閑話 シルエット…
タイトル通り、閑話です
時系列はそのへんで…
もうこの時間に起きることが、早くも体のくせになっているのだろうか。
まだ朝早い時間。真っ暗な夜空、その夜空を太陽がじわじわと青く照らし始め出す時間。俺はそんな時間に目を覚ました。
まだまだ目が重く、というか体全体が重い。寝返り以外の動くことすべてが億劫で、布団から出ようという気持ちがこれっぽちりも湧いてこなかった。やっぱごめん、寝返りも億劫だ。
ただ、相方は違うようだ。
仰向けの状態で起きたから、目が覚めて何もやる気が起きない俺は、ただぼけーっとなし崩し的に暗い天井を見つめていた。気づくと、また寝てしまいそうだった。そんな怠惰な俺の視界の端で、何かが動いた気がした。
俺は動いた方へと視線を向けると、相方であるクーロがベッドから身体を起こして目を擦っていた。まだまだ眠そうだ。だけど、俺とは違っていた。恐らく俺なら、目を擦ることなくまたベッドに潜るだろうから。だから、クーロのまじめさが伝わってくる。
「起き、てる…?」
クーロから寝ぼているかのような声が聞こえてきた。
返事をするのもめんどくさい。だから、まだ寝ていることにして、無視することにしよう。俺はそう決めた。横になっていることも、”寝る”って言うしね。
首を小さくコクコクとしているのが、横目に見える。クーロは眠気と戦いながら、少しの間返事を待っていたみたいだった。だけど返事がないことが返事だと受け取ったみたいだ。
バサッ…
そんな感じの音がクーロから聞こえてきた。
俺は音に吸い込まれるように、音がした方、クーロへと視線を向ける。
薄暗い部屋の中、ほのかに見える影から、どうやらクーロは自分にかかっていた布団を剥ぎ取ったらしい。そして少しだけ、さっきよりも座高が高くなっていた。もしかしたら、座り方を変えたのかもしれない。
少しダボっとした服、そして胸がないことから、服に引っ張らられるところがないせいでダボっとした印象は強い。だけど、引き締まったウエストと姿勢のよさから、背筋がきれいな曲線を描いているのが分かった。
胸はない…
だけど、朝見るにしては刺激が強かった。いや、朝じゃなくてもか…
これに胸があれば…
俺は心の中で、本当に悔やんだ。そうすれば、タイプだったのにと…
でも単純に、顔が良くて胸が大きい人がただタイプという気もするが…
俺がそんな、悲しい劣情をを込めた視線を向けていると、急にクーロが下で寝ている俺の方に顔を向けてきて…
「寝てるよね…?」
一瞬だけ、胸が大きく跳ねた。
この暗さ、人の輪郭は分かっても、パーツの状況までは分からない。なのに、なんで気づいたんだ…
不思議でしょうがなかった。そして、邪な気持ちを向けていたことに気づかれるのが恥ずかしい。
でもこれ、邪なのか…?
まぁ、邪ってことでいいか。
だから俺は、死んでいる。そう自己暗示をかけながら、俺はただ時が経つのを待った。
そしてクーロはちゃんと勘違いしてくれたみたいだ。コテッと不思議そうに首を倒してから、また正面へと向き直った。
ふー。
心に平穏が戻る。無駄に緊張して、少し目が冴えた気がする。
もう、起きようかな…
俺がそう思ったとき、クーロの動きがあった。
暗さから、今はシルエットしか見えない。そんなシルエット、詳しく言えば、クーロの手が、服の裾があるであろう腰にへと手がかかった。
ドキッ…
心臓が急に跳ねる。今まで停滞していた血流を、全身へと送り出しているみたいだった。身体が一気に、布団による温かさとは違う熱で覆われる。
クーロのそこまでの動きですら、続きの光景が起こることへの期待を昂らせているみたいだ。
そしてクーロのに動きがあった。
じわじわと上がり始める手…
その手が掴んでいる服の裾が徐々に上がっていくことが、いやでも邪な気持ちを駆り立ててくる。
女性のシンボルといってもいい部位が見れるのではないかという…
上がってくる手、その手はお腹の当たるまで来ただろうか。ダボっとしていた服とはまったく異なるシルエット、細くてきれいなウエストであろうところが見え始める。
そしてその手が段々と上へと上がってくる。
きっと、お腹は通過しきった。だから次に通過するのは…
期待が昂る。
クーロの胸は貧、いや絶乳…
そんなのは関係ある。だけど今は、今だけはないっ!!!
上がり続ける手…
その手が、俺が期待している到達点まで上がって…
上がって…
そして…
落ちた…
へ…?
色々とスンという気分だった。期待したものが、期待の一歩手前でおじゃんにされたから。
結局、クーロの手が上がった位置は、胸の一歩手前までだった。
生殺しすぎる。
ここまで、期待させたのに…
あーーーーーーーーっ!!!!
俺が残念な気持ちでいると、俺がさっきまで凝視していた人物がこっちへとバッと振り向いてきた。
バクッ…
心臓が飛び跳ねたみたいだった。そして…
「君、起きてるよね?」
クーロの声が聞こえてくる。
だから俺は、必死に息を殺す。今この状況、起きているという事実でさえまずそうだったから。でも、そんなに人生は甘くないみたいだ。
「起きてるよね?」
クーロの中では、すでにそう決めつけてるみたいだった。
怖い…
声色ですら怖い。だけど今俺が取れる最善の手、それは今取っている手だけだ。それ以外、思い浮かばない。だから俺は、だんまりを続ける。
でも…
「へー。まだ君は寝たふりするんだ~。」
クーロ様には、お見通しだった。
それでも、だんまりを続ける俺。その俺にクーロ様が…
「服ひん剝いて、外に…」
「すいませんでしたーーっ!!!!」
飛び起きて、俺は盛大に土下座した。
丸裸で、外になんて恥ずかし過ぎる。きっと死ねる。
だから俺は土下座することに、何のためらいもなかった。
そしてきっと、土下座が効果があったのだろう。クーロは俺に優しい笑顔を向けてきてくれた。
こうして俺は、なんとか許して…
「許さないからね?」
「ほんとうにごめんなさい…」
どうかそれだけは…




