私の…
【クーロ目線】
今日の私は、特にさっきまでの私はきっと、すごく浮かれてたんだと思う…
前のパーティーでの失敗。殺傷能力のある火魔法。だけど、不器用なせいでコントロールが効かない。だから、色々と怒られた。素材をダメにするくらい焼いてしまったり、草とかに引火させてしまったり…
クエストを以外でも、他にも色々…
それはいいか…
だから私一人でゴブリン3匹を狩ったその事実が、今まで私の心を満たせてなかった何かを満たしてしまった。だから生死を分けるこんな状況、しかも自分が何もしてあげれない位置、そんな状態で彼の気を引いてしまった。
ホブゴブリンにぶつかって飛んでいく彼、赤い何か、いや分かってる。血だ、血が飛び散っている。
そんな彼が吹き飛ばされて、茂みへと落ちていく。茂みに落ちたのは、まだ運が良かった。もしかしたら、すぐにでも起き上がって来るかもしれない。私はお気楽に、そう期待した。
だけど彼は、今も茂みに埋まったままだ。
上半身は茂みに埋もれて、今は下半身しか私の位置からは見えない。だから今の彼の状態は、まったくと言って分からない。そして…
体勢の悪かったホブゴブリンが、ゆったりと立ち上がった。
向いている先は当然、彼だ。
止めを刺すのかもしれない。いや、いたぶるのかも…
とにかく、良いことが起きるはずない。
だから…
だから…
私が助けないといけない。だけど…
すごく怖い…
私よりも遥かに大きい巨躯。視界の中で、その身体だけが異様な存在感を放っている。身体が言ってる。逃げたいって。今この状況、すごく余裕で逃げられる。ゴブリンはいなくて、ホブゴブリンの興味は彼に向いている。
そして、彼も死にかけ…
いやもしかしたら、もう死んでるかもしれない。
私に免罪符をくれている。逃げてもいいって。逃げても誰も責めないって…
でも…
でも…
でも…
彼との初クエスト、倒れた私を彼は見捨てなかった。偶然とか運が良かったとかそういうのじゃない。
だって、私も彼も泥だらけだった。それで、それだけで分かった。彼が必死に私を守ってくれた。守ってくれようとしてたことが…
なら今度は、私が彼に返す番だ…
震える足。だけどその足は、自然と進む。その足で私は、私の射程が届く範囲までホブゴブリンに近づいた。そして…
「【ファイアーボール】」
いつもの魔法を放つ。狙いは顔…
身体にぶつけてもダメージがないことは、この前で分かった。なら、賭けるとこはそこしかない。
私が放った魔法、その魔法がどんどん進んでいく。私に何の興味も示していなかったホブゴブリン、その顔に…
私の魔法が炸裂した。
「ぐぎゃああああぁぁあぁぁ!!!」
ゴブリンたちと似たような悲鳴。だけど図体がでかい分だけ、声の質が重い。
当たった部分に赤い光が見える。ちゃんと、ホブゴブリンの皮膚を焼いてくれてるみたい。だけど…
赤い光がいつの間にかすぐに消え去っていた。そして気づいたら、上がっているのは少し黒さが混ぜたったような煙だけだ。
やっぱり、効いてない…
いや、効いてるには効いてる。だけど、倒すとかそういうとこまでは持っていけてない。
「【ファイアーボール】」
私はすぐに次の魔法を準備する。倒す倒せない、そんな話じゃない。生きるため。そのために準備する。
そして煙が晴れると、ホブゴブリンの顔が見えた。赤く腫れあがった、やけどの痕。だけどそれ以上に、ホブゴブリンが私を睨む顔の方が私の目を引く。
彼に向かっていたヘイトは、今は私のところに…
だけど、その眼光…
その眼光がすごく怖い…
私は怯える気持ちを表すために、もう一発、準備していた魔法を放った。だけど…
ジュ~…
また顔へと向けた魔法は、ホブゴブリンが軽く手で防いだ。手には魔法が当たった痕は見て取れる。だけどホブゴブリンの表情から、ダメージが重いというのは見えない。大したことないんだろう。私の魔法なんて…
そんな中、ホブゴブリンが前傾姿勢を取った。
どう見ても、さっき彼にお見舞いした技だろう。きっと、その技が来る。
だから私は、それを向かい打つためにまた魔法を準備する。
魔法…
魔法というのは、3つのランクと4つの属性がある。3つのランクとは初級、中級、上級だ。
もちろん、私がいつも使っている”ファイアーボール”は火属性の初級魔法にあたる。
そしてファイアーボールは、火属性の初級魔法の中で基礎とされてる。
火の初級魔法はたくさんの種類がある。でもその名前は、形や大きさ、射程などを変えたもの。そしてそういった要素が、魔法を発現させるときの難易度に繋がってくる。だけどファイアーボールはただ魔力できた火をまとめたもの。きれいな形じゃなくてもいい。だから不器用な私はこの魔法を使っている、というか、これしか使えない。
だけど私には、もうひとだけ使える火の魔法がある。それは…
ドンッ…
勢いよく地面を蹴って向かってくるホブゴブリン…
私は、その向かってくる巨体にお見舞いするために…
ファイアーボールよりも、というか射程はゼロ距離。だけど今この状況、相手との距離がゼロ距離なら今の私でも形にはできる…
だって、魔法に込める魔力をただたくさん増やせばいいだけなんだから…
「【フレイムボール】」
目の前に、ただただ大きい炎の固まりが現れる。そして…
ボォッッッン!!!!!…
突っ込んでくるホブゴブリン、そいつと私が作った火の”中級”魔法、それが視界いっぱいに…
大きな赤い光を…
ほとばらせた…
私はそれから身を庇うように、顔を手で…
だけどすぐさま、正面からすごい衝撃が来て、そして…
私…
には…
木から見え隠れする青い空が見えた…
気がした…




