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dear…  作者: 平平方
終章Ⅲ
65/66

065

「お疲れ様です!」


 城門に辿り着くと、警備兵の2人から最敬礼される。


 仮面を被っているからなのか、すっかり騎士団長の暁悠馬として認識されている悠馬は、止められることも戦闘に陥ることもなく城の内部への侵入に成功し、ほっと安堵する。


 城の警備兵に、騎士団長ではないとバレる可能性を危惧していたが、どうやら大丈夫だったようだ。


 まぁ、身長体系容姿全てが一緒だし、仮面まで同じになっているのだから、誰も疑わないよな。


 もし仮に仮面を外せと言われても、出てくるのは全く同じ暁悠馬の顔なのだから、本人同士で対面しない限り、バレることはない。


 そう安堵しながら門を潜ると、そこには白い石で作られた庭園のようなものが広がっている。


 やっぱり、王城って言ったら庭園だよな。


 異能王の空中庭園や、ノーマンのイギリス宮殿なんかを見ている悠馬は、王城と言ったら庭園が造られている認識が強い。


 実際、庭園がない王城だってあるだろうが、そんなこと知らない悠馬は、見たことのない不思議な花々を横目に、内部へと入っていく。


 閉ざされていた入り口の扉に手をかけ、城内に上がり込む。


「お邪魔しまー…」


 気の抜けたようなやる気のない声で、一応挨拶だけして入る。


 勝手に入ったら怒られそうだし、とりあえず挨拶だけちゃんとしてたらいいだろう。


 そんなことを考えながら、内部を見渡す。


 床は全面レッドカーペットで、左右には対象な階段がある作り。


 1階部分には大したものを置いていないのか、セキュリティ面はかなりザルというか、寂しいくらいに誰も居ない。


 薄暗い城内で、冷静に1階部分を確認した悠馬は、そっと足音を殺し、2階に向かう判断をする。


 大体、王族の城なら1階に寝室なんて作らないからな。


 入り口から最も近い1階部に、寝室を置くのは危険すぎる。


 その理由は様々だが、1番人や物の出入りが激しい1階部分に寝室を置くということは、それだけリスクが伴うというもの。


 爆弾や暗殺者なんかが侵入してきた場合、簡単に寝室に入られてしまえば、並大抵の人間は簡単に殺されてしまうことだろう。


 中には悠馬のような再生持ちの例外もいるだろうが、流石の悠馬でも、リスクを背負ってまで1階に寝室を持っていこうとは思わない。


 そこから考えるに、2階かそれ以上の階層に寝室があると思われる。


 時間的には3時半過ぎだから、そろそろエルドラが目覚めている可能性もあるが、一旦寝室に挨拶に行くのが良いだろう。


 そう考えてカーペットの上を歩いていると、階段の先に人影が見えて立ち止まる。


 薄暗くてよく見えないが、人であることは間違いない。


 その影が二足歩行で動いていることから、人であると認識した悠馬は、仮面を被っているとあって、足音は殺しているものの堂々と歩く。


 この仮面があれば騎士団長として王城内はフリーパスだ。


 さっきの警備兵のように、簡単に人々の目は欺けるし、逆にこの格好でコソコソしていた方が怪しまれてしまう。


 そう思って一歩踏み出した、その時だった。


 一歩踏み出した悠馬は、直感的に身の危険を感じ、背後に飛び退く。


 それと同時に、先ほどまで歩いていた場所を確認する。


 つい先ほどまで悠馬が足を踏み込んでいたところには、光の槍のようなものが複数本突き刺さっていた。


 王城の床を容易く貫き、徐々に光を失って消滅していく槍たち。


「聖異能…」


 まるで煙のように完全消滅した異能を見た悠馬は呟く。


「どうやらこっちの暁悠馬(おれ)は闇堕ちしてないらしいな…」


 この場で容赦なく異能を振るえる人間がいるとするなら、騎士団のみ。


 そんな騎士団の中で、王城の中許可も得ずに異能を使えるのはエルドラか騎士団長くらいのものだ。


