俺と相棒…
朝早い時間、俺は目を覚ました。窓から入ってくるか細い光のせいなのか、それとも床の固さや冷たさのせいなのか、それとも他に何か理由があるのかは分からない。だけど俺は目を覚ました。
外を見ると、空はまだ紺色を纏っている。どうやらかなり早い時間のようだ。こんな時間に起きるだなんて、前の世界では考えられなかった。だけど今は、前の世界ではない。なら、この世界に順応しないといけない。
俺は視線を空から飼い主へと移す。すると…
「………」
全く起きてる様子はない。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、イタズラしたい気持ちはあるけど、後が怖いので止めておく。まだ、俺には相棒が必要だからだ。
それにしても、朝早くとは言われたけど何時にとは聞いていなかった。まぁ、彼女より早く起きれると思ってなかったからな。
ん-、このまま彼女が起きるのを待っていてもいいけど、もし彼女が寝坊だった時が困る。なら、起こすか。
ということで、起こすことにした。
イタズラはしない。ほんとに。振りでもなんでもない。だって、相棒の命に関わるのだからさ。
俺は立ち上がって、クーロが寝ているベッドへと近づく。トテトテと普通にだ。別に足音で起こしてしまっても困らないし。
そして、俺はベッドの前までやってきた。
彼女は枕を大事そうに頭で押さえて、横向きに眠っている。
「クーロ、起きてくれ。」
俺がそう声をかけるも…
「スー…」
まっ、そう簡単には人って起きないか。
さて、どう起こすか。下手に変なところを触ってしまうと、怖い。マジで怖い。つまり、身体はほぼダメだ。相棒の生死にかかわる。
なら顔は…
顔もダメだよなぁ。下手なとこ触るよりダメな可能性がある。
じゃー、どこかっていうと、肩だよな。そこしかないもんな―。
うん。
俺の中で結論がついた。
だから俺はそ~と、クーロの肩に手を伸ばす。そ~とだ。
あと、もう少し…
もう少しで…
「ん゛んん~~~~」
そんなうなる声とともにクーロが寝返りを打った。仰向けになるように。
実は肩へと伸ばしていた俺の手は、布団で分からなかったがどうやら少し低かったらしい。具体的に言うと、クーロの胸の高さくらいだ。
手に柔らかい感触が襲った。
ほんと、柔らかい感触が。
もしかして、胸の柔らかさか?と期待してしまった自分がいる。でも、クーロの胸は絶壁だ。こんなに柔らかくない。
つまり、布団の柔らかさだ。断じて、クーロの胸ではない。
だから…
「クーロ、誤解だ。それに胸にも触ってない。ほんとだ。信じてくれ。」
俺はこっちをゴミみたいな目でみているクーロにそう話しかけた。
「ふーん。君の手って今どこにあるの?」
「布団の上です…。」
「へー。その布団の下って何があると思う?」
なんでか、汗が止まらない。
クーロの声は少し低いだけで穏やかなのに。
「俺はただ、起こそうとしただけで…」
「起こすだけなのに、手が胸に来るんだ―。へー、そうなんだー。」
「………」
く、苦しい。俺ほんと触ってないのに…。
「君って、相棒君、別にいらないの?」
相棒がひゅんとした。相棒からの危険信号だ。
「いります。ちょー、いります。いないと俺、死んじゃいます。」
「ふ~ん。なのに見殺しに来たんだ。死にたがりなの?」
「いえ…」
もう相棒は縮こまっている。
「で、触ってみてどうだった?」
クーロからそんな言葉が飛んできた。
本当に触ってない俺の答えはただ一つ。
「それ良い布団だな。」
「ありがとう。死ね。」
「なんでっ!?」
こうして、俺と相棒はクーロにハチャメチャにされた。
でも、生きてる。ちゃんと生きてる。
生きてるって素晴らしいね。
こうして俺たちは、食事を食べ終えてから冒険者ギルドに向かうのであった。




