俺たちってさ…
さて、今はお昼ごろくらいだろうか。今俺が、いや俺たちが何をしているかと言うと…
「おぉぉぉ~~~~~~…」
「ちょっ、君っ!待ってよーっ!?」
走ってる。超走ってる。森の中を、全速力で。いや、走っているのは走っている。ただもう少しだけ正確に言うとだ、逃げている。ゴブリン3匹から…
全速力で…
何故こんなことになってしまっているかと言うとだ…
「なんで、射程距離見間違えるんだよっ!!!3メートルしか飛ばないくせにっ!」
「っるさいっ!!!」
クーロが顔を真っ赤にして、言い返してきた。
そう、言葉の通り、クーロが射程距離を見間違えたからだ。
前回と同じようにお金稼ぎのために森へと潜っていた俺たち、そんな俺たちの目の前には、ゆったりと座り込んで楽しそうに談笑しているような3匹のゴブリン。しかも、俺たちに全く気付ていない。どう見てもチャンスだった。奇襲を成功するだけで一攫千金…
いやそれはないけれど、ただ、楽してあぶく銭を手に入れれるはずだった。それなのに、それなのにこの女が…
「きっちり射程3メートル…」
「うるさいよっ!!!君なんて、そんな粗末なものしか持ってないくせにっ!」
「粗末っ! 粗末じゃねぇよっ!!ちゃんと、平均はあるわっ!!!」
「ないよっ!」
「あるわっ!!!」
俺とクーロは、二人で並走しながら罵り合う。時折、肩をぶつけ合いながら…
正直危ない。でも、俺にだって引けない戦いがあるんだ。
だって、クーロが使った言葉のチョイス的に、どう考えても、俺の相棒のことを指しているようにしか聞こえない。なら、それなら、俺は引くわけにはいかない。だって俺の、俺たちの尊厳に関わっているのだから。
「どう見てもないよっ!だって、どこからどう見ても短いもんっ!」
「見てっ!?クーロのえっち…」
「えっ…、君今、何の話してるのっ!?」
「俺の相棒の話だろ?」
「あいっ…。違うよ。そんな粗末なものの話なんてしてないよっ!」
クーロの頬が少しだけ赤くなった気がした。だけど走っていて既に頬は赤いから、気のせいかもしれない。そんなことよりも…
「粗末…。ほらやっぱり…」
「あ~、めんどくさい。そんなのいいから…」
クーロはそう口にして、後ろを振り返った。そしたらすぐに、足を緩めだした。俺もクーロに合わせるように走るのを緩めて、そして足を止めた。
「ハァハァ…。もう、ゴブリン達はいないみたいだね。」
息を切らしたクーロからそんな言葉が聞こえてくる。俺はその言葉の審議を確かめるために後ろを振り向く。すると確かに、ゴブリン達はいなかった。
だけどこの時俺の頭に浮かんできたのは、相対している俺とゴブリン、不意打ちのように見えないか角度からのゴブリンの投石。それによって俺は…
それと、身を隠してゴブリンに狙いを定める俺とクーロ、まるでその俺たちの隙を狙ったかのような、後ろからの奇襲。そしてクーロが…
ブルルッ…
身体に寒気が走った。
「なぁ、クーロ…」
「何?」
「ゴブリン、不意打ち…」
俺は素早く伝えるために、端的に単語だけで伝えた。いや、言葉を考える余裕がなかっ…
いや、別に余裕がなかったとそういうのではないんだからね…
そして、俺の言葉を聞いたクーロはと言うと、真っ赤だった顔がサァと顔が真っ青になって行った。面白いくらいに。どうやら、思い出してくれたみたいだ。俺たちが出会った惨劇を…
「ねぇ、君がどうしても逃げたいんだったら、森の外まで一緒に逃げても上げてもいいよ?」
一緒に…
不思議と『一緒に』という部分だけが小さかった。だけどしっかりと、俺の耳に届いた。
「クーロは優しいな。でも大丈夫だぞ。この森ももう3度目だからな。俺”独り”でも、森の外まで抜けれるから。だからそんな気を使わなくても大丈夫だぞ。」
クーロは目をパチパチとさせてから、顔を引きつらした。
「いや、それでも心配だからさ。だからそんな気を使わなくたっていいよ。」
「使ってない。ほんと使ってないから。」
「いや、それでも…」
クーロが何か言おうとした、その時…
ガサッ…
草木が揺れる音がした。それだけだったのに…
「おぉぉぉ~~~~~~…」
「うぁぁぁ~~~~~~…」
いっせいに、俺たちは森の外に向かって駆け出した。
こうして、俺たちは森を抜けた。
ゴブリン3匹、いや物音で…
なぁ、思うんだ。俺たち、へぼすぎないか…?




