レミーロ…
ちょっと変わったおっさんたちとの交流を終えた俺は、クーロの先導に従って前へと進んでいく。進行方向を考えると、どうやら進む先は大きなカウンターらしい。そこへ向かって、二人で歩いていく。
ただ、歩く俺たち。なのに、珍しい体験ができている。俺が、いや俺たちだな。そうに違いない。俺たちが進む先へ、他の奴ら全員がカウンターへの道先を譲ってくれるんだ。きっと、新参者の俺への気遣いだろう。避けてるとかではなくて。絶対に避けてるはずはないんだ。
たださっきから、みんなから同じ視線を感じる。可哀相なやつへ向ける視線を。いやでも気のせいだな。俺別に可哀相でもないんでもないし。きっと、俺のモテフェイスが皆羨ましんだろう。皆すまんな。そんなに見ても、俺のもてフェイスは俺だけのモノなんだよ。
という感じで、俺とクーロはカウンターへとたどり着いた。そしてそこには、イメージとしてはきっちりとした企業の制服に近いのかな。黒っぽい色の制服を着ている女性が数人立っていた。
その中の一人へと、クーロは向かう。
「リリスさん、今大丈夫?」
「あっ、クーロさん、大丈夫ですよ。今日はどんな用事ですか?」
クーロはその中の一人へと話しかけた。座っているからあまり参考にはならないかもしれないが、その女性は身長は少し低めで髪は茶髪、そして肩にかからないくらいの長さの髪をそのまま下に下ろしている。いや、少しふんわりとしている。
そして、黒っぽい制服の胸元を少し開けている。だから、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ…、彼女の大きな…。
止めておこう。何故か一瞬、クーロがこっちを睨んできたし。
そして二人は、声がハツラツとしていて二人とも仲が良さそうだった。
「えっとねぇ、今日はこの人の冒険者登録がしたんだけど…。」
「なるほどです。そこの方、こっちいいですか?」
受け付けの人がそう言って、俺を呼んできた。俺は少し前へと出る。
「えっと…。」
「あっ、ここに座ってもらっていいです?」
「あっ、はい。」
俺は受付の人の指示に従って、クーロと一緒に受付の前の席へと座った。そして、受付嬢は一枚の用紙が取り出した。
「まずはお名前聞いてもいいですか?」
なるほど。お姉さんが記入していってくれる感じか…。
「名前はレミーロで…」
「レミーロ…?あなたが?」
おかしい。本当におかしい。
「えっ、そうですけど…」
俺がそう答えるもお姉さんは納得してくれてないみたいだ。俺を怪しげに何度も目を凝らして見つめてくる。俺はしょうがなく、また言葉を口にした。
「えっと、お姉さん的にはなんて名前に見えますか?」
お姉さんは指を顎に当てて、俺をじっと見つめてきた。そして…
「たけし…?」
「なんでだよっ!!!なんで、皆そんなたけし責めなのっ!?俺って、そんなたけし面?てか、たけし面ってどんなのだよっ!!!」
お姉さんは俺を指さしてくる。
「こんなの…」
「失礼過ぎだろっ!!俺に失礼なのか、全国のたけしさんに失礼かは知らないけどさぁ。」
「全国のたけしさんに失礼かと…」
「おいっ!!!」
そして横から、ちょんちょんとされた。そして…
「ねぇ、この際たけしって名前にしようよ。」
こいつもこいつで…
「嫌だっ!」
「そう言わずにさぁ。お似合いだと思うよ?たけしって名前…」
まじでこの女は…
俺はクーロから視線を外して、正面の受付の人に視線を向けた。
「レミーロでお願いします。」
ただ…
「たけしですね?わかりました。」
「お姉さん、ちゃんと聞いてっ!!!」
「私お姉さんって名前じゃないんですけど…。ちゃんとリリスって名前があるので、リリス”さん”でお願いします。」
「人のことは散々たけしたけし言うくせに…。というか、なんでそんなに”さん”強調したっ!?」
「いや、ちょっとその顔で呼び捨てされるのはちょっと…」
リリスはすごく嫌そうな顔を俺へと向けてきた。
「顔に文句言わないでっ。大事なお母さんが生んでくれた…、いやそれ言うなら名前もだけどっ!」
「えっと、名前ですね?」
「無視っ!?」
この人散々、人で遊んでたくせに…。
だけど、俺の無視って言葉すら無視してくるようだ。
「お名前を…、”たけしーろ”さんでしたね?」
「いや、合体させないでっ!なんかすごっい名前になってるからっ!」
「えっと、”たけしーろ”と…。」
「えっ、マジで書いたのっ!?たけしーろって…」
俺の言葉にお姉さんは顔を俺へと向けてきた。そして、違うところへと振り返った。
「ねぇっ!」
「………」
そして、リリスが俺を無視する中、横の人がちょんちょんとしてきた。
「何?」
「私はいいと思うよ。たけしーろって名前…。」
クーロは、すごく健やかな表情だった。
「どこがっ!?」
「名前が顔に勝ってないところが。」
「おいっ!」
こうして、俺の名前の記載は終わりを告げたらしい。
だけど、俺の名前が何で記載されたかはこの時の俺は知ることができなかった。
俺の名前なのに…




