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新しい標的を…

 目の前には、両手が切断されて身体にまで斬撃の切り痕が残っているゴブリン。もちろん、絶命している。なんだけど…


 なんでだっ!?なんで、また攻撃が通ったんだ?なんで…


 初のゴブリン討伐クエスト、その時も何故かゴブリンに斬撃が傷をつけた。だけどそれ以降は、斬撃が斬撃をしていなかった。なのになんで今日は…


 前はピンチだからだと思った。だけど、それもなんだか違う気がする。いや、あっているのか?前もピンチだったし、今回もピンチといえばピンチ。なら…


 俺は必死にその理由を考える。だけど、しっくり来ない。


 ん-…


 「作戦、上手くいったね。」


 俺の思考を遮ってしまう形で、クーロの声が聞こえてきた。俺は顔を上げてクーロの方に顔を向けると、落ち着いていて柔らかい顔のクーロがいた。


 「だな。クーロ、ナイス。」


 「君もね。」


 互いに小さくたたえ合う。一緒に苦労を共にしているという実感が湧くこの時間が、俺は割と好きだった。


 「それにしても作戦、上手くいったね。」


 クーロの言葉、俺は今俺たちの足元に転がっているゴブリンたちだったものを見て、それから…


 「ほんと、上手くいったよな。」


 「そうだよね。でも…」


 クーロも足元、それも焼け炭になっているゴブリンを見ているようだ。


 「少し、勿体ない気もするね。」


 あー…


 「でもしょうがないんじゃないか。だって…」


 1匹目、俺たちはリターン薄めで低リスクの選択肢を取った。


 風魔法でぶっ飛ばす。そう言う話もあるにはあった。だけど、飛ばされていったゴブリンの行動次第ではイレギュラーが起きてしまうだろう。ということで、確実に仕留めるために1匹目は丸焼きにした。


 下手したら、討伐の証が取れないかもしれない。でも俺たちはまだまだ弱い。だから、今はこれで十分だと思う。


 そしてクーロも、俺が何を言いたいのかちゃんと察してくれているみたいだ。


 「まぁ、そう、だよね。」


 少し、含んだような物言い。だけど、感情抜きにすれば納得はできているみたいだ。


 「あぁ。」


 「うん。そうだよね。」


 この後、俺たちは転がっているゴブリンから耳を剥ぎ取った。運よく剥ぎ取ることができた。だから今ので、今日8匹目だ。


 



 俺たちは、今新たなる獲物を探している。とはいっても、ゴブリンしか相手にできないんだけどな。


 さっきまでと同じように、クーロが左、俺が右側。そして正面と横を二人で監視し合う。


 「それにしても、君の、本当にゴブリン切ってたね。」


 俺たちは進みながらも、小さく会話をしている。


 君の…


 どう考えても、魔法剣のことだろう。


 「だな。ほんと、なんでだろうな。」


 「まだ理由、わかってないんだね…」


 「そうなんだよ。ほんと、なんなんだろうな…」


 んー、と、クーロからの小さく考える音が聞こえてくる。だけど、少ししてすぐに…


 「あれなんじゃない?」


 なんか、クーロが思いついたみたいだ。


 「あれ…?」


 「うん。前君が言ってたピンチとかそういう抽象的な話じゃなくてさ。なんていうかさ、こう…」


 なかなか続きの言葉がクーロから出てこない。


 どうやら、自分の中にある考えが、いい具合に言葉にできないみたいだ。


 そして…


 「あっ…」


 クーロから小さく声をあがったのが聞こえてきた。俺は声に釣られるように、クーロの方に視線を向ける。すると、向けた先にクーロはいなくて…


 クイクイ…


 下から服の袖を引っ張られる感触があった。


 しゃがめ…


 そう言うことだろう。俺はその指示通りにしゃがむ。そしてさっき俺がやったように、クーロがとある先を指さしてきた。その先を、俺は釣られるように視線を向けた。


 視線の先の茂みが邪魔だった。だけどさっきと同じように、またそこには3匹のゴブリンがいた。


 クーロが手で3を示してきた。そしてそれは、俺が視界に収めた数と同じだった。俺はクーロの合図に頷きで返す。するとクーロからも、頷きが返って来た。


 行くよ。そういう合図だろう。さっきも少しだけイレギュラーはあったものの、概ね上手くいっていた。だから、異論はなかった。


 俺とクーロは、進む先にいるゴブリンに気づかれないように、ゴブリンと自分たちの間に遮蔽物、茂みを挟むように進んでいく。一歩、一歩。音を鳴らさないようにゆっくりと…


 俺たちが進むのはゴブリンからはきっと見えていない。そして、ゴブリンから見えていないということは当然、俺たちからも見えていない。近寄っているのがばれてしまったら、奇襲どころの話ではないから。だから慎重に進む。何かあった時の様に、短剣を力強く握りしめて…


 進む視界、本当に不気味だ。暗い森の中。そして大きな木が立ち並んでいる。自分たちがこのまま進んでいいのかを、不気味さが問いかけてきているようだ。不安でしょうがない。でも、進まないことには何も進まない。だから俺たちは前へと進む。


 そして…


 目的の茂みへとたどり着いた。


 茂みから覗くと、ゴブリン達は3匹とも視界の中にいた。そして、気づかれた様子もない。だから次の問題点は…


 「クーロ、射程、大丈夫か…」


 いつもより、遠い気がした。


 「ぎりぎりかな。2匹は範囲内。だけど、1匹はたぶんダメ。」


 なるほど…


 つまり、さっきと同じように出来はするけど、最後の1匹は工夫しないとダメか。俺がクーロの射程に誘い出すか、俺がヘイトをかって、クーロへと向かわせないようにするかの。


 まぁ、いけるだろうな。


 「最後の1匹は、俺が一度陽動になるわ。」


 「…、分かった。頼むよ。」


 「あぁ…」


 俺の言葉を聞くや否や、クーロはゴブリンへと向けていた視線を厳しいものへと変えた。そして茂みの隙間を通すように指を茂みの奥へと向けてから…


 「行くよ?」


 クーロから、合図が聞こえてきた。


 だから…


 「あ…」


 俺は返事をしようとした。だけどその瞬間…


 ドスン…


 すぐ後ろに、新しい大きな足音が聞こえてきた…


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