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女々しくて…

 暗い街の中を歩いていく。

 どこへ行くかも決めてない。

 ただ、足が赴いた方に歩いていくだけ…


 暗くて怪しげな街の中…

 街灯と言えそうなものはある。

 でもそれが照らすのは…

 日本のように小さいながらも明るい太陽のように照らしてくれる光、ではなく…

 ただの火が照らすような赤かいだけの光…


 そしてその赤い光は小さい…

 だから、照らす先がすごく不気味に見える。

 

 その不気味な赤い光に照らされて、なんとか辺りの様子が見て取れる。

 木造の少しボロい家々…

 そして道をフラフラとした足取りで進む何人かの人たち…


 平和な世界で住んでた身からすると、治安が良いとは口が裂けても言えない。


 正直、クーロの家に戻りたい。

 朝までだけでもいいから…

 でも…

 

 朝会った時、クーロにどんな顔をすればいいんだろうか。


 なんでかは分からない。

 だけど、クーロの中ではお別れすると、もうそう結論付けてるらしい。

 なら、気まずいだけだ。

 そして、きっと数日考えたとしても、どんな顔で朝会えば良いかの答えは出てこない気がする。


 ただクーロなら、俺に家を出るタイミングを任せてくれると思う。

 こんな夜中なんかじゃんくて、朝まで…

 下手したら、一日待ってくれる気がする。

 いや、もっと長い期間だって…


 彼女は優しいから…


 でも、お別れすることに変わりはない。


 だからやっぱり…

 今こんな時間に家を飛び出したのは、俺が逃げたからなんだと思う。

 クーロとお別れするという現実を見ないために…


 なのに結局は家を出てる。

 だから、俺からお別れという行動の賽を降ってしまってる。

 矛盾してる。


 だけど…

 どうしても、現実を見たくなかった。


 そして、こんな時間に取り出した俺を…

 クーロが追いかけてきてくれることを、今心の中で願ってしまってる。

 そして…

 "しょうがないな。また一緒に…"

 そんな言葉も…


 女々しい…

 自分でもそう思う…

 嫌になる…

 


 

 少しの間歩いた。

 気づくと、見たことのある大きな建物の前にいた。

 この世界に連れてこられてから、まだまだ日は浅い。

 だけど、ほぼ毎日訪れてた場所はある。


 そう、冒険者ギルドだ。


 何も考えてないのに、ここへと足が俺を運んできた。

 朝毎、クーロの家から訪れていた場所だからだろう。

 こんな短い期間しかいないのに、身体にこびりついているのはすごいと思う。

 だけど、惨めだ。

 惨めでしかない。

 だってそれは、彼女との思い出からの…

 

 行く宛なんてない。

 だから俺は、ギルドの建物の前に座った。


 空を見上げると、満開の星空だった。

 いまここに、星からの光を邪魔するものは小さな光を醸し出してる街灯たちだけ…

 だからかもしれない。


 星の集合で、不思議と道が見える。

 果てしなく奥まで続いていくような道…

 そしてそれが、奥に行けば行くほど広がっていた。


 コツッコツッ…


 星を見上げてるとそんな物音…

 いや足音がしてきた。

 そしてその音は、段々と近づいてくる。


 こんな深夜遅い時間の足音…


 不気味でしょうがない。

 だから、俺は吸い込まれるように音の方に視線を向けた。


 すると…

 街灯の光で奥から人影が見えた。

 その人影が、音をさせてる犯人のようだ。


 その犯人は、変わらないリズムで音を響かせる。

 足音だけなら、足取りはしっかりしているみたいだ。

 その足音の主が近づいてきて…

 そして…

 街灯の赤い光が影の主を照らした。


 「あっ!」

 「おうっ!?あっ、お前さんかっ!」


 聞いたことのある声で、金髪の髪色の持ち主…

 足音の犯人は、ブライスだった…




 「で、お前さんっ、こんな時間にどうした?」


 かってに、俺の隣に座り込んてきたブライス。

 そのブライスがそんな言葉を…


 こんな時間…

 それは、俺からもお前に聞きたい。

 でも聞かない。

 今こんだけ惨めな気分なのに、もっと惨めになりそうな…

 そんな気がしたから…

 

 イケメンで高身長のブライス…

 そのブライスがこんな時間に外出…

 そんなのどう考えても、朝帰りに…


 死ねばいいのに…


 はぁーあ…


 「別に何も…」


 言いたくなかった。

 だって、死にたくなりそうだから…


 でも…


 「いやいや。こんな時間に外出てて、何もないわけねぇだろーよ、お前さんっ。」


 皮肉かっ?

 いや、皮肉だろうな。

 そうとしか、考えられない。


 「死ねばいいのに…」

 「いきなりっ!?」

 「いや、単純に死ねばいいなって思っただけで…」

 「俺、何もしてねぇんだけどっ!?」


 俺の言葉に、ブライスは驚く声を上げる。

 だけど表情を盗み見ると、笑っていたのが見て取れた。

 そんなブライスは、俺の方に顔を向けてきた。


 「まっ、どーせあれだろ?女に捨てられたとか。てかそれ以外に、こんな時間にうろつくことねぇし。」


 捨てられた…


 そっか、捨てられたか。

 確かにそうんな感じがする。

 でも…

 付き合ってる人に捨てられたというよりかは、飼い主に捨てられたという方が…


 「す、捨てられたとかじゃないから。」

 「お前さん、動揺しすぎだろ。」


 してないけど、しているように見えたらしい。

 ちゃんと、訂正を入れるべきだよな。


 「してないからな。ど、動揺なんて。」

 「はいはい。分かった分かった。」


 相手にしてくれなかった…

 そしてそのまま、ブライスが言葉を続けてきた。


 「でもそーか。捨てられたか…」


 ブライスの中では、俺は捨てられたことになってるらしい。

 いや、間違ってはいない。

 だけどこのイケメンに言われると、余計惨めで心が荒みそうだ。


 何か言い返したかった。

 でも、俺が言い返すより早く…


 「家、来るか?」


 とっさのことで、どういう意味か、すぐに分からなかった。


 家…

 泊めてくれるということか…?


 確認のために、俺はブライスの表情を見入る。

 でも表情だけでは意味がくみ取れない。


 「泊めてくれるってことか?」

 「あー、そっか。そう言う意味に聞こえるか。まぁ、別にそれでもいんだけどよー。」


 ブライスの言葉は、俺が思ってたとの違うらしい。

 でも他に、どういう意味かが俺には分からなった。

 だから俺は、ブライスの残りの言葉を待った。

 そしてブライスにも、それが伝わったらしい。


 ニコッと…

 ブライスは人の良さそうな笑みを浮かべてから…


 「俺らんとこのパーティーに来るか?」


 そう言われた…

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