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dear…  作者: 平平方
終章Ⅲ
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066

「結界…セクメト」


 騎士団長が結界を発動させる。


 彼が結界を使用したのと同時に、周囲一体には殺意にも似た真紅のオーラが展開される。


 鮮やかで透き通るような赤、円形状に展開されたオーラから距離を取った悠馬は、引き攣った笑顔を浮かべる。


「なんだソレ。見たことねぇな」


 これでも結界についてはそれなりに知っているつもりだ。


 各国が保有する公表されている神器は全て網羅しているし、秘密裏に保管されている神器に関しても、ある程度情報を持っている。


 しかし目の前にいる騎士団長の暁悠馬が使用した結界、セクメトの力は、悠馬のいる世界ではまだ使用者のいない結界だった。


 セクメトの結界にがどんな力を発揮するのか、どんな影響を及ぼすのかが全く読めない。


 結界を使えとは言ったものの、まさか知っている結界ではなく、全く知らない結界に警戒心を強める。


「侵入者。お前は使わなくていいのか?…いや、使えないのか?」


 真紅のオーラを展開している騎士団長は尋ねる。


 現状、悠馬はパラレルワールドで結界を使えない。


 正確な原因がわからないが、クラミツハとシヴァと言葉を交わせない以上、完全にリンクが切れていると言っていい。


 可能性としてあげられるのは、これが正規の時間遡行じゃないからだろうか?


 悪羅やエルドラが可能性を破壊するためには時空神と契約し続けていないといけないはずだし、となるとパラレルワールドでも契約は継続されていたはず。


 そうなってくると考えられる可能性は、そのくらいしかない。


 悠馬が結界を使う気がないと判断した騎士団長は、白銀色の雷を纏い、距離を詰めてくる。


 彼が一気に詰めてきたことにより、真紅のオーラの間合いに入る。


「っ!?」


 回避するか接近するかの2択で、接近する選択をとった悠馬は、真紅のオーラの中に入った瞬間に自身の身体が一瞬にして腐敗したのを確認し、飛び退く。


 なんだ今のは。


 セレスの異能である治癒、オーバーヒールを使い腐敗を治療した悠馬は、黒い灰のようにチリチリと散っていく自身の爛れた皮膚を見て、眉間に皺を寄せる。


「腐敗…疫病…その類か」


「答えてやる義理はない」


「だろうな。()()()()()()()()()()()()


 いくら自分自身が優勢になっても、自らアドバンテージを捨てるのは、愚か者のすることだ。


 純粋な悠馬の分析に対し、答える義理はないと返した騎士団長。


 悠馬はその発言を聞いた瞬間、右手でピストルの形を作り、構える。


「崩壊」


「っ!?」


 悠馬がそう唱えると同時に、真紅のオーラにバキッとヒビが入り、呆気なく散っていく。


 パラパラと散っていく赤く半透明なオーラに、騎士団長は呆気に取られる。


 セクメトの結界には破壊の力と疫病の力があるが、基本的に疫病の力を使用した場合、相手は死ぬ。


 滅多に使うものではないが、目の前の男が強敵だと判断し、躊躇いなく疫病のオーラを展開した騎士団長だったが、悠馬は疫病のダメージを受けた直後、すぐに回復して原因となるオーラを崩壊して見せた。


