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終わって…

最新話、木曜…

 ハァハァ…


 口から勝手に音が漏れる。たった数歩歩いただけなのに、身体中が苦しかった。だけど…


 俺の目の前、そこに…


 正面から切り裂かれたホブゴブリンだったものがいた。


 それを視界に入れるだけで、終わったことの安堵感が、そして俺が、俺たちが格上の魔物を倒せたことの高揚感が身体の奥から湧いてくる。それのせいで勝手に、顔から笑みがこぼれてしまいそうだった。そしてこの喜びを、二人で分かち合いたかった。


 自然と、もう一人の功労者へと意識が向く。すると未だに、彼女は倒れたままだった。


 鉛かと思ってしまうほど身体が重い。終わったことによる安堵感が、襲ってくる倦怠感をより強くしているのかもしれない。でもそれを気にしたところで何も変わらない。俺は重い足を必死に携えて、クーロの元へと進む。


 一歩踏みしめる度に、足に重りが増えてるみたいだった。


 でも進む。


 そして何歩も遠い距離を進んで…


 ようやくクーロの元へとたどり着いた。


 赤いローブの左半分くらいが、焦げた跡というのが分かるように消失してしまっている。左手の袖から肘にかけての衣服もだ。そしてむき出しになってしまっている左手は、黒く汚れている。だけど、軽いやけどが見られるだけで、大きな怪我はないみたいだった。


 立っていることも限界だった俺は、そんなクーロの隣へと倒れるように座り込んだ。


 「クーロ、大丈夫か…?」


 返事が返ってくることを、俺はあんまり期待していなかった。寝ていると思っていたから。だけど、俺が声をかけた相手は起きていたらしい。


 「大丈夫…」


 ぼそっと呟くような声で、力は籠っていなかった。


 「起きてたのか…」

 

 「うん…。終わったの…?」

 

 「終わったよ…」


 終わった。その言葉を口に出すと、また安堵感が湧いてきた。そんな俺へ、申し訳なさそうな声が聞こえてくる。


 「そっか…。ごめんね。」


 ん?


 「何のことだ?」


 なんで謝罪されたのかわからなかった。俺の問にクーロは、ん-と何か考えている時の声を上げる。そして、考えがまとまったみたいだ。


 「何でもない、かな…」


 何のことか、教えてくれないみたいだ。


 「いや、教えてくれよ…」


 「君が気にもしてないみたいだから、いいんだよ。」


 「そうなのか…?」


 「そうだよ。」


 殺生な…


 はぁ…



 

 少しだけ、時間がたった。


 そのおかげで、さっきまで身体に重くのしかかっていた倦怠感は薄れて、自分でも体力が回復したのが分かった。


 俺たちはまだ、一人は座り込んでいて、もう一人は地面に倒れているままだ。周りからしたら、とんでもなく無防備な状態だろう。でも俺たち二人は、その事実を今まで無視し続けた。それくらいに、疲労がすさまじかったから。だけど、いつまでも直視しないわけにはいかない。だってここは、魔物の生息する森だから。


 「クーロ、歩けるか?」


 「無理。」


 早かった。クーロが俺の質問に答える速さが尋常でないほどに早かった。


 「もう少し休んだら、歩け…」


 「無理。」


 最後まで、言わせてくれよ。いや、今の自分の状態をちゃんと理解できている、そう受けとるか。


 「少しは動けそうか?」


 「難しいかな。」


 はぁ…


 これは、おぶるのも難しいかな。で、抱っこは当然無理。だから…


 俺は左手を下から、クーロの腰のより少し上の位置に入れる。そして、右手は膝の下から…


 「えっ?えっ!?」


 俺がそんな所作をする間にも、クーロから戸惑いの声が上がる。


 いや、その気持ちも分かる。でも今日だけは我慢してくれ。


 そして、地面とクーロの間に支える手を入れ終わって、クーロを抱えたまま、俺は立ち上がった。


 「えっ!?えっ!!?」


 クーロがうるさい。これしか運ぶ方法ないんだから、今は黙ってて欲しかった。


 「はい、いくぞ。」


 「はい…」


 こうして、俺たちは街の途中まで帰った。



 

 帰り道、クーロの声が聞こえてくる。


 「殺す。ほんとに殺す。そして私も死ぬっ!」


 物騒すぎて、声が聞こえた方に視線を向ける。すると、すぐにクーロが…


 「こっち、見ないでよっ!!!」


 俺から見えないように、俺の二の腕へと頑張って赤い顔を隠そうとしていた。


 可愛いかった。


 けどこれ…


 帰ったらやっぱり殺されそうなんだけど…

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