ブライスともう少し会話を…
「あのさっ、すまん。言い過ぎたわ。」
ブライスから、俺へとそんな謝罪の言葉が来た。
「だからあのさっ…」
ブライスが俺に何か続けて言ってこようとしているみたいだ。でも、俺には分からない。分からないんだ。いらない子の俺が、人の言葉なんて理解できるわけないんだ。
うぅ…
死にたい…
俺別に、悪いことなんて何にもしていないのに。なのになんで、”いらね”なんて辛辣な言葉を吐き捨てられないといけないんだろう。俺は無理やりこの世界に連れてこられただけなのに。なのになんで、なんで…
ツンツン…
俺の肩にそんな振動が走る。位置的にクーロだろう…
「君、そんなすねないでさぁ…」
やっぱりクーロみたいだ。声でもわかるけど、”君”って言葉で声質なんてなしでもすぐにわかった。そう言えばもうクーロは、俺のことレミーロって言う努力もしてくれなくなったよな。レミーロ、俺にお似合いの名前のはずなのに…
うぅ…
で、まったく反応しない俺に焦れたのか、ブライスが…
「ほんとすまんかった。だからさ、そう机に張り付かないでくれよ。」
そう、レミーロの言葉通り、俺は今上半身から上を机に貼り付けている。そして指で、自分でも分からない何かを描いている。描いてたら魔法でも発現しないかな。こう火魔法でも…
するわけないか。いらない子の俺なんかじゃ…
あー、転生したいな。次は魔法の使える子に…
だからみんな、また来s…
「ねぇ君…」
クーロが呼んできた。だから俺は、クーロの方に顔を向けた。
「そういえばクーロってさ、昔は俺のこと頑張って名前で呼ぼうとしてくれてたよな。でも最近は…」
俺の言葉を聞くや否や、クーロが目を大きく見え開かせてびっくりしたような表情になった。そして、段々と視線をさまよわせて気まずそうな顔に移り変わっていく。
「いやそれはさ、あの、そういうことであういうことなんだよ。だから、あれがそれでこれがそれでそういうことで…」
何を言っているのか、まったくわからなかった。
でも、まぁ…
くくっ…
不思議と笑みがこぼれた。
「今君、笑ったよねっ。」
「いや、笑ってないけど…」
「いや、笑った。すっごく笑ったよ。」
いつものように、クーロがじとーっとした目つきで見てくる。だけど、いつもとは違って愛らしさがあった。そしてそんなとき、正面からブライスの声が聞こえてきた。
「そう言えばお前さんらっ、あれ聞いたか?」
「「あれ…?」」
「あー、すまん。あれじゃ分かんねぇよな。勇者様と聖女様の話だ。」
勇者と聖女…?
「俺は知らないな。」
「私も…」
俺とクーロの返事を聞くとすぐに、ブライスはまるで子供のように目を輝かせ始めた。いやもしかしたら、その前からキラキラとしていたのかもしれない。
「そうか、そうなのか…」
そして何故かブライスが焦らしてくる。でもまぁ、勇者と聖女というワードだけで、かなり大層な話というのは伝わってくる。
「ブライス、いいから早く言ってくれよっ!」
「そうだよっ!」
「そうだな。なんとな…」
ゴクッ…
「この世界に勇者様と聖女様が降臨されたらしいんだっ!」
「へー…」
俺的には、何それ?くらいだったんだが…
「えっ、そうなのっ!?」
横にいたクーロは、けっこう良い反応をしていた。
「あ~、そうなんだ。すげーよな。あの勇者様と聖女様だぜ。まじで感激だぜ。」
「ほんとだよねっ!」
なんだか二人だけ、いや俺だけ二人の熱量についていけない。
「その勇者様と聖女様っていうのはすごいのか…?」
二人の話に付いて行くために、俺は尋ねた。すると二人は、目をまん丸に見開いた。
「お前さんっ、勇者様と聖女様を知らないのか…?」
ブライスの信じられないという言葉。それとクーロは…
「そうだよ。違う世界から、召喚…」
言葉を続けるほど、徐々に言葉の音を失っていった。
違う世界からの召喚…
つまり、俺とあの女の子二人の話だろう。そして、勇者と聖女は二人。召喚されたのは3人。俺はここにいる。つまり、勇者と聖女というのは残り二人の…
俺は死にたくなった。惨めすぎて…
こうして、ブライスとの雑談は終わった。この後、ブライスが何を言っていたのか俺は憶えていない。だけど、俺は俺なりに頑張ろうとだけ思った。
ついでに言うとだけど、クーロは寝る前まで俺を可哀相なものを見る目で見ていた。
止めてくれ、クーロ。その目は、俺に効く…