「これで終いか?確かに初見殺し極まれりって力だが、俺には効かなかったな」


 本来ならここで決着がついていてもおかしくなかったが、悠馬が相手となると話が変わってくる。


 初見殺しだろうがなんだろうが、確実に頭部を破壊しなければ治癒で完全再生が可能な悠馬は、騎士団長に手札を全て出し切ったのか確認する。


 確かに実力は優れているのだろうが、強敵と認識するほどのものではない。


 そう考え、オーラのなくなった騎士団長のとの間合いを一歩詰める。


 その時だった。


 一瞬心臓を締め付けられるような威圧感を感じ、2階へと顔を向ける。


 圧倒的なまでの威圧感。


 それはタルタロスで遭遇した混沌をも凌ぐ威圧感で、例えるならルクスの体を依代に復活した、セカイ持ちの混沌に近いレベル。


 ある者には死を錯覚させ、ある者には絶望を感じさせる威圧感を放てるのは、この世界にただ1人だろう。


 2階へ顔を向けると同時に、そこに佇んでいる人物。


 パラレルワールドの自分との戦いに夢中で、完全に本題を見失っていた。


 白髪に翡翠色の瞳の男は、王族衣装に身を包み、2人の戦いを見守っていた。


「困るんだよ。勝手なことされちゃ」


「……はじめまして。国王エルドラ」


 悠馬に対し、勝手なことをされたら困ると言って圧をかけたエルドラに、お辞儀をして挨拶を交わす。


 勝手に王城に乗り込んできておいて、何を今更…と思われるかもしれないが、悠馬は元々、争うためにここへ来たわけではない。


 この世界を救うためにエルドラの王城を訪ねたわけだったが、パラレルワールドの自分を見て、ついつい興が乗ってしまった。


 王城の中、明らかに敵ムーブをかましていた悠馬は、自分の行いを反省するとともに、両手を上げて抵抗しないとアピールする。


 騎士団長はエルドラの指示がないからか、悠馬が両手を上げても、畳み掛けてくることはしない。


 発動させていた結界を解除させ、鳴神も解いた騎士団長は、戦意のないアピールをする悠馬を見つめる。


「まずは仮面を外しなよ」


「あー…一応先に言っとくけど、驚かないでくれよ?」


 完全に仮面を外すタイミングを失っていたから、きっと素顔を見せれば驚くことだろう。


 目の前にいる騎士団長も、さっきまで戦っていたのが自分自身だなんて流石に考えていないだろうし、素顔を見せた途端、もう一戦の流れになるかもしれない。


 なんてったって目の前の騎士団長と悠馬の顔は全く同じだ。


 仮面を外す前になんらかの異能で誤魔化していると思われるかもしれないし、そう思われた場合、素顔を見せる気がない敵として認識されることだろう。


 一応警戒をしたまま、仮面を外す。


「っ!?」


 瞬間、騎士団長は一歩後ずさった。


「どう…なってる?」


 仮面の男の素顔が顕になる。


 黒髪を靡かせ、レッドパープルの瞳をまっすぐに向ける彼の姿は、正真正銘暁悠馬だ。


 騎士団長と瓜二つの顔。


 双子などではなく、単純に同一人物なのだから、違いなどない。


「ふざ…ふざけるな!」


 騎士団長は激怒した。


 仮面を外し、自分を騙るような男が目の前に現れ、最初こそ戸惑ったものの、冷静さを取り戻すにつれて怒りを顕にする。


「待って。騎士団長。彼は異能を使ってない」


「いや…でも…!」


 怒りに身を任せ、再び結界を発動しようとした騎士団長を制止したエルドラは、冷静に状況を分析する。


 物語能力を通して目で目の前の男を確認してみるが、異能の類は使われていない。


 肉体変化や擬態の線も疑ったが、エルドラの目から入ってくる情報では、間違いなく目の前の男が暁悠馬だと判別できてしまう。


 ならば一体、何者なのか。


 同じ人間がこの場に2人いるという奇妙な光景、その中心にいる騎士団長は、納得がいかない様子でエルドラを見る。


「…()()()2()()()()()


「!」


 悠馬は2度目という言葉に反応する。

 2度目ということはつまり、こういったことが過去に一度起こっているということだ。


 それは八神の世界や夕夏の世界のように、暁悠馬が選択しなかった結末、起こり得た可能性の世界。


 変数は存在するものの、悪羅がこの世界に来ていたと知った悠馬は、仮面を消滅させてエルドラを見上げる。


「その反応からして、お前も…」


「ああ。騎士団、来客だ。応接室を開放してくれ」


「え?…はい」


 お互いに少しの言葉を交わしただけなのに、侵入者に応接室まで用意すると話すエルドラに、騎士団長はわけがわからないと言いたげだ。


 それもそのはず、騎士団長には悪羅が来た際の記憶がない。


 ならば当然、エルドラが何を理解して、目の前の悠馬が何を判断しているのかは全く理解できないことだろう。


 直属の上司、最高権力者である国王のエルドラからの指示ということもあり、怒りを露わにしているものの言うことに従う騎士団長は、急いで応接室の扉を開ける。


 1階の左側、レッドカーペットの先にある黒く重厚感のある扉を開いた騎士団長は、炎の異能を使って室内に灯りを灯すと、扉を支えてエルドラをもてなす。


「入ってどうぞ」


「失礼します…」


 騎士団長に敵意を向けられながら、応接室の中へとお邪魔する。


 エルドラは悠馬が応接室に入ったのを確認すると、パチンと指を鳴らし、扉を閉める。


「これで周囲に声は聞こえなくなった」


 エルドラは音を遮断し、真っ赤なソファの上で足を組む。


 悠馬はエルドラの向かいのソファに腰をかけると、両肘を膝の上につき、エルドラを見た。


「さて…また俺の首でも切り落とすかい?」


「今回はそういうんじゃねえよ…」


 エルドラの発言に反射的にツッコミを入れた悠馬は、ハッと硬直する。


 今のツッコミはなんだ?


