また…
自分の手でゴブリンの初討伐を終えた後、俺たちはまたゴブリン散策をしていた。ちまちまとゴブリンを狩らないと生きていけないっていう、世知辛さを今すごく感じている。
誰か、俺を養ってくれないかなぁ…
はぁ…
そんな悲しい気持ちの俺に、クーロが話しかけてきた。
「ねぇ君、返り血がすごすぎて、見てるだけで気持ち悪くなっちゃうんだけど…」
すごく辛辣だった。せっかく俺、頑張ったのに…
もう少し、優しい言葉をかけてくれてもいいのに…
はぁ…
「いやでも、しょうがなくない?こんな短剣で殺らないといけなかったんだしさ…」
そう、俺はたった長さ20センチしかない短剣で仕留めないといけなかったんだ。どう考えても、しょうがないはずなんだ。
だけどクーロから…
「胸を一刺しすればよかったのに…」
そんな正論を言われてしまった。
「確かに…」
「だよね。君ってちょっぴり…」
クーロが気になるところで言葉を止めてくる。
「な、なんだよ。」
その言葉に、クーロはじーっと俺の目を見つめてきて…
「普通に馬鹿だなーっておもって…」
「結局言うのかよっ!!!!しかも、訂正までっ!!」
なんかこいつに言われるのは納得できない。こいつもこいつで、頭もやばいのに。頭もっ!
俺がちょっと思うところはあるものの、クーロは俺の言葉を聞いて、柔らかい笑顔を見せてきた。
まぁ、こういうのを言えるようになったのも、お互いに仲良くなった証かもな。
そして俺たちはまた、本格的にゴブリン散策へと戻った。
もうかなりの時間が立っているのか、太陽がてっぺんの位置から下がり始めている。少なくとも正午の時間は超えたみたいだ。
小休止を挟みながら、俺たちは散策をしている。そしてまた、良い獲物を見つけた。
当然、ゴブリンだ。今回も木に背中を預けて休んでいる。もしかしたら、ついてるのかもしれない。
俺はクーロの視線を送る。すると…
「さっきと同じ作戦で。」
そう返事があった。また、クーロが風魔法で飛ばして、俺が止めということだろう。代わり映えはしないけど、今の俺達からしたら金を稼ぐ上では最善のやり方だ。
俺とクーロはターゲットのゴブリンに気付かれないように、そ〜と目的地まで移動する。
移動する間も、ゴブリンには全く動く様子がない。もしかしたら、寝ているのかもしれない。それなら、かなりありがたい。
俺は自分の運の良さに感謝しながら、移動を続ける。
少しして、目的地まで辿り着いた。
俺とクーロは今、木陰で互いにしゃがんでいる。
「いける?」
クーロから確認の声…
二度目の決行。気持ち的には、少し余裕が生まれだしてたんだろう。俺は、さっきよりも気軽に頷いた。
それにクーロはニコッとしてから、ゴブリンの方へ向く。そして…
「いくよ?『ウインド…」
そう、俺たちは油断していたんだ。
ガサッという物音が、後ろから聞こえてきた。
「「えっ?」」
互いに振り向く。するとそこには、もう一匹のゴブリンがいた。手に木の棒を握った…
そして、俺たちの方へとニチャ〜という気持ち悪い笑みを浮かべてくる。
ゾワッ
とっさのことだったからか、それとも獲物として向けられた笑顔のせいかは分からない。だけど俺は、いやきっと俺たちは動けなかった。
そしてゴブリンは…
クーロ目掛けて、木の棒を素早く振った。
「きゃっ!」
クーロからそんな悲鳴が聞こえてきた。俺はその声につられてクーロの方へと視線を向ける。すると、クーロは正面から地に伏していた。
「クーロっ!!!」
そう叫ぶも、クーロからは反応がない。そしてすぐさま、視界にゴブリンが映った。クーロ目掛けて、木の棒を振りかざしているのが…
まずい…
そう思ったら、勝手に身体が動いた。クーロに向かって…
俺は素早く過ぎていく景色の中で、ただクーロだけを視界に入れる。そして、抱きかかえた。このまま逃げようと…
だけど、上手くはいかなかった。
急な動き出しで大勢が悪かったからなのか、人を抱きかかえて走ったことがないせいなのかは分からない。だけど、抱きかかえて数歩で転けてしまった。
結局、少しだけ距離が取れただけだった。
俺は急いでゴブリンの方へ振り向く。するとゴブリンは、俺たちへとゆっくりと嬲るように距離を縮めてくる。
やばいっ!
俺は少しでも距離を保つために、手で地面を掴んで、転んだままクーロを引きずる。
ただ、どう考えても歩む速さが違う。
俺は歩みを止めて、まだ持っていた短剣に力を込めて振る。ブイーンといつもの、斬撃が飛んでいく。
だけどやっぱり効いていない。
でも、多少は怯んでくれた。俺はその隙に、這って進む。少しでも…
それを何度も繰り返す。
斬撃を放っては、前へと。
効果はあった。ただバレてしまったみたいだ。
俺の目眩ましに、ゴブリンは付き合ってくれなくなった。
ぐっ…
このままじゃ…
無理なのは分かっていた。だけど、クーロが目を覚ましてくれたら…
俺はその希望だけで縋っていた。でも、人生はそんなに上手くいかないみたいだ。
「ギャハハハ…」
ゴブリンがもう一匹、目の前に現れた。きっと、俺達が最初に狙ってたやつだろう。
良いタイミングで…
ったく…
そして…
気づいたら、勝手に木まで進んでしまっていたみたいだ。もう、進めない。そして目の前には、二体のゴブリン…
既視感しかなかった。最初死にかけたときの…
「ははは…」
口から渇いた笑いが気づくと出ていた。
きっと、もう無理だなって悟ったんだろう。俺の脳が…
あ〜…
たぶんさぁ、クーロを捨ててたら逃げれなんだろうな。
だけどさ、救ってくれた恩人を捨てる?そんなの、無理だわ。
はぁ…
どうしたら良かったんだろうな。もっと、周囲に気を配る?そんなの当たり前か。
きっとさ、クーロに甘えてたんだろうな。どうにかしてくれるって…
嫌になるよ。ほんと…
俺が諦めてる間にも、ゴブリン達は俺たちへにジリジリ詰めてくる。
そして、目の前まで来た。
あ〜、死にたくねぇなぁ…
そんな俺の気持ちも知らずに、棒を持ったゴブリンは腕を振りかぶる。だけどさぁ…
やっぱり死にたくねぇよっ!!!
俺は棒のゴブリン目掛けて、短剣を握りしめて振りかざした。
そして…




