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ブライスパーティーで戦闘へ…5

 「ぐあっ!!」


 うめき声とともに、地面に転がるブライス。

 1回転、2回転と転がって、ブライスが時間を稼いだおかげでなんとか体勢を立て戻したトゥーリさんの足元まで、ブライスは転がった。


 「ブライス、大丈夫っ!?」

 「あ、あぁ…。なんとかな…。」


 殴られた腹部を抑えながらも、ブライスはなんとか身体を起こす。

 幸い、致命傷ではないみたいだった。


 だけど忘れてはいけないのは、ブライスとトゥーリさんの少し先、そこにホブゴブリンたちがいることだ。

 そんなホブゴブリンたちは、二人に向かって歩みだす。

 

 どう見ても、やばかった。


 ブライスと挟撃という形を取りたかった俺は、今更ホブゴブリンたちの背後に辿りつく。

 どう考えても遅すぎた。

 もっと早く辿りついていれば、ここまで状況は悪化してなかっただろうに。

 いや、他の手を…


 一瞬のうちに…

 あーしとけば、こうしとけばという後悔が頭によぎる。

 考えたところで、今この現状に何も生み出すことはできないのに…

 

 でもこの位置だからこそ、こんな今でさえできることがある。


 俺は魔法剣に力を込める。

 いつもの力だ。

 俺にはこれしかないのだから。


 そしてその溜まった魔力を、背後に回ったのに、まったく俺に目もくれてこないホブゴブリンたちに向かって浴びせた。

 ホブゴブリンたちの気が惹けるまで何度も…


 1回、2回、3回と回数を重ねていく。

 距離は3メートル…

 ちゃんと、俺の短い射程にも入っている。

 だから、薄いながらもホブゴブリンたちに傷が刻まれていく。


 初めの1,2回では、俺に目もくれてくれなった。

 きっと、満身創痍な獲物が目の前にいて、

 それに、俺がつける薄傷なんて大したことなかったんだろう。


 でも薄くあろうが、傷は傷。

 痛みは必ずあるし、重なれば重なるほど痛いはず。

 そして、その考えは正しかったみたいだ。


 俺の方に興味も示してくれなかったホブゴブリンたちは、俺のほうに熱い視線を向けてきた。

 忌々しく、そして睨むような厳しい視線を…


 怖かった。

 心は捕まれ、身は竦み、身体が硬くなっていくのを感じる。

 

 でも、そんな恐怖心はしょうがないことなんだと思う。

 俺には、盾もなければ剣もない。

 敵と自分との距離を取ってくれるものが、今飛ばしている稚拙な斬撃しかないのだから。

 でも構わず、俺は斬撃を飛ばすことを続けた。

 縋るように…


 そしてその甲斐あってか、ブライスに初撃を加えたゴブリン以外の2匹は、斬撃を浴びながらも俺の方に一歩踏み出してきた。

 その一歩、たった一歩で、斬撃がつける傷が深くなっているような気がした。

 でも、余裕ができたわけではない。

 だって、斬撃を放てる回数が別に増えたわけじゃないのだから…

 

 もう一歩、ホブゴブリンたちが踏み出してくる。

 その一歩で、またホブゴブリンたちにできる傷が深くなった。

 

 きっと、このまま続けていれば倒せていた。

 それくらいに、今ついている傷が深かった。

 でも俺は、引いてしまった。

 しょうがない気はする。

 近づいてくれば近づいてくるほど、ホブゴブリンたちの背は大きく、その大きさからの威圧感が強く感じれたから…


 でも最低限、2匹の気を惹くことはできた。

 そいつらは今も、結果的にはブライスたちから離れるように、俺へと距離を詰めてきている。

 そいつらをブライスたちからよりかけ離すため、俺はさらに下がる。


 


 そして、俺とこいつら2匹、ブライスとトゥーリさんと1匹のホブゴブリン…

 かなりの距離が開いた。

 10メートルは言い過ぎかもしれない。

 でも、体感ではそれくらいの距離が…


 目の前には、血だらけで痛々しい姿のホブゴブリンたち…

 汚らしい緑色の肌、そんな肌色が顔の部分だけ薄くなっている気がする。

 きっとあと、深いのを一発ずつ与えれば仕留められる。

 なのに…

 なのに…

 そのための一歩が出ない。


 背が高いから…

 不気味さ…

 威圧感…

 俺のことを憎たらしそうに睨んでくる表情…


 なんでかは分からない。

 けど何故か、一歩が踏み出せない。


 俺がそうこう戸惑っていると、右側のホブゴブリンが身を小さくした。

 この動き…

 きっと…


 俺には見覚えがあった。

 だってその動きを2回、目の当たりにしているから…


 でやっぱり、ホブゴブリンは突進してきた。


 俺はそれを、地面に飛び込むことで躱す。

 一瞬で、地面との距離が近くなる。

 衝突してしまうんじゃないかと、一瞬不安がよぎる。

 だから、手で衝突を避ける。

 

 そして身体を起こそうとすると、突進してきてない方のやつが、俺へと歩みを進めてきていた。

 

 ッ!!!!


 近づいてくるなっ…

 

 俺は斬撃をとっさに放つ。

 すぐさま、さっき突進してきた方にも…


 歩みを進めてきた方は、俺の斬撃を手で受けて小さな傷を作る。

 そして突進してきた方には、背中に小さく…


 正直、自分にイライラした。

 だって、数歩踏み込めば倒せる…

 もしくは、致命傷を与えられる。

 なのに、そんなことはせず、ただちんたらと威嚇をするだけ…

 自分のやってることの不甲斐なさが、すごく腹立つ。


 なのに、そのたった数歩が出ない。

 どうして…

 どうして…

 どうして!!!!


 トゥーリさんの目の前にホブゴブリンが現れた時も、ブライスの後に付いて行くしかできず…

 ブライスが危ないときには、わざわざ後ろから…

 きっと、その場に踏み込んでいれば違った未来だった可能性があった…

 それなのに…


 不甲斐なさすぎて、笑いと涙がこみ上げてきそうだった。


 この間にも、ホブゴブリンたちが距離を詰めてこようとするが、俺は威嚇射撃して誤魔化す。


 心の中でこう思っているのに…

 やってることが違い過ぎて、自分でも滑稽だった。


 


 そうこうして、少し時間がたった。

 その間にも、俺と2匹のホブゴブリンたちに進展はない。

 

 いや、あるにはある。

 ホブゴブリンたちには小さな傷が増えていて、俺には疲労が増えていた。

 たったそれだけが…


 そして…


 「【サンドアロー】」


 そんな小さな声が聞こえた。

 サンド…

 聞き覚えがなかった。

 今日、ずっと聞いていたのは”ストーン”だったから…


 そしてそんな俺の疑問が晴れることなく、

 2匹のホブゴブリンに矢が当たった。


 今日散々見ていた、重圧感があって凝縮されたような密度があるものではなく…

 ただの砂の矢が。


 「「ぐわぁっ!」」


 当たった瞬間、ホブゴブリンの悲痛の声と一緒に砂の矢は崩れてしまった。

 でも、痛みによる隙が見て分かるくらいにあった。

 そしてその隙に…


 「あ゛ぁぁぁーっ!!!」


 ブライスがホブゴブリンたちの首を次々とはねた。

 ホブゴブリンたちは、切られる瞬間にブライスを悔しそうに睨んでいた。

 でもブライスは、そんなことを気にも留めてなかった。


 こうして、俺たちと3匹のホブゴブリンとの戦闘は終わりを迎えた。

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