いつもと違う…
今はお昼過ぎちょっと手前くらいの時間だろうか。
そんな時間、いつも通りのゴブリンが多く生息している森の区画。
今、俺の目の前には3匹のゴブリンがいた。
俺は3匹のゴブリンを…
ゴブリンたちは俺を…
双方ともが視界に捉えている状態。
木や茂みなどのお互いを遮るものはなく、距離は5メートルくらいだろうか。
仮に長くても10メートルもはない。
だからきっと5メートル強…
なのに、3匹のゴブリンとの距離が異様に近く感じる。
もしかしたら…
というかきっと…
俺が心に抱いている恐怖が俺にそう錯覚させているのだろう。
それに、ゴブリンがいつもよりも大きく見えてる気もする。
ゴブリンには昨日もあった…
そのはずなのに…
そしてそんなゴブリンたちは、ニマァという笑顔で俺を楽しそうに見てくる。
獲物だ、獲物を見つけた。
やったー、飯にありつける。
俺にはゴブリンの発している声は全く分からない。
でもゴブリンたちの、何か楽しそうに話しながら俺へと向けてくる視線。
それが、ゴブリンたちの言葉を勝手に連想させてくる。
だけど、間違った妄想ではないだろう。
だって、ゴブリンは人を襲う魔物なのだから…
少しだけ手が震えてる。
だから俺は、手にある魔法剣をギュッと握りしめた。
それが、今信頼できるものだから。
フー…
さて、どうするか…
目の前には3匹のゴブリン。
そして、そのうちの1匹は木の棒を持っている。
野球のバットを半分にしたような形と長さだ。
3匹いるだけでもやっかいなのに武器までも…
今までだったら…
ゴブリンが武器を持っていたとしても、そいつを奇襲で仕留めて、その急な出来事にゴブリンが慌ててる間に残りを仕留めていた。
だから、1匹だけが武器を持っていても何の影響がなかった。
だけど、今はもうすでに見つかってしまっている。
この作戦は難しそうだ。
複数人いるのなら、一人がヘイトを稼いでいる間に他が横から攻撃。
こういうのもできただろう。
だけど目の前のゴブリンを、今俺は一人で倒さないといけない。
そう、一人でだ。
いつもよりも緊張しているみたいで…
なんというか…
すごく不安定で危険な足場に立たされている気分だ。
どうしても、不安で怖い…
じりじりと近づいてくるゴブリン。
距離はきっと5メートルを切ったくらいだろうか。
3匹が、互いに1メートルくらいの距離を取りながら近づいてくる。
そのせいで、ゴブリン全員を視界に捉えるのが難しくなってきている。
そしてどうしても、右側の木の棒を持っているゴブリンに目が吸い寄せられる。
3匹の中で一番危険度の高いゴブリンなのだから仕方ないのかもしれない。
でも、決して良いことではない。
そしてもう一歩、ゴブリンたちが近づいてきた。
とうとう、木の棒をもったゴブリンとは反対側のゴブリンが視界から外れた。
いや正しく言うと、視界にはいる。
だけど横目でなんとなくいるというのが分かるくらいで…
視線を動かさないことには、そいつが何をしているのかが分からない。
良い状況とは言えない…
そいつが急に襲ってくることもあれば、そいつへと視線を動かしたそのときに、今視界に収まっている他2匹が動き出してくる可能性もある。
少しだけ期待してたんだよ。
射程くらいまではいけるかなと…
でも甘すぎたみたいだ。
だから…
仕掛けるなら、今しかない。
俺は右手、魔法剣に急いで魔力を込める。
その瞬間、ゴブリンたちの顔色が変わった気がした。
そして身構えてくる。
でも仕掛けてこないのなら、俺のやれることも、やることも変わらない。
俺は、魔力を込めた魔法剣を棒を持ったゴブリンへと振る。
いつもの飛ぶ斬撃が、そいつ向かって飛んでいく。
この距離、斬撃そのものに効果はない。
それは分かっている。
俺が期待しているのは…
斬撃の飛んでいく先…
その先にいるゴブリンの動向を俺は見つめる。
そしてそいつは、斬撃を受けようと、木の棒で斬撃を防ぐ姿勢を見せた。
よし!
俺はそれを見届けた後、左にへと逃げるように走る。
でも、逃げることが目的じゃない。
斬撃を放った瞬間、ゴブリン3匹ともが斬撃に釘付けだった。
でも俺が走る動きを見せた後、斬撃とは関係ない残りの2匹は俺の動きにちゃんと気づいたみたいで、俺を追ってくる。
そこから、きっと数秒駆け出したところ…
一番近いゴブリンで、距離は5メートル少し…
そして3匹のゴブリンたちは、俺からほぼ一直線上になっている。
よし!
俺は左足で地面へと急ブレーキをして、魔法剣に魔力を込めながらゴブリンたちの方に体を向ける。
足にけっこうな負荷が来た気がした。
だけど気にしない。
そして追ってくるゴブリンたちが数歩駆け出したところで、俺はまた斬撃を放った。
飛んでいく斬撃…
それに、先頭にいたゴブリンは驚きの表情を見せ、そして恐怖に染まった表情へと移り変わっていく。
数秒先の自分の未来でも見たのかもしれない。
でもできることなら、ここで追って来ていたゴブリン2匹とも殺りたかった。
飛んでいった斬撃で、先頭にいたゴブリンはお腹が割れた。
だけど後に続いて来てたゴブリンは、先頭のゴブリンを盾にしてやり過ごしてから、盾の左から出てくる。
ま、まじか…
ゴブリンの機転の良さに、そんな感想しか出てこない。
いや、今はそれどころじゃない。
間に合うか…?
俺はそんな疑問を持ちながらも、また魔法剣に魔力を込める。
機転の良いゴブリンとの距離はもうほんの数メートル…
今から振れば間に合いそうだった…
そんなとき、視界の上の方で何かが映った。
俺はそれに視線を吸われる。
視線を上げた先…
そこにあったのは…
不規則に回ってる木の棒だった。
なぁっ!?
そして目の前には、いつの間にか腕を振り上げてるゴブリン…
ッ!!!!!
どうしたら…
どうしたら…
勝手に、頭の中でそう反芻された。
だけどそれは、解決策じゃない。
案は何も出てないし、出てこない。
でも何かしないといけない。
だってそうしないと…
俺がとっさにできた行動は…
少し前に準備してた…
目の前のゴブリンに向かって、魔法剣を振ることだけだった。
目の前のゴブリンは、大きな血しぶきあげ始める。
でも、向かってくる木の棒はすぐ目の前まで…
やば…
俺は、恐怖から目を閉じた…
そして…
「しゃーねぇなぁ。」
男の声が聞こえてきた…




