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良いお店…?

 「まぁ、あんまし気にすんなよ。」

 「すまん。」


 ブライスの気遣いの言葉、その言葉に俺はなんとか言葉を返した。

 

 ブライスパーティーでの二日目…

 俺たちは今、今日狩った魔物の討伐証明を換金するために、ギルドの受付に並んでいた。

 

 そして今日は、ちょっと良いとこなしだった。

 いや、一日目が良いとこあったかと言うと、誰かさんのせいでほとんどなかったんだけど。

 でも、今日はちょっと最悪だった。


 身体はなんか重いし、歩くだけで吐き気と頭痛…

 それになんかお腹も気持ち悪いし。

 きっと、何か深刻な病気にでもかかってしまったのかもしれない。

 いやもしかしたら、感染症ウィルスの可能性も…

 

 どっちにしても、国立病院にでも行って精密検査を受けないといけないだろう。

 手遅れになってからでは、遅いんだから。

 うん、そうだよな。

 だから今すぐにでも、敏腕医師に診てもらわないと…

 よし。


 俺がそう結論付けた、その時…


 「それにしてもお前さん、二日酔いとはまた…」


 ブライスから、不思議なことを言われた。


 「二日酔い…?」


 それって、あのダメな大人がよくなる…

 えっ?


 俺は、ブライスの言葉が信じられなかった。

 だって…

 

 「品行方正で清廉潔白で、容姿端麗の俺が…?」


 自分の中でのイメージが、まさにこの通りだったから。

 なのに…

 

 「やっぱお前さん、だいぶ頭やられてるみてーだな。」

 「なんでだよっ!!」 

 

 俺は盛大にブライスにツッコんだ。

 だけど、俺はちゃんと分かっていなかった。

 二日酔いの怖さを…


 「うぅぅ…」


 自分の大声で、ギシギシと頭が痛い。

 それに、グワングワンと頭が回る。

 気分悪い…

 うぇ…


 俺は身体に身を任せるように手を膝についた。

 

 そんな俺を見かねたのか、ブライスが肩をポンポンとしてくれた。

 優しすぎて身に染みた。

 でも半分はお前のせいでもあるけどな。

 

 こうして、待ち時間も過ぎてい…

 俺の耳に、ブライスが小さく呟いてきた。


 「夜、良い店に行くか?親睦もかねて。二人だけでこっそりとな…」


 良い店…

 良い…

 良い…


 ブンブンブン。

 

 俺は力強く頷いた。

 二日酔い?

 そんなの消し飛んだよ。

 今の一瞬で。




 俺とブライスは今、夜の街を歩いている。

 

 もう既に日は暮れていて、今は赤暗い街灯が街を照らしていた。

 その光は、本来は建物の不気味さを映すだけ…

 そのはずなのに…

 今俺たちがいる周辺だけは不気味さとは違うものが感じ取れた。


 言葉にするのは難しい。

 だけどその光を見ると、自分の中の溜まりに溜まったものがグツグツと湧き出てきそうだった。


 俺たちはそんなところを歩いていた。

 そして段々と、人の密度が濃くなってきた。

 

 煌びやかでハレンチな衣装を着ている女性…

 みすぼらしくて薄着の服だけの女性…

 俺たちと同じような、なんの変哲もない服を着ている男性…

 いかつい装備を携帯している男性…


 ここにいる人のあり様は、多種多様だった。

 そんな往来を歩いていく。


 甘美な香りと、酒、そしてイカ臭い匂いが充満している。

 少し気持ち悪かった。


 ただ、俺の心はと言うと…


 ふぁああああああああああああああ!!!!!!!!!


 こんな感じだった。

 いや、膨らむよ。

 期待も夢も、そして相棒も。

 

 楽しい。

 歩くだけで楽しい。

 だって俺は今日、人生で唯一の初めてを味わうんだから。

 楽しくないわけがない。


 そんな俺の期待を焦らすように、ブライスは奥へと歩いていく。

 俺もそれに、従うように付いて行く。


 いやさ、正直この辺のお店でも良いと思うんだよ。

 でもブライスのこのしっかりとした足取り…

 自信に満ち溢れている。

 きっとこれさ、自分のお気に入りのお店へと向かっていると思うんだ。

 俺には分かる。

 俺には分かるんだ。

 だから付いて行こうと思う。

 ブライスを信じて。



 

 少し歩いただろうか。

 人通りが少しだけ減ってきた。

 でも、ブライスの歩みは全く止まる様子がない。

 だけど俺は、信じて付いて行く。


 

 

 人が多い通りから結構歩いただろうか。

 今は、ポツポツとお店と人がいるだけだ。


 「なぁブライス、まだか…?」


 いい加減、焦れてきた俺は尋ねた。

 だけど…


 「もう少しだ。」


 ブライスの返事はこれだけだった。

 

 「そうか。」


 せっかくここまで来たのだからと、俺はまだ付いて行くことにした。




 そして、またそこそこの時間歩いただろうか。

 さっきまでの少し閑散としていた雰囲気はどこへやら、また人通りが増えてきた。

 

 だけど気になることが一つ。

 さっきから、外に全くといっていいほど、女性がいない気がした。


 あれかな。

 少し高めの女性ばっかだから、警護もかねて外に女性がいないのかな。

 いやきっとそうだよな。

 そうに決まっている。


 俺はブライスをお気に入りを信じることにした。

 そして…


 「お前さん、着いたぞ。」

 

