戦え術…
俺とクーロは今、クエストをこなすために俺が前に捨てられた森へと向かっている。具体的に言うと、さっきまでいた町?の門を抜けるところだ。
ここって、町なのか?どうなんだろう。
んー…
俺って、ここの知識まだぜんぜん持ってないんだな。
俺は後ろ、町?の方を振り返る。すると、視界のほぼすべてに建物が広がっていて、町の後ろ側に何があるのかは見渡せない。それを踏まえると、少なくと結構大きい町ではあるようだ。そして、門が繋がっている木の防壁も数メートルはある。前いた世界とはかなり違う印象を受ける。
そして門を抜けた視界の先にあったのは、広大に広がる草原だった。みずみずしい草木がそこにある。そしてその先、かなり先に青々した森が広がっていた。
前の世界で言うとかなりの田舎の方な印象、いや、ここまでの未発達だった土地が日本にあるのかもわからなかった。
俺とクーロは視線の奥にある森へと向かうために草原を歩いていく。
歩いていると、草木から来る匂いしか感じられない。のどか過ぎて、正直山奥へとピクニックに行っていると錯覚してしまいそうだ。
そんなお気楽な俺に、クーロが今更なことを聞いてきた。
「君って、魔物との戦闘どうするの?」
ほんと今更だ。現在進行形でクエストに向かっている奴の発言には到底思えない。
そして…
「どうするんだろうなぁ。」
俺の言葉もなかなかだった。
今思えば、俺ってどうやって戦う気なんだ?俺が持ってる武器は腰にある、あのゴミカスみたいな短剣のみ。そう思うと、やばくね?というか、やばいよな。
「えっ?」
クーロが俺の方へ、間抜けな顔を向けてきた。
さて…
「クーロはどうやって戦うんだ?」
俺は誤魔化すことにした。誤魔化せるかは知らないけど…
「え、えっと…、それは、魔法だけど?」
「やっぱりそうだよなっ!」
俺を助けてくれた時、ゴブリン焼いてたし…
それにクーロは赤いローブを身に纏っている。どう考えても魔法使いですって見た目だ。
俺はそのまま言葉を続ける。
「使える魔法はやっぱり炎…?」
「そうだね。火と、あとは風もかな。」
クーロが無い胸を張っている。
「火と風かっ!やっぱりクーロはすごいな。俺にない魔法を、しかも二つもっ!」
あ~~っ、羨ましいっ!!!
「それほどでもあるかな。えっへんっ!」
クーロは鼻まで伸ばしだした。顔だけ見れば、ほんとに美形だ。顔だけ、胸の辺りを除くなら、総合的にも…
「ねぇ君、なんか失礼なこと考えてない?」
「ん?考えてないけど…?」
君の胸がやっぱり小さいってこと以外は…
「むー、それならそれで…」
視線には鋭いけど、頭は単純なみたいだ。いや、頭は単純な分、視線に鋭いのかもしれない。関係があるのかわからないが…
それよりもだ…
火と風か…
「魔法で、ゴブリンは倒せるのか?」
「火魔法なら倒せるよ。」
倒せるのか…
なら…
「俺も役に立てそうだ。たぶん…」
「たぶんって、君…」
クーロが俺を疑わしそうに見てくる。でも、しょうがないじゃん。俺ここに来て、一日しかたってないんだから。
「もう少し、森に近づいてから話すよ。」
「う、うん。わかった…」
「それよりも、少し聞いていいか?」
「どうしたの?」
俺はクーロに疑問をぶつける。
「この草原って、魔物は出るのか?」
「出るよ。でも、小さい魔物ばっかりだよ。」
「そうなのか?」
「うん。私が聞いた話だと、小さい魔物ならこの草木の長さでなんとか身を隠せるけど、大きい魔物だと身を隠しようがないから、獲物を追う状況でもない限りはいないらしいよ。」
「なるほど…」
「うん。それにね、よく見れば小さい魔物も見つけれるしね。今はこの周辺にはいないみたいだけど…」
「へー…」
クーロの言葉を聞いて辺りを見渡してみると、少し遠くでは冒険者らしき人と何かが戦っている。だけど、俺の位置からは良く見えない。きっと、魔物の背が低いから俺からは見えないんだろう。
こうして、俺はクーロとともに森へと向かった。
森、今その入り口までたどり着いた。もう数歩歩けば、森の中という位置まで。
そして今からやるのは、戦闘で俺が何を出来そうかの自己PRだ。
ということで…
「クーロ、いくぞ。」
「う、うん…」
クーロからはっきりとしない返事が返ってきた。だけど俺は気にしない。
ふー…
腰にある魔法剣を構える。そして振りかぶって念じる。
出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろーっ!!!
俺は最期の掛け声と共に剣を思いっきし振った。すると…
ブィ~ン…
俺の剣から、何にも起きないはずの斬撃が飛んでいった。
「おおぉ~~~…」
そして…
ぼふっ…
木に当たって発散した。そしてやっぱり、木には切り傷一つなかった。
う…
いつ見ても辛い…
でも、クーロからは…
「君っ!さっきの、なんかすごいねっ!!」
好感触の言葉が飛んできた。
う…
心が…
「どうしたの?」
「い、いや、なんでも…」
「そっか…」
そして、クーロは斬撃が当たった気を見つめる。
「あれ?さっき当たった木って、どれだっけ?」
心が痛かった。
言葉を返さない俺とは裏腹に、クーロの言葉が続く。
「確かあの辺で、あれ?でも、どれも傷一つついてないんだけど…」
グサッ…
「いや、あのな…」
「でも、おかしいよね。あれだけ、すごそうなのが飛んでいったのに。傷が何一つもついてないって…。うん?」
グサッ…
うぅ…
「それがな…」
「あれかな、もっと奥の方の木だったのか。だって、あれでダメージなしなんてありえないもん。」
グサッ
なんで、俺こんなに心削られないといけないんだろう…
はぁ…
「あれなんだよ。ダメージないんだよ。あれ…」
俺は絞り出すように、そう口にした。すると…
「えっ!?あれで?だって、見てて、かなりすごそうだったよ?剣から出た魔力が”ブイ~ン”と凄そうな音出しながら、木にぶつかったし。あれでダメージないなんて、ただの見掛け倒しすぎるよ。ほんと、形だけって感じで…」
「うぅ…」
おかしい。なんか涙が出てきた。俺、頑張って出したのに…
「えっ?えっ!?どうしたの!?君っ!」
悪気は、なかったみたいだ。悪気は…
「あれなんです。見掛け倒しなんです。ほんと、形だけなんです。ごめんなさい…」
「いや、えっと、その…」
クーロからは何も言葉が出てこなかった。
少ししてやっと俺が落ち着いた頃…
「で、君はなんで、さっきのを見せてきたの?」
ようやく本題に入ってくれるようだ。この言葉ですら、少し辛いが…
ふー…
「さっきの斬撃、飛ばされてる方からしたら、かなり怖いと思わないか?」
「えっ、それはね…」
「だから、陽動に使えないかーって。それに木に当たった時に、魔力が霧みたいになってたから、目くらましにもなるし…」
言ってて辛かった。
「な、なるほどね。」
「だからこれで、クーロの援護的なのが出来たらなーと。」
「うん…」
こうして、俺たちは魔物がいる森の中へと入っていくのだった。