 目の前に自分自身がいるというのは奇妙な感覚だが、自分と戦えるのは堪らなく高揚する。


 悪羅の時はそれ以外の感情が渦巻いて高揚感なんて感じなかったが、あれから16年経った今は違う。


 自分自身との戦い、セカイという異能で退屈になってしまった日常に、十数年ぶりの刺激が走る。


 悠馬は全身に鳴神を纏わせ、雷を放出する。


 雷光。


 雷の輝きで、真っ暗な城内は一瞬明るくなる。


 そうして露わになる、こちらの世界の暁悠馬の姿。


 真っ黒な軍服に身を包み、何かの神器を腰に携えている騎士団長の悠馬は、無表情にレッドパープルの瞳で侵入者を階段上から見下ろす。


「おいおい!仮面はどうした!?」


「お前には関係ないだろ」


 仮面を付けていると聞いていたが、どうやら今は着けていないらしい。


 理由なんてどうでも良い。


 仮面を付けていようが付けていまいが、目の前にいるのは暁悠馬だ。


 聖人として歩んできたであろう彼の実力を見てみたい。


 ティナに鍛えられた彼の実力がどれほどのものか拝見したい。


 実力的には、圧倒的にこっちの方が優勢だろう。


 セカイを所有する悠馬と、セカイを所有しない騎士団長の悠馬。


 推測するからに騎士団長の異能は聖と炎と氷、雷とゲートの可能性が高い。


 自身の闇堕ち前、そしてセカイを手にする以前の異能からそう推測した悠馬は、雷を纏い急加速する。


 階段を駆け上がり、残像を残して拳を振り上げる。


 背後に回るのではなく、跳躍をして拳を放った悠馬。


 そんな悠馬に対して、騎士団長の彼は悠馬の動きを追うことなく、ゲートを発動して拳を回避する。


「何者だ?」


 さっきと真逆の構図、悠馬が2階で、騎士団長の彼が1階という構図で尋ねる。


 明らかに動きがおかしい。


 常人では辿り着けない速度、耐えきれない火力。


 とてもじゃないが脳が処理できるようなスピードではない。


 雷のスピード、もはやマッハに達している速度だと言っても良い速度だった。


 今の一撃は初見殺しのゲート移動で回避して見せたが、対策されるのは時間の問題。


 ゲートの移動先にマッハの速度で移動されては、対抗する術はない。


 いつの間にか2階にまで辿り着き、黄金色のスロープの上に佇む男を見上げる騎士団長の悠馬は、到底人とは思えない異能を放つ彼へと何者か問う。


 悠馬は騎士団長の言葉を聞いて、その問いに答えるべく仮面に手をかけた。


「ホーリーレイン」


 悠馬が仮面に手をかけると同時に、白く輝く光線が降り注ぐ。


 悠馬は降り注ぐ光線の1発目をバク宙で回避すると、続く光線を難なく回避して2階から飛び降りる。


「不意打ちかよ…それでも騎士団長か!?」


「騎士団長のフリをして堂々と王城に入場してきたお前にだけは言われたくないな」


「そりゃ失敬…!」


 聖人で騎士団長の攻撃を食らえばそれなりのダメージを受けるだろうが、当たらなければ意味がない。


 視界の制限される仮面に加えて、その仮面に手をかけたタイミングでの攻撃。


 本来であれば人間が最も死角が増えるタイミングで不意打ちを放ったというのに回避をした仮面の男に、騎士団長は警戒心を強める。


 本当に人間なのか?


 これまでこの聖王国で幾度となく異能力者を見てきたが、こんな次元の異能力者は見たことがない。


 国王のエルドラですら、この領域には至ってないと断言できる。


 例えるなら、人ではなく神だと名乗られた方が納得のいくレベル。


 領域が人外の域に達している。予知と言っても良いくらいだ。


 こんな化け物を相手に、ここからどうするべきか。

 騎士団長の暁悠馬は、黒衣を靡かせ、瞬時にある結論に至った。


 雷を纏う悠馬の姿を確認し、騎士団長の悠馬も全身に雷を纏わせる。


 鳴神だ。


 チャンという師匠ではなく、ティナが師匠だった為、鳴神は使用できないと踏んでいたが、もしや今の動きを見て模倣しているのか?


