初給料を…
おまたせしました
前から続いてます
あと10分おきに、何話か流します
「そろそろ自分で歩けそうだから、もう大丈夫だよ。」
背中に乗っていたクーロから、急にそんな声が聞こえてきた。
「そーか?」
「うん、ありがと…」
クーロの言葉をそこまで聞いて、俺はクーロを背中から下ろした。
俺たちは今、街の前の門まで帰ってきていた。だからきっと、クーロは他人からおんぶされてるのが見られたくなかったんだろう。当たり前か…
こうして俺たちは、門を抜けていく。
クーロの足取りは少しおぼつかない。それでも、問題になるほどでもなさそうだ。
帰ってきた街、街並みを見つめると朝出た時とは少し違っていた。
薄暗さが感じ取れる。まだ夕方だ。だけど、朝出た時よりも日の強さが落ちてるのだろう。夜に空き家を見た時の不気味さまではないが、それでも多少の不快感がある。
ただそんな街並みも、出かけた帰りの人だろうか、なかなかに人が多い。だからか、人の多さで気にならなくなってきた。
「だいぶ、人が多いな。」
気づいたら声に出ていた。
クーロはその言葉が自分に言われたものだと思ったみたいだ。
「そうだね。今は、お買い物の帰りの人もいれば、早めにクエストを終えた人たちもいるみたいだからね。」
「なるほど…」
「うん、そうだよ。」
クーロの横顔から、柔らかい微笑みが見て取れた。
「すぐに、冒険者ギルドに行く感じか?」
俺がそう尋ねると、クーロは微笑みだった顔から困ったような顔に移り変わって、ゴブリンの耳が入った布袋を軽く掲げた。
「だね。こんなの、長いこと持ち歩きたくないよ。」
「それはそうだな。」
「うん。」
こうして、俺たちは冒険者ギルドへと…
「君見てっ!あの男の子、すっごくか…」
パシーンっ!
俺はクーロの頭をしばいた。
「君っ、なにするんだよっ!?私、頭怪我してるのにっ!!!」
そっか…
「頭怪我してるからか…」
だから、あんな幼い子に欲情…
「ねぇ君、今失礼なこと考えてない?」
!
「ん?考えてないけどー?」
「ほんと…?」
クーロが疑うように見てくる。だから俺は、すでに物理的に傷ついている彼女に気を遣うことにした。
「ほんとほんと。こいつマジやべーなーくらいしか…」
「思ってるじゃんかっ!」
クーロが元気にツッコんできた。でもさ…
「いや、思うでしょ。あんな子供に発情してたらさ…」
「発情なんかしてないよっ!ただ…」
クーロがもじもじし始める。
「ただ?」
「お腹の奥の方がなんかこう…」
そこまで言うと、クーロがハァハァと息を切らしだした。
俺はクーロのことは無視することに決めた。
誰か、お巡りさんを呼んでください。ガチのやつです。
俺とクーロはようやく、冒険者ギルドへと辿り着いた。
向かう間、別にこれと言った問題はなかった。ただ、クーロが男の子を見るたびにハァハァと息を切らす以外…
そして、その保護者から軽蔑の視線を向けられる以外…
そしてそして、何故か俺までそんな視線を向けられること以外は…
あぁ…
なんで俺は、こんな人に拾われてしまったのたろう…
そんな悲しい気持ちを胸に、俺とクーロは冒険者ギルドの中へと入っていった。
中に入ると、なかなかの香ばしい臭いが漂っている。こう、男の…
止めよう…
カウンターの方は、少しだけ列ができていた。俺たちよりも、早く帰ってきてたグループだろう。俺たちもそこに並んだ。
そして並ぶこと少しして、ようやく俺たちの番がやってきた。受付はもちろん、行く前にお世話になった人だ。
俺たちが話しかけるより前に、リリスさんが先に話しかけてきた。
「クーロさん、それに"たけみーろ"さん、おかえりなさい。」
次もまた、俺の名前は"たけみーろ"らしい。
んー…
これはどっちが正解だ?ツッコむのと、そうじゃないの…
んー…
「リリスさん、ただいま。」
先にクーロが、返事をしてしまった。無視でいっか。
「ただいま、リリスさん。」
すると…
「はぁ、つまんなっ…」
リリスさんが俺の方に吐き捨ててきた。
「えっ、ツッコまないだけでっ!?」
リリスさんは俺は一瞥だけして、クーロの方に視線を向けた。
「で、クーロさん、今日はどうでした?」
「無視っ!?」
また、一瞥だけしてきた。一瞥だけ…
「クーロさん、どうでした?」
「また無視…。俺なんか悪いことしたっ?そんなに、最初ツッコまなかったのがダメだったっ!?」
俺がそう言うと、リリスさんが忌々しそうにこっちを向いてきた。
「"たみーろ"さん、話が進まないので静かにしててもらってもいいですか?」
たみーろ…
「ゴロ悪過ぎだろっ!いや、今更だけどさぁ…」
「お似合いかと…」
「おいっ!」
そして、横からちょこちょこと引っ張られた。クーロに…
「私も悪くないと…」
俺はリリスさんの方に視線を向けた。
「リリスさん、今日はゴブリンを三匹倒してきたんですけど、どうしたらいいですか?」
「えっ、無視!?」
「ゴブリン三匹ですか?初クエストにしてはなかなか…」
「そうですか?」
「そうですよ。」
「ねぇ、二人ともっ!?聞こえてるよね?」
何か、聞こえてきた気がした。
なるほど…
初クエストにしては、なかなからしい。
「けっこう大変だったんで、嬉しいですね。」
「それは何よりですね。」
「ねぇ、二人とも…」
さて、本題だ。
「それで、耳とか取ってきたんですけど、どうしたらいいんですか?」
「今出してもらえたら、ここで換金しますよ?」
なるほど…
「クーロ、頼んだ。」
「さっきまで私のこと無視してたくせに、こういう時だけ…」
クーロは悲しげな声でぼそぼそと言いながら、布袋ごとリリスさんに手渡した。
受け取ったリリスさんは中身を確認してから、またこっちへと顔をあげた。
「はい、ちゃんと三匹ですね。確認しました。」
そう言い終わると、リリスさんはカウンターの内側でゴソゴソし始めた。
そしてすぐに、小さなトレーみたいなのを内側から俺たちの目の前へと取り出した。何枚かの硬貨が入った…
どうやら、今回の報酬らしい。
正直ちょっと期待してしまう。前世ではバイトなんてしたことがない。そして、この世界での初めての報酬。つまり、初給料だ。いくら、低ランクのゴブリンだと言っても、心が踊る。
いっくらかな〜。
そして、そんな俺の期待を満たすように、リリスさんが報酬の金額を教えてくれた。
「はいでは、報酬の4500ユーリになります。」
1ユーリが1円…
つまり、4500円…
二人で2…
はぁっ!?
はぁーーーっ!?
こうして、俺の初クエストは終わりを迎えた。
2250円って…




