豚マッチョ…
さて、今はどれくらいの時間なのかと言うとだ。お昼過ぎだ。きっとそれくらいだったはずだ。恐らくだけど…
なんでそんなに時間間隔がテキトーなのかって?たぶんすぐに分かると思う。だって…
「おぉぉぉ~~~~~~」
「君、待って…、待ってよーーっ!!!」
今の俺たちが置かれている状態、みんなはもう分かってしまったかもしれない。だから、パッパッと言おうと思う。そう、それは…
「あいつ…、図体の割に早くないかー!?」
「それはそうだよ。だって、ホブゴブリンなんだからっ!」
そう、俺とクーロはホブゴブリンに追われている。
ホブゴブリン…
どうやら後ろのあいつはゴブリンの進化体らしい。ゴブリンと同じように不潔で汚らしい緑色の肌、そして手足はかなり太いけどたくさん蓄えた脂肪。簡単に言うとだ、でかい豚マッチョだ。
辛辣だって?いいんだよ。魔物なんだから。どうせ言っても分かんないって。
そんな図体のやつが、小さいながらも足音をさせながら俺たちの方へと向かってきている。そして一歩踏み出すたびに、胸やらお腹やらの脂肪が揺れている。エロさなんて全くない。だけどやっぱりさ…
クーロとはえらい違いだ。
だって、クーロの胸囲のあたりは全くもって…
「ねぇ君…。今この場で、私が殺してあげようか…?」
おかしい。俺がまだ心の中で感想を抱ききる前に、クーロから射殺す様な視線と言葉が飛んできた。こいつ、エスパーか…?
「クーロ、女の子がそんな物騒な言葉を口にしたらダメだろ?」
少し、おチャラけてみた。するとクーロが…
「どの口が言ってるんだよっ!!さっき、私の胸を何か言いたげに見てきてたくせにっ!!!」
おかしい…
クーロの中では俺が胸を見ていたことになっているらしい。実際見ていたけど…
そして俺は再度クーロの胸を見てみる。するとやっぱり…
クーロの胸は全くもって揺れていなかった。
「いや、見てないぞ…」
というか、コアな層以外は見る価値が…
「マジ死ね。ほんと死ね。」
クーロの顔がある位置へと顔を上げた。するとクーロは涙目だった。悪いことをしてしまったかもしれない。ただ無い胸を、全く無い胸を服の上から見ていただけだけど…
でも、しょうがないよね。男が女の人の胸を見てしまうのは、性なんだから。無い胸だったとしても…
俺がそんなことを考えていると、クーロの声が聞こえてきた。そう…
「【ファイアーボール】…」
こんな声が…
ファイア…
はぁっ!?
突如、クーロの手の先から火の玉が現れた。クーロの手の先にあった火の玉はパチパチと何回か音を立ててから、そして、俺の目の前を通り過ぎていった。
「うぉっ!?」
変な大勢で躱したから、口から勝手に変な声が飛び出した。
さっきの軌道…
どう考えても、ホブゴブリンではなくて俺を…
俺を…
「何してんだよ!?クーロ…。危うく、死ぬとこだったぞっ!!!」
俺はクーロへと言い放つ。だけどクーロの視線は俺とは全く嚙み合ってなくて、忌々しそうに外れていった火の行方を見ていた。
「おしい、もう少しだったのに…」
ぞわぁ…
もしかしてこいつ、本気で…
「なぁクーロ、俺が悪かったよ。だから許してくれない…?」
俺が頑張って作り出した媚びた声、その声に対してクーロは…
「嫌♪」
すごくきれいな声と笑顔だった。
そしてまたクーロは、指先に火を作り出し始めた。そして俺の方へと腕を伸ばして…
そして…
「ぐぎゃあぁぁぁあぁぁっ!!」
良いタイミングでホブゴブリンが怒声を上げてくれた。きっと、今も右手にある火傷の後が理由だろう。
あと本当に良かった。だって、ホブゴブリンが吠えてなかったら、きっと今頃俺の断末魔が…
はぁ…
クーロは一度ため息を吐いてから、腕だけを後ろへと向ける。そして…
「【ファイアーボール】」
ホブゴブリン目掛けて放った。
横から見たその絵は、すごくかっこよかった。
クーロから飛んでいった火はホブゴブリンのところへと向かい、そしてその魔法は…
シュン…
焼失した。ホブゴブリンに当たる前に…
……………
俺たちとホブゴブリンとの距離は、3メートル以上はあるからね。だからさ…
「クーロ、気にするなよ。」
俺は、走っているせいか、それとも恥ずかしいせいでか頬を赤らめているクーロに、そう優しく伝えた。
「死ね、マジ死ね。」
赤らめた顔でクーロは睨んできた。
「いや、俺関係なくね?」
「知らない。全部全部全部、君が悪いんだよっ!!!」
「横暴な…」
ただ、さっきの火魔法にホブゴブリンが身構えたおかげか、それとも、俺たちの逃げ足についてこれていないせいか、今俺たちとホブゴブリンとの距離はかなり開いている。このままいけば、なんとか逃げ切れそうだ。
クーロも同じことを思ったららしい。
「なんとか逃げ切れそうだね。」
「そうだな。あんな豚マッチョ…」
俺がここまで言葉にした、そのタイミングで…
「ぐぎゃああああぁぁあぁぁっ!!!」
ホブゴブリンが怒声を上げて、そして…
走る速さを加速させた。
「えっ…?えぇぇぇぇぇーっ!!?」
「もう、バカ。ほんとバカーっ!!!」
どうやら、魔物にも悪口は通じたらしい。
こうして、俺とクーロは森の外まで楽しいランニングを続けましたとさ。めでたし、めでた…
「めでたくないよーーっ!!!」