 着いたらしい。


 店の前に立つブライスと俺…

 店の外も中も、赤い光だけが照らしている。

 ぼろい家とただの赤い光、それだけのはずなのに、不思議とハレンチさが伝わってくる。


 そんな店に、俺たちは二人して入っていく。

 そして入っていくと、男性の店員がいた。


 「今日は、いかがいたしましょう。」

 「二人とも、Aランクで。」


 店員の質問にブライスが、見事な対応をした。

 どう見ても、どう見てもだった。

 これは絶対に期待できる。

 俺はそう確信した。

 

 「かしこまりました。では少しの間、あそこにかけてお待ちください。」


 俺たちは、素直にその案内に従う。

 そして、隣同士の俺とブライス。

 いつもならきっと、何か話をと考えてしまうところだろう。

 でも今は、俺の脳細胞全てがこれから起こるであろう出来事に対する期待に侵食されていた。


 あ~、極楽浄…


 いやいやいや、早すぎだ。

 まだナニもやってないのに、さすがに気が早すぎる。

 

 それにせっかくブライスに連れてきてもらってるていうのに、このままダンマリというのは失礼だよな。

 

 「ブライスはここ、良く来るのか?」

 「あー、もちろんだぜ。」


 ニカっと爽やかな笑顔を向けてきた。


 「やっぱりそのー、すごいのか…?」

 

 まだあれな俺は、言葉に出すのが恥ずかしかった。

 でもそれでも、ちゃんと伝わってくれたみたいだ。


 「やばいぞ。本当に。」


 本当に…

 そのたった一つの言葉が、俺の期待を膨らませてくる、


 「どんな、感じなんだ…?」

 「あれだ。もう、天にも昇る気分だ。油断とかそんなの関係なくお前さんきっと、飛ぶぞ。意識が。」


 飛ぶ…?

 飛ぶっ!?

 そんなに、そんなになのかっ!!!


 「飛ぶのか…?」

 「飛ぶぞ。頭がチカチカとし出して、そして、だ。」

 「チカチカ…」

 「そう、チカチカだ。」


 俺の口から勝手に漏れ出した言葉に、ブライスが自信を持って復唱してくる。

 これは、これはやばそうだ…


 「チカチカ、チカチカか~~~。」

 

 楽しみ過ぎて、出てくる言葉がすごく低能だ。

 でもそんな俺を、嬉しそうにブライスが眺めてきているのが分かった。

 それに俺も、笑顔で返した。


 どんな笑顔だったかは知らない。

 ただ、例え笑顔がきもかったとしてもそんなの些細な問題だ。

 だって今から、俺には至高な幸せな時間が訪れるのだから。


 あ~それと、忘れてはいけないことがある。

 

 「俺のお相手は、どんな女性なんだろうな~。」


 そう、これだ。

 基本、文句を言う気はない。

 だけどだ。

 大きい人、どうか大きい人でお願いします。

 だって、大きいのが大好きだから。

 むふふふふ…

 

 ただここに来て、ブライスの様子が変わった。


 「はっ!?」


 ブライスからそんな声が飛び出る。

 

 「ど、どうした…?いきなり…」

 「いやお前さん、何言ってるんだ…?」


 何…?

 何故、ここで”何”という言葉が出てくるのか分からなかった。


 「何…?えっと、きれいなお姉さんが相手してくれる店だろ?」

 「いやここは、男が男の相手をする店だぞ?」

 「はっ!?」


 俺は知りたくなかった。

 いや知らなかったら、後の祭りなのか。


 「いやお前さん、男のたしなみだろ。」


 そんなの当り前だろ、という言い回しだった。

 そして何も言葉を出せない俺に、ブライスが補足してくる。


 「そもそもな、男の気持ち良くなるのをポイントを知っているのは誰だ?男だろ?なら、俺たちが一番気持ちよくなれる相手は男なんだよ。わかるか?」


 分かりたくない世界だった。


 「すまんブライス。俺急用を…」


 思い出したから…

 俺はそう言って、今すぐにここから逃げようと思った。

 だけど…


 「まぁ、そう早まるなって。一度やれば、きっとお前さんにもこの気持ちが分かるからさ。」


 グルグルと渦を巻く漆黒を纏った瞳。

 それはまるで、俺の知らないどこかへと一緒に落ちてくれよということを誘うような瞳。

 その瞳にはまるで何か、効力でもあるかのように、俺は動けなかった。

 そして…


 「では、こちらに…」

 「はい。」


 店員の声と、それに呼応するブライス。

 そのひと間に、ブライスの漆黒の眼が俺から外れた。

 その瞬間…

 俺は、走り出した。


 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!!!!」


 店を出て…

 男がやる男のための店の集合を抜け…

 人気が無いとこを抜け…

 女が相手してくれるところを抜けていく。


 クーロが、クーロが恋しかった。

 あんな、全く膨れてもない胸でも恋しかった。

 俺にはもう、クーロしかいないのかもしれない。

 そう思ってしまうほどに…


 でも…


 胸がない…?

 はっ!?

 もしかして…

 もしかしてクーロも男…?


 現実味があった。

 だって、胸がまったくないのだから。


 過ぎていく世界、その世界全てが…


 俺には地獄に感じた。


 

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