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森の中で…

 今俺たちは森の中にいる。そして今この瞬間、クーロが風魔法を使ってから声を張り上げてきた。


 「君っ!今だよっ!!」


 その言葉に従うように、俺はクーロの魔法で飛ばされていったゴブリンへと急いで近づく。そして、倒れているゴブリンの胸に向かって短剣を…


 短剣を…


 突き刺す…


 この感触、何回やっても慣れないな。やっぱり短い分だけ、こう、短剣が肉を貫通する感覚が…


 止めておこうか、これ以上は。


 でも、やっぱり気持ち悪い。いつか慣れるような。でも慣れるってことは、そんだけ長い間俺の仕事はこれだけっていう…


 いやだめだ。これ以上は考えてはいけない。だって、気づいてしまうから…


 俺が役立たずだってことを…


 クソが…


 とぼとぼとクーロの元へと俺は歩いていく。そんな満心創痍な俺にクーロが優しい顔を向けてきてくれた。


 「おつかれっ!君。」


 癒される。やっぱ顔が良ければ人生イージモードって、あれマジだよな。だって、クーロの向けてきてくれる笑顔だけで心労がマシになるんだから。味方のQOLあげて、その見方が結果的に自分のQOLを上げる。これが幸せスパイラルか。でもそれならなんで、俺のQOLはなかなか上がらないのだろうか。


 それは、俺の顔が…


 うっせぇわっ!!!


 「なんか君、今日は顔がすごいね。」


 この言葉、クーロはどういうつもりで言ったのか分からない。だけど俺にはこの言葉が…


 「うっせぇわっ!」


 「へっ…?あっ、なんかすごく表情が変わるなって言いたかっただけで、君の顔があれなことにはなんとも言ってないんだけど…」


 えっ、あ…


 「そっか、ごめん…」


 俺は素直に謝った。だけど、なんか違和感がしたんだよ。どこがかと言うと…


 「なぁクーロ、俺の顔が”あれなこと”ってどういう意味だ?何かそう言う言い回しって、確実に良い意味ではないような気がするんだけど…」


 「そ、そんなことはないよっ!?そこはかとなく、いい具合だと思うよ…?」


 クーロが視線をあたふたさせていた。


 「ねぇクーロさん。人を褒める時って、そんなに目が忙しくないと思うんだけど。それにいい具合…?俺、そんな褒められ方されたことないんだけど…」

 

 「そうなのーっ?それは君の元いた世界が変わってるだけじゃないかなーっ!?」


 すごく、白々しかった。


 だから俺は、近くでクーロの目を見つめる。だけどクーロの目は、俺の目をチラチラと見てくる。だけど、すぐに外れる。


 こいつ…


 そんな忙しない視線の中で、俺の視線にクーロは何か感じ取ったのかもしれない。


 「そう言えば今日は、ここまですごく好調だよね?」


 このタイミングのこの言葉、どう考えても誤魔化しにしか感じない。というか、実際そうだろう。


 俺はクーロの顔をじとーっと見つめる。するとやっぱり、視線が合う度にクーロは視線を忙しく外してくる。


 ほんと、失礼なやつだよな。人の気にしていることを、ずばずばと…


 こいつ、人としてどうかしてるんじゃないかっ!?俺はクーロの絶乳に関しては、すごく気を使っているというのに…


 ほんと…


 まぁでも確かに…


 「そう、だよな。」


 そう、今でゴブリン5匹目だ。今までが最高で3匹だったから、確実に良いペースだ。今がまだ昼過ぎだから、このままのペースでいけば二桁いってもおかしくない。


 ほっ…

 

 そして、クーロから安堵の音が聞こえてきた。やっぱりこいつ…


 まぁ、いいか。


 「クーロどうする?このまま、まだゴブリン狩るか?」


 「うん、狩ろうよ。だって時間的には全然問題ないし、それならいけるとこまでいった方がいいと思うんだよ。」


 「そうだな。」


 ということで俺たちは、更なる記録更新を目指して、狩りを続けることにした。




 きっと日が少ないせいで暗い森の中を、俺とクーロは音をたてないように進んでいく。クーロが左を、俺が右側を警戒しながら…


 視線を、進む先、そして右側へと交互に向けていく。見えている景色はすべて、暗い森。そしてその中に、自分のテリトリーと言い張っているかの如く、ある程度の区間を開けて乱雑に立っている。


 ほとんど変わらない景色、そんな景色の中を、少しの違和感も見逃さないように神経を研ぎ澄ます。聞こえてくる音は、俺とクーロがどうやっても立ててしまう歩く音、そして遠くから聞こえてくる何かの泣き声だけだ。


 薄気味が悪い。


 この感じの悪さは、どうやっても慣れることはなさそうだ。いやきっと、慣れてはいけない部分であり、身体がちゃんと識別してくれてるのかもしれない。この不気味の悪さをあたりまえにすべきではないと…


 そんな森の中を進んでいく。


 そして…


 視界の端で何かが動いた。


 「クーロ、ストップ…」


 俺はそう呟いて、木の陰に隠れた。


 クーロも俺の声と、それから動きを見て、俺と同じ方向から死角になるように身を隠す。


 俺は違和感を感じた方に視線を向ける。すると…


 3匹のゴブリンがいた。


 それを知らせるために、俺は手でいた方向を指す。クーロもそっちに視線を向けてから、また俺の方に視線をもどして、小さく頷いた。クーロも認識できたみたいだ。


 俺は一応、指で3を作って、クーロへと見せる。クーロはそれを見て、また頷いた。


 俺が3匹いるという合図を認識したうえで、クーロから見ても3匹だったみたいだ。


 「どうする?」


 俺は小さく呟いて、確認を取った。


 俺たち二人は、一応俺が止めを刺してはいる。だけど、どう考えてもやるかどうかの主導権を握っているのはクーロだ。クーロが無理だと思った時点で、俺たちは退避する。クーロが魔法を当てられない時点で、話にならないから。


 クーロはじっとゴブリンがいる方を見つめている。思考中みたいだ。俺もそれに釣られるように、ゴブリンへと視線を向けた。


 今やつらは、きょろきょろとしている。見るからに獲物の探索をしている。


 ということは、やつらがどれだけ警戒しているか分からないが、確実に分が悪そうだ。あれだけきょろきょろとされていたら、きれいに奇襲を成功させるのは難しい。それに、対多数戦にもなりやすい…


 これは大人しく撤退かな…


 俺がそう思っていると…


 「せっかくだからやってみる?」


 クーロから、意外な言葉が出てきた。


 「やるのか!?」


 「うん。今日はここまで調子いいし。それにいざという時に、試してみたいこともあるからね。」


 なるほど…


 正直、無謀な気もする。だけど、俺が攻撃手段を持ってないみたいだもんだから弱腰になっているだけで、そこまで悲観的に考えるほどのことでもないのかもしれない。


 「分かった。」


 俺の返事に、クーロは小さく頷いた。


 「じゃ、このまま見つからないように、近寄ろっか…」


 「オッケー…」


 こうして、狩りが始まる…

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