 ありもしない記憶の断片、何を切り落とすのかと聞かれ、そういうのじゃないと即答した悠馬は、エルドラの首を切り落とした光景が脳裏にフラッシュバックし、彼から視線を逸らす。


 俯くようにして、彼の顔を見るのをやめた悠馬は、夕夏のパラレルワールドで彼女が首を吊った光景も思い出し、口元に手を当てる。


「…どう…なってる…」


 これは暁悠馬の記憶ではない。悪羅百鬼の記憶だ。


「どうやら混ざりはじめてるみたいだね。暁悠馬が2度も時間遡行をした弊害かな?」


「混ざり合う?なにか…知ってるのか?」


 暁悠馬が2度時間遡行をした弊害。


 厳密に言えば時間遡行ではないのだが、悪羅が時間遡行したことと、自分がパラレルワールドにいることで弊害が出ていると話された悠馬は、何か知っていそうなエルドラに訊ねる。


 するとエルドラは、顎に手を当ててから目を瞑った。


「知らない。ただそう感じただけだよ。この世界で君は君であっても君じゃない」


 暁悠馬ではあるが暁悠馬ではない。

 一見何を言っているかわからないが、要するに自分を自分と思わない方が良いということだろう。


 彼の言っている言葉を感覚的に理解した悠馬は、考えてもわからないことで悩むのをやめ、首を横に振る。


「今回は何をしにきたんだい?」


 エルドラは問う。

 暁悠馬がここへきた理由。


 前回は悪羅がエルドラの首を切り落としたことでこの特異点は終わったわけだが、今回がそういうのじゃないと言うなら、何をしにきたのか。


「君の力なら、時間遡行をせずとも大抵のことは実現可能だろう。君は俺が追い求めた全てを持っている」


 翡翠色の瞳で見据える彼は、真っ直ぐにそう話す。


 エルドラが追い求めた全て。

 その全てに何が含まれているのかは不明瞭だが、きっとセカイのことを指しているのは間違いない。


 物語能力者だからなのか、セカイを知っている様子のエルドラ。


「もう一度、改めて言わせてもらうが俺は時間遡行者じゃない。ただこの世界を救いにきただけだ」


 ありのままを告げる。

 この世界を救いにきた。


 まるでヒーローになったかのような発言だが、悠馬は救えなかった全ての可能性を救う必要がある。


 自分自身の選ばなかった結末、一歩間違えたら有り得たはずの結末に、エルドラは自身の首に人差し指を向ける。


「俺の首、切り落としたら救った判定になると思うよ」


「冗談言うなよ。それは可能性の破壊だろ」


 国王であるエルドラを殺せば、救った判定ではなく人類滅亡判定になるだろう。


 悪羅がエルドラを殺したことでこの特異点をクリアしたと言うなら、悠馬が悪羅と同じことをした場合、当然それは可能性の破壊というものになる。


 ふざけた冗談を言うエルドラに対し、目を細めた悠馬。


 しかしそんな悠馬に対してエルドラは、真剣な表情で口を開いた。


「いや、本当に。俺が死ねば無能力者たちからしたら世界は救われた扱いにならない?多分本当に、それで解決するんだよ」


 自分の首を切り落とせば、この特異点は救われたことになる。


 そう話すエルドラの瞳には狂気が宿っていた。


 人の身でありながら300年近く生きた彼は、もう精神的にも大人を通り越している。


 いつでも死んで良い、死ぬ覚悟はできていると言いたげな眼差しだ。


「…もっと他の方法を探そう。あんたを殺して世界を救った扱いになるなんて、どう考えてもおかしいだろ」


 混沌を退けてこの世界に平和をもたらしたはずの立役者。


 そんな彼が死ぬことで世界を救った扱いになるなんて、どう考えてもおかしい。


 エルドラがどんな戦いをしてきたのか、リーフの記憶で知っている悠馬は、彼が死ぬことで世界が救われるのはおかしいと考える。


「だが他に方法なんてないよ。この世界はもう、手に負えない領域まで来ている。無能力者と異能力者の共存する世界なんていうのは、最初から実現不可能だったんだよ」


 エルドラは話す。


 それは自身が追い求めた理想の果てについて。


 理想の果てに辿り着いて300年経過した今だからこそわかる、この特異点の失敗。


 彼は悠馬へと冷めた眼差しを送ると、これまでの話を始めた。

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