魔法剣…
すぐ、ほんとすぐ目の前にいる二体のゴブリン。そのゴブリンは俺をいたぶるためか殺すためかは分からない。だけど、俺目掛けて手に持った棒を振りかぶっていた。
俺はそのゴブリン達に向かって、ただただ死ぬことに対する悪あがきのために、魔法剣をめいいっぱい力を込めて振るった。
ゴブリンは俺の攻撃が無意味なのに気づいているのだろう。俺の所作をただ見下すように、不気味に口角を上げただけだった。
いつものように魔法剣が一瞬光り輝いてから、斬撃が飛び出した。
そして…
「「ぐぎゃぁぁぁっ!!!」」
ゴブリンへ浅い傷をつけてから霧散した。ゴブリン達が痛みで悲鳴をあげる。そして鳴き止むと、俺を睨みつけながら警戒するように後ずさった。一歩、二歩、数歩と。
おかげで、ゴブリンらとかなりの距離ができた。まだまだピンチではあるが、さっきの絶望感はかなり薄れている。そして少し視野が広くなった感覚がある。俺を警戒しているゴブリン達の姿も視界に収まっている。
ふー…
さっきのはなんなんだっ!?なんで、傷がついたんだ?あいつらに。今までは、何回やっても傷の一つもつかなかったのに…
ほんとうに、なんでだっ!?
頭の中に同じ疑問が何度も上がる。なんで短剣から出た斬撃で、今回だけは傷をつけれたんだっていう…
本当に良く分からない…
もしかして、ピンチになったら助けてくれる的なやつか?それとも俺の中の潜在能力が解放されてか。く、クーロへの思いか?別にそんな感情はないと思うけど…
分からない…
俺が疑問を抱いている間も、ゴブリン達は俺をじっと睨んでくるだけで距離を詰めてこない。
ならこれは、チャンスだ。
立ち上がる。短剣を思いっきし振りかぶる。で、念じる。いつもやつを…
出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ…
「出ろぉぉぉぉぉおおお~~~~っ!!!!」
いつものように斬撃が飛んでいく。ゴブリンに向かって良い速さでだ。
そしてとっさのことだったんだろう。ゴブリン達には避ける余裕がないみたいだ。せめて顔だけでもという感じで、ゴブリン達は手で顔を庇う。
そして…
ぼふっ…
いつもの音だけだった。
あれーーーっ!?
俺は訳が分からなくて、ゴブリン達を見つめる。
そしてゴブリン達は、自分の身体を見回す。手、お腹と不思議そうに…
で、こっちにまた視線を戻してきた。な、なんだか気まずい。
いや、落ち着け。戻って来い、緊迫感。
ふー…
訳が分からない…
もしかして、掛け声がいらないのか…?
俺は振りかぶる。力いっぱい短剣を握りしめる。そして、振り下ろした。
ブイーン…
いつも通りの斬撃が飛んでいく。そして…
ぼふっ…
掛け声は関係ないらしい。まっ、それはそうだよな。
ゴブリン達との距離は約5メートル…
この距離、正直"逃走"という言葉が頭をよぎる。俺がこの世界で唯一もらった役に立つ能力、身体能力があれば逃げ切れるんじゃないかとつい考えてしまう。クーロを抱えて…
難しいか…
難しいよな。抱きかかえて逃げれる余裕があるなら、さっきクーロを抱えた時にもう少しマシな結果になったはずだ。なら、無理だと思って方がいい。
それにこいつらは、石や棒を平気で投げてくる。そんな奴らに背後を見せたら、無駄な事故を起こす可能性がある。
だから…
はぁ…
残った選択肢は二つ…
最後まで魔法剣の性能にかけるか、それかこの長さ20センチで戦うか…
あ〜、どっちも嫌だなぁ…
でもさ、やらないといけないもんな。
俺は右手で持っている短剣に握力をかける。で、あいつらを見据える。俺が視界に捉えてるように、奴らも俺を、俺の動きを注視している。
相当警戒しているようだ。でも俺には…
ジリジリと緊迫した空間、その張り詰めた空気を、俺は斬り裂いた。魔力の斬撃によって…
横一閃に飛んでいく斬撃、それをあいつらはまだ警戒してくれるみたいだ。身体と顔を庇うように、肩から先を前へと差し出してきた。
俺はすぐさま、右側にいる棒を持った方のゴブリンに向かって走る。軽くカーブを描くように。
右側を選んだ理由?振りかぶって斬りつける時に、足が踏み込みやすいからだよっ!
俺が走り出して数歩踏み出した時…
ぼふっ…
いつもの柔らかい音がした。でも気にしない。端から期待してないからだ。だって、奴らの気を散らすためにやったんだから…
奴らは、音を聞いてすぐに、自分の身体を確認する。俺はその間にも間合いを詰める。
あと数歩…
そして、迫ってくる俺に奴らは気づいた。
でも、遅いっ!!!
慌てて、近い方は迎撃体勢を取る。棒を上へと振り上げようと…
ただ、もう俺は目の前だ。
俺は思いっきし斬りつけるつもりで、既に振り上げてる右手、その手にある短剣をめいいっぱい握りしめる。左足を地面に力強く踏み込んで、そして…
短剣ごと右手を振り下ろした。
「ッラァァァーっ!!!」
一瞬、瞳が光を捉えた気がした。でも、ほんの一瞬だった。
その短い刹那のあと、すぐに短剣に感触が走った。鋭利なもので、肉の塊を斬る感触が…
あまりにすんなりと刃が進むから、スッキリした感覚が胸に届いた気がした。その感触を、推し進める。で…
気づけば、右手が振り下ろされていた。
「ハァハァハァ…」
地面にはゴブリンだったものが転がっている。
ただ、まだ終わりじゃない。俺はもう一匹へと視線を移す。
するともう一匹のゴブリンは、ゴブリンだったものを見つめていた。そして、俺の顔を見つめてきた。恐怖で歪んだ顔を…
ガクガクと生きているゴブリンは足を震わし始める。そしてガサッと、地面へと腰から落ちた。そのまま、俺に背中を向けないように後ずさっていく。
そして、数メートル進み終えると、尻尾を撒いて逃げて行ってしまった。
終わった、みたいだ…
こうして、残ったのは俺とクーロ、それと、真っ二つに斬られたゴブリンだけだった。
12時過ぎにもう一話…




