短剣の…
「着いたよ。」
俺とクーロは今、木造の大きい建物の目の前に立っている。そして、その建物はかなり大きい。俺が見てきた中だと少し小さめのスーパー、もしくは学校の体育館くらい大きいように見える。
だけど、建物はあまりキレイとは言えない。寂びてれているまではいはないが、出来てからかなり年数が経っているみたいだ。
「ここが…」
でも、こんな大きい建物を見るだけで心が躍る。いや、冒険者になれるという期待が大きいのだろう。
ただ彼女は、俺の感動を待ってはくれなかった。
「じゃー入ろうか。」
そう言って、彼女は建物へと入っていく。置いて行かれないために、俺も彼女に付いていった。
「お〜…」
中に入ると、外の風貌からは想像できないくらいにきれいだった。イメージとしては、隠れ家的なご飯屋さんに行ったときの、外装と内装に近いのかもしれない。
茶色いテーブルや椅子。奥には大きめのカウンター。壁も手入れが行き届いているのだろう。漆を塗ったみたいに、きれいな茶色色をしていた。
ただ、中にいる人は表のイメージに近い。武器を腰に吊るして、ゲームで見たことがあるような防具を身に着けてる。そして、あんまりガラは良くない。
物珍しいものを見ているかのような俺が、彼らからしたら物珍しいのだろう。それはそうだ。だからみんな、こっちへと強い視線を送ってきている。
そんな俺へ、いや俺たちへ二人の男が近寄ってきた。
すごくガタイが良い。絡まれたりすると、少し小さい方を漏らしてしまいそうだ。
そして、そんな二人が俺たちの目の前へと立ちはだかった。
うわぁ…
ふたりとも、標準体型の俺と比べると、明らかに多くて肉厚だ。
「何か用ですか?」
俺は頑張って、そう口にした。すると左側のおっさんが…
「お前、その短剣俺のじゃないか?」
訝しむ表情をしてきた。そして右のおっさんが…
「あ~、この前森で失くしたって言ってたやつか…」
二人ともニタニタとする様子もなく、どうやら俺を騙して奪い取ってやるという感じではなかった。普通に、”もしかしてあれって…”って感じだ。
なるほど…。確かに森で拾ったしな。
そう、俺が森に捨てられたときに拾った短剣を俺は未だに大切に持っている。せっかく気絶した俺と一緒にクーロが拾ってくれたんだ。それにさ、いくらゴミみたいな、ゴミ…
気づいたら、勝手に俺の口が動き出していた。
「そうか。おっさんのだったんだな。おかげで助かったよ。ゴブリンに襲われてる時にこの短剣を拾ってさっ。魔力が飛ぶって書いてるからやってみたんだよ。ならさ、ほんとに飛んだんだよ。見かけだけのがさぁ。ほんと助かったよ、おかげ様でさぁ。それで、ゴブリンに横から頭目掛けて石をぶつけられて、気絶しそうな俺を目の前でゴブリンが俺に止めを刺そうとな。あ~、ほんと怖かったんだ。手も足はおろか身体も動かずにさぁ、なのに頭だけははっきりしてんだよな。そんな俺にゆっくりと嫌な笑みを浮かべながらゴブリンが近づいてく来たんだよ。ほんと。この短剣のおかげで、そんな貴重な体験できたんだよ。ほんとありがと。まじでさぁ、感謝してんだよ。あ~、これが、これからが死ぬっていう体験をできたんだよ。そんな貴重な体験ってなかなかできないじゃん?ほんと、おっさん二人には感謝してもしきれないぜ。はははは…。」
俺の言葉に、最初はおっさんたちは俺の方を普通な視線を向けてたんだよ。なのにさぁ、段々と可哀相な人を見るよう目に…。
いや気づいたら、俺をさっきまで異物のように見つめてた全員が俺を可哀相なやつを見つめで見ていた。
なんでだろうなぁ。不思議だなぁ。
はははははは…
短剣を落としたらしい左側のおっさんが気まずそうに俺へと言葉を向けてきた。
「あのさ…、良かったらその短剣いるか?そのなんだ…、いやえっと…」
全くはっきりとしてなくて、何が言いたいか分からなかったけど…。
そして右も…
「俺もさぁ、あの…」
どいつもこいつも、はっきりと物も言えねぇのかよ。
そしてまた左が…
「俺今からクエストだったわ。あ~、今日も頑張ろうかなぁ。あはははは…。」
右も…
「あ~、今日は頑張って大物を…、いや、今日は安全に…。」
「そ、そうだな…。ということで、俺たちもう行くから。じゃ、じゃーなーっ!」
「じゃ、じゃーなっ!」
この言葉だけを置いて、左右両方のおっさんはそそくさと外へ出ていった。
どうしたんだろう…。
俺はそのまま、再度残りの奴らを見ると、全員が気まずそうに下を見ていた。
ん?
おかしなこともあるもんだ。
そして、横にいたクーロは俺の肩に手を置いてきた。
だけど何も言ってくれなかった。ただ、彼女も俺を可哀相なもののように見てきていただけだった。
感謝を伝えただけなんだけど…。
いや嘘です。はい。
今日明日で計4話




