戦闘へ…
視線の先にはゴブリン。俺は当然気づいている。だけど、クーロからしたら斜め後ろ、死角になっていて気づいていない。
「クーロ後ろっ!」
「んっ?」
俺は必死に伝えるが、クーロは言葉の意味を咀嚼しきれてなくて、後ろを振り向くこともできてない。ゴブリンがそこにいるのを気づくなんてもってのほかだ。
そんな中、ゴブリンは手を振りかぶる。そして…
ゴブリンの視線の先は…
クーロだ。
まずいっ!!!
俺はとっさにクーロへと飛びついた。
「へっ?」
クーロの抜けた声が漏れる。そしてそれとともに、俺とクーロはその場から転がった。
とりあえず、これと言った痛みはない。どうやら、ゴブリンのパンチは外れてくれたようだ。
「君っ!いきなり何するんだよっ!!それに手っ!!!」
クーロが俺の下で騒いでいる。手から柔らかい地面の感触が伝わってくるが、今はそれどころじゃない。
俺はさっきまでいた場所を振り向く。すると、奴がちょうどこっちをギロッと睨んできたとこだった。
堀が深いとかそういうレベルじゃない。人よりもギョロっとした瞳による視線、それだけで身体がすくんでしまうのを感じる。でも、前の体験が多少は活きてるのかもしれない。一瞬、気圧された割には、心が後ろ向きになっていない。
「クーロ、ゴブリンっ!!」
「ゴブリンなんて今はどうでもいいから、そこからのいてっ!手、離してっ!!!」
何故かクーロが騒いでいる。別に、クーロなんて触っていないのに…
とりあえず、俺はゴブリンを視界に収めたまま立ち上がる。そして、短い短剣を奴へと向ける。牽制、のつもりだ。
「君、ほんと憶えといてよっ!!!」
後ろから聞こえてくる。それよりも…
「クーロっ!魔法、どれくらいの距離なら当たる?」
「なんで、君はそんなに冷静なんだよっ。私の…」
ん?
「なんだ?クーロ。私の…」
「なんでもないよっ!3メートルあれば当てれるよ。」
3メートル…
「短っ!!!」
「っるさいっ!!!」
いや、身近過ぎだろ。それ、あんまし魔法の意味ないじゃん。槍とかでいいよ。この世界の魔法って、そんなに射程短いのかっ!?
ただ、ゴブリンとの距離は…
普通の車、縦幅一つ分くらいか…
いけるのか?
3メートルって言われても分かんねぇよ。
「クーロ、ここから当たるか?」
「当たるよ、たぶん…」
「たぶん…」
たぶんって…
嫌な言葉だなぁ。こんな時に。
はぁ…
「クーロ、それでいいからやってくれ。」
「うん、分かった。『ファイアーボール』」
クーロがそう言葉にした。すると、視界の端が急に明るくなった。火が沈んだときに、火でも炊いたかのような明るさだ。パチパチという音も聞こえだした。そして、その火がゴブリンに向かって、飛んでいった。
バレーボール、いや、サッカーボールくらいのサイズの火の玉が勢いよく。そして…
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ゴブリンにぶつかった。
ぶつかってすぐ、火がゴブリンの身体へと引火して燃え出した。その火はより大きくなって、ゴブリンを包んでいく。そして今はもう、ゴブリンの影が火の中で見えているだけだった。
というか…
「うぇ~~~…」
目の前で生身の生物が焼けるのはなかなかにきつい。グロすぎる。下手したら、これをことあるごとに見ないといけないのか…
俺、この世界でやっていけるのか…
ただ、隣のクーロからは声が聞こえてこない。さすが、先輩冒険者というだけは…
俺がクーロの方を視線を向けると、彼女は…
口元を手で抑えていた。
これって、もしかして…
俺は嫌な予感がした。
「なぁ、クーロ…」
俺の言葉に彼女は顔をこっちへと向けてきただけだった。
「もしかして、グロイのダメ?」
クーロは口元を抑えたまま、苦しそうにうなずいた。
ははは…
まじか…
俺は苦しい未来しか想像できなかった。
そして数分後、俺たちの目の前には、真っ黒い焼死体ができていた。
そして…
「あっ!!!!」
クーロから、嫌な声があがった。
正直反応したくなかった。でもさ、ここにいるのは俺とクーロだけなんだ。なら…
はぁ…
「どうした?」
「討伐確認にさ、ゴブリンは左耳を剥がないといけないんだけどさ…」
その先の言葉を聞きたくなかった。ほんとうに…
「ゴブリン、丸焼けだけど大丈夫かなぁ。」
ははは…
俺、生きていけるかなぁ。
こうして、ゴブリン初討伐を達成した。
色々と、前途多難そうだけど…




