火力…
さて、今の俺たちが何をしているかというとだ…
またこの前と同じ様に、森の外の木に背中を預けて草原を見つめている。そう、俺たちは命からがら、ホブゴブリンからどうにか逃げ切ったんだ。
ほんと苦し…
ごめん、嘘。そこまで苦しくはなかった。だって途中、クーロが俺に向かって魔法をぶっこんでくる余裕があったんだ。あれで逃げるのに必死だったとは、さすがに口が裂けても言えないわ。
まぁ、後ろからあんな大きな図体で追いかけられるのは当然怖くはあったのだけれど。
でもあれかもしれない。もしかしたら俺たちも成長したのかもしれない。だって、今回はホブゴブリンにだったけど、これでゴブリンから逃げるのも3回目。逃げることに手慣れて…
手慣れて…
なんだろう、この敗北感。逃げることになれる、それってただの敗北者なのでは?
いや、俺のステータスは確かに敗北者…
うっせぇわっ!!!
でも今回はしょうがなかったんだ。だって…
「クーロの火魔法も、ホブゴブリン相手には厳しそうだな。」
「そうだね。私も、手に軽いやけどだけで終わるとは思わなかったよ。」
そう、俺とクーロは、お決まりのように陰からこっそりとホブゴブリンを襲撃した。卑劣…?そんなの知るかっ!
こっちは生活費がかかってんだ。必死なんだよっ!!
だけどまぁ、結果は明らかだった。
クーロの火魔法はホブゴブリンの右手辺りにしっかりと直撃した。だけど、ホブゴブリンに当たるとすぐに、その火は消え失せてしまった。火が消えて残っていたのは、ホブゴブリンの右手にできた軽いやけどのみ。正直、勝てる未来が見えなかった。
でも、痛みがないというわけでもなかったみたいだった。だってホブゴブリンも、痛いからあんなに追いかけてきたんだろうし。そうじゃないと、追いかけてこないは…
いや、ただ単に急に襲われたからの可能性も…
というか、その可能性の方が高そうな気が…
それに最後の悪口の後の方が、追いかけてくる勢いが凄かったような…
具体的には5割り増しくらい…
いや、気のせいだな。気のせいに決まっている。だってそうじゃないと、俺たちがホブゴブリンに勝つる未来がほんと皆無な気がするから。だから、きっと気のせいに…
「なぁクーロ、街にもどったらさ、武器や行ってみないか…?」
クーロが不思議そうな顔を向けてきた。
「ん?急にどうしたの?」
「いやそろそろ、火力アップの必要があるような気がしてな…」
あれだからな。勝てる未来が全くと言って見えないとか、そう言うわけではないからな。たまたま、今たまたま、火力を上げるべきだなと思っただけで、ほんとホブゴブリンとはまったく関係ないからな。ほんと、たまたまだから…
そして、俺の提案にクーロは視線を落としている。この話に、クーロ的には何か思案する要素があるのかもしれない。
あれかな?
今クーロは赤いローブを着ている。だから、そのローブを買ったお店を贔屓してもいいか悩んで…
いる、のかなとこの時の俺はそんな浅はかなことを思っていた。
「武器屋はいいだけど、武器屋とか防具屋、私行ったことないよ?」
行ったこと、ない…?
はぁっ!?
はぁーっ!?
俺は何故か震える右手で、なんとかクーロが着ているローブを指さす。
「そ、そのローブは…?」
俺の言葉にクーロはあっけらかんとしながら…
「あっ、これ?その辺にあったお店で買ったんだよっ。きれいな色だったからついね。それに、魔法使いといえばローブ。だから、まずは形から入ろうかなと思って。」
俺はクーロが言っている意味が分からなかった。というか、分かりたくなかった。
俺が言うのもあれだけど、こいつ…
冒険者舐めてるのかっ!!!!!?
いやいやさ、普通さ、ゲームだったらその辺に落ちているやつを着るけどな。でもそれってさ、その武器や防具のステータスが分かるからする話なんだよ。でもさ、俺たちはそんなステータスを把握する能力なんてこれっぽちも、ほんとこれっぽちも持っていない。ならさ、分からないんだからさ、エキスパートがやっているだろう武器屋なり防具屋なりで普通買うだろ?なのにこの女はその辺のお店で…
その辺のお店…
舐めてる…
ほんと舐めてる…
なんでそんあファッション感覚なの…
こいつ、絶対に頭弱いだろ。弱いのは、見て分かる胸部装甲だけにしといてくれやっ!!!
あぁ~~~…
なんというか、この先の未来が心配になってきた。
あ~、しんどいよ。
お願い。
誰か、誰か俺を拾い直してくれない?
頼むからさ…
50ユーリあげるから…




