「滅多にみれるもんじゃねぇ。話として上がるのも、飲みの席で極たまに出るくらい。ほんと、それくらい珍しい。でも見つけたら、魔石を食いだす前にやるか…」

 「魔石…?」

 「あぁ、そうか。まだ知らないのか。Ðランクの魔物からな、魔石に価値が生まれるんだよ。」

 「価値…?」

 「あぁ。Eランクはな、カス魔石って言って今のとこ何の使い道もない。だけどÐランクからは、籠っている魔力が跳ね上がる。だから価値があるんだよ。」

 「なるほど…」

 

 「でだ、価値が生まれるのは人間だけじゃねぇってことだ。」

 「つまり…」

 「あぁ、スキルを持った魔物に、はた迷惑にも一役買っちまうんだ。」

 「一役…」


 それって、まさか…


 「あぁ…。魔物のランクが一つ上がる。」

 「一つ…」


 ホブゴブリンはÐ…

 だから、一つランクが上がると…


 「C、ランク…」

 「その通り。だから、魔石を食う前に殺すなりの致命傷を負わせる。食べても殺せるなら殺す。でも俺たちみたいに無理な場合は、今みたいに逃げるかのどれかだな。」

 「なるほど…」

 

 ほんと、最悪なタイミング過ぎだわ。

 

 全員が…

 特にブライスが疲弊していて、トゥーリさんはほぼガス欠…

 そして、悪食の飯はそこら辺に点在…

 

 どうしようもなさ過ぎる…

 笑えて来るな、これは…


 ははっ…


 少し、俺がヘラっているところで、ブライスが立ち上がった。


 「そろそろ行くか。ギルドの方にも報告を…」


 ドスンッ…

 ブライスの言葉を遮るように、足音が聞こえてきた。


 「まさか…」


 ブライスからそんな信じたくないという言葉が…

 ただ、足音を聞いた時点で皆内心気づいている気がした。

 この足音の主について…

 きっと、さっきの…

 

 俺は立ち上がった。

 トゥーリさんも…

 そして音がしてきた方を見つめていたブライスは、俺たちが立ち上がったのに気づいて振り向いてくる。

 忌々しそうに、眉間に皺を寄せて…


 「行くぞ…」

 「おう。」

 「うん。」


 そうして、俺たちが足を踏み出した、その瞬間…

 ガサッという音をさせながら、奴が現れた。

 そして俺たちを見つけた瞬間、ニタァと顔を歪ませてきた。


 「走れ!!!」

 

 ブライスからの言葉。

 俺たちはその言葉通りに、全速力へと…




 逃げる俺たちと追いかけてくるホブゴブリン…

 時間としては、きっと1分も経ってない。

 でも数分…

 いや、10分くらい走っているのではないかと疑いたくなる。

 それくらい、追われるという立場が苦しい。

 

 そして俺たちをそんな苦しい目に合わせているやつは、最初会ったときとは風貌が変わっていた。


 身体は一回り…

 いや、背は変わってないのかもしれない。

 ただ、より筋肉質になっていてかなりごつい…

 そして、汚らしくて薄暗い緑色が今、何か変なものに染まり切ったように真っ黒だ。

 その色を見るだけで、心が震える。

 何か得体の知れないものが近づいてきているという恐怖で…


 そんな恐怖から、俺たちは逃げている。


 そして恐怖からもそうだが、全速力で走っていることから、俺たちはやつに対して何もできない。

 斬撃を飛ばすことも…

 残り少ない魔力で魔法を使うことも…


 でも、俺たちの方が少しだけ速かった。

 だからこのままいけば、きっと…


 そんな希望が頭によぎった、その時…

 俺は見えてしまった。

 

 視界の端の…

 赤く揺らめいている光…

 そして…

来週の平日、

投稿、たぶん少なめです

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