名前…
気がつくと、俺はどうやら屋内にいるみたいだった。さっきまで感じていたカンカンとした太陽の光は感じ取れず、視線の先には木造らしき家の屋根が見えていたのだから。
「ん゛ん~…」
俺はそんな感じの声をあげながら、なんとか身体を起こす。まだまだ重いが、動けないほどではない。そして、俺が身体を起こすとすぐに女性の声が聞こえてきた。
「どう?平気?」
そんな感じの言葉だった。
俺は声がしてきた方を振り向く。
するとそこには、俺を助けてくれた女の人がいた。
少し長いくらいの金髪の髪、その髪を片方だけでくくっている。顔は大人しめながらもちゃんと整っている。少しきりっとした目つきから、どことなくかっこよさを感じれて、総合的には、可愛い系ではなくて美人のかっこいいお姉さんって感じだ。
「たぶん…。お姉さんが助けてくれたの…?」
「そうだよ。」
俺の質問にお姉さんが、落ち着いた声で返事を返してきた。ほんと、かっこいいお姉さんだわ。この人。
俺がぼけーっとお姉さんを見つめていると、お姉さんから質問が飛んできた。
「君、名前は?」
名前か…。どう答えよう。俺が別の世界から来たってこと、ばれてもいいのかなぁ。ばれていいのなら正直に答えるんだけど、その確証がないなだよなぁ。命の恩人だから、信じてもいいのか?んー、悩ましい…。
「えっと、大丈夫…?」
なかなか返事を返さない俺のことを心配してくれたんだろう。頭の怪我のこともあるし…。
ふむ…。
「あっ、大丈夫です。少しだけぼーっとしちゃってるだけなんで…。」
君の瞳に…。
うわー、キザイ。でも言ってみたい。いや、落ち着け。落ち着くんだ。第一印象が大事だ。落ち着け…。
「そうか…。無理はしないでね。」
なんだろう。美人に心配される、それだけでなんでこんなに気分がいいんだろう。
ダメだ。落ち着け。相手が美人局くらいの気持ちになるんだ。美人局と話したことなんてないんだけど。
で、名前か…。
ふむ…。
「俺の、あっ、僕の名前は…」
「俺で大丈夫だよ。」
彼女がニコッと許可をくれる。優しい…。
「そう?えっと、俺の名前はブラッディ…」
「でも、まじめにお願い。」
ばれた…
なぜ…
「はい…。レミーロです。」
これも嘘だけど…
「それほんと?」
あれ?なんで、疑問を持たれてるんだろう。ん?
「本当です。」
「そうなんだー。ごめんね、レミーロって顔じゃなかったから…。」
あれ?これ、もしかして悪口?いや、そんなわけ…、しかも、会話はじめてすぐに…。き、気のせいだな。
「どんな名前だと思ったの?」
俺の質問に彼女は顔に手を当てて考える。そして、割とすぐに回答が返ってきた。
「たけし…。」
はぁっ!?
はぁーーっ!?
なんでだよっ!なんでここで和名がでるんだよっ!それ、どう考えても悪口だろ。ふざけんなやっ!!!
「そ、そうなんだぁ。」
俺がツッコみをなんとか心の中にだけで押さえた。
ダメだ。落ち着け。初対面なんだ。しかも、命の恩人…。
落ち着け…
ふーーー…
うし…。
俺が落ち着いた頃、お姉さんからさらに質問が来た。
「で、レミー…、ププっ…、れ、レミーロは…」
彼女が俺の顔と名前でなんか笑い出した。何でだろうな、はは…。俺にはわかんないや。
なんというか、浮ついた心に冷や水をぶっかけられた気分…、ほんと、この世界って最低だわ。作ったやつ、消えればいいのに…。
「で、何?」
「ゴホン。レミ…、君はなんであの場所にいたの?」
とうとう、お姉さんがレミーロって言う努力もしてくれなくなったんだが…。
なんか、もういいや。
「ここってダメンズ王国?」
「そうよ。そんなの当り前じゃ…」
「俺はここの王様に召喚されたんだ。」
俺は正直に答えることにした。なんか、もう隠すのもしんどい。
それに、たぶん俺は、このお姉さんに協力してもらわないと、この世界では生きていけない気がした。情報や金銭、それに戦闘力…。どれもきっと足りていない。だから命の恩人を信じてみようと、いや、信じたかった。
この世界にたった一人ぼっちな俺の儚い願いだった。
俺の言葉を聞いたお姉さんは何か考え込んでいる。その仕草だけでも、不安になる。捨てられるんじゃないのか。国王へと、ばらされるんじゃないのか。
そして、お姉さんはゆっくりと口を開いた。
「たぶん、勇者召喚よね。でもなら、どうしてここにいるの?だって、あれは偉い人たちが責任もってやる儀式なのに…。」
勇者召喚…。たしかに、あのとき勇者って…。
いや待て。今はお姉さんの問への回答だ。
「俺のステータスがどうやら、ちょっと、ほんのちょっとだけひどいみたいなんだよ。」
「ちょっと…?」
お姉さんがそこだけ言葉を拾い上げた。
うぅ…
「ごめんなさい。かなり…、もうめっちゃくちゃにです。だから、あの森に捨てられました。」
「なるほどね…。」
俺の言葉にお姉さんはそれだけ返してきた。あんまり感触は良くない。
あぁ…
俺捨てられるのかなぁ。なんか、子猫を拾ってきたときの気持ちだわ。いや、俺が子猫か…。
助けてニャー。
そんな俺の心だけが悲しい雰囲気の中、お姉さんがゆっくりと口を開く。
「貴族…、王族のことどう思ってるの?」
お姉さんがまじめな雰囲気で尋ねてくる。
どうって…
繕う…?いや、もういいだろ。考えれば、普通に分かることだ。
「死ねばいいと思う。」
俺は正直に答える。
するとお姉さんはニヘラと笑った。
そして…
「これは運命よ。運命としか考えれないよっ!!!」
両手を広げ、急にそう宣言し始めた。さらに言葉は続く。
「さぁ、この手を取ってっ!!!一緒にこの世界を変えてやりましょう!」
お姉さんは言い終わると、俺の方へ右手を差し出してきた。
そして俺はその手を…