 鳴神はチャンのオリジナル異能で、それを見たアメリカ支部のバース副隊長や、悠馬は真似事をして体得に至っている。


 無論夕夏のように、少しなりとも身体能力を向上させたいがために鳴神もどきを使用する人だっているが、鳴神と鳴神もどきでは、体内に留める電気量が違うのだ。


 そして目の前にいる男が体内に留める電気量は、完全に鳴神のソレ。


 騎士団長は、雷を纏った右手を振り下ろし、先ほどよりも格段に上がった速度を確認する。


「なるほどな…体内に雷を留め、電気信号で身体を無理やり動かしてるのか。どおりで早いわけだ」


「ソレを初見で使いこなせると思ってんのか?」


「どうだろうな。やってみないとわからない」


 鳴神を初見で使いこなせるわけがない。


 いくら目の前の男が自分自身でも、鳴神は初見で使えるようなものじゃない。


 脳の処理速度とほぼ同じく、身体が動くのだ。

 人間は右手を動かそうと考え、脳が右手を動かすように指示を出すのに、わずかなタイムラグがあるわけだが、鳴神はその速度を優に超える。


 例えるなら、徒歩で歩いていた人間がいきなり新幹線と同じスピードになるようなものだ。


 当然だが、脳が処理をするよりも早く身体が動いてしまうため、下手をすると止まらずそのまま壁に突っ込んだり、どこかへ吹き飛んでいく可能性すらある。


 チャンの指導を受けた悠馬ですら、初見ではよく壁にめり込んでいた。


 幸いなことに悠馬にはシヴァの再生があったから大事にならず済んだが、もし仮にシヴァの再生がなければ、何度も死にかけていたか寧ろ死んでいたことだろう。


 しかし目の前の男は?


 騎士団長の悠馬は、全く別の神器を腰に携えている。


 おそらく花蓮とも付き合っていないし、シヴァの再生の力がないのは確実だ。


 つまり彼は、再生がない以上リスクを取りながら鳴神を使用する他ない。


 一回判断を誤れば、そこで戦いは終わる。


 そう判断した悠馬は、仮面をつけたまま右手の人差し指をグイッと上げて挑発して見せる。


「来いよ」


 黒衣の騎士団長は、悠馬の挑発を見るや否や雷の残像を残し、一気に懐へと踏み込んでくる。


「っ」


 握り拳を作った騎士団長の腹部へ向けた右ストレートを、左手で受け止める。


 ドスッ!と鈍い音が場内に響き渡り、ガラスが揺れ動く。


「さすが7代目が師匠をしてただけはあるな…」


 音速をも上回る右ストレートを受け止めた悠馬は、小さな声で呟く。


 これは想定外だった。


 まさか鳴神を使用するだけでなく、正確に狙った人物の目の前で踏み止まり、右ストレートまで放ってくるとは。


 やはり指導者が優れていたら、教え子も優秀になるのだろうか?


 チャンの指導が下手と言うわけじゃないが、やはり実力的にも異能王だったティナが全てを教えたと言っただけあって、筋がいい。


 もしかするとこの当時の年齢(高校生くらい?)の暁悠馬と騎士団長の悠馬で戦わせれば、騎士団長の悠馬が勝つかもしれない。


 そう思ってしまうほど見事な一撃に、左手が痺れる。


 騎士団長は拳を受け止められた直後、右手を軸として回し蹴りを放つ。


 悠馬はその回し蹴りを左手を離して回避し、続いて彼の肋骨部分に蹴りを入れる。


「ぐっ…!」


 騎士団長は悠馬の蹴りを左腕でガードしながら、衝撃に耐えられず転がっていく。


「使えよ。結界」


 悠馬は呟く。


 この世界に物語能力が残っている以上、神々との契約はあるはず。


 いくら悪神の姿が見えなかろうが、八神の世界でも夕夏の世界でも、間違いなく結界はあった。


 ならばこの世界でだって、結界はあるはずだ。


 彼の腰に携えている神器こそが、何よりの証拠だと言ってもいい。


 わざわざ敵に塩を送るように、結界を使えと指示した悠馬は、騎士団長が神器に手をかけたのをみてニヤリと笑みを浮かべる。


 ここからが真剣勝負だと言ってもいい。


 今の悠馬は、結界を使えない。

 パラレルワールドに来ていると言う都合上、結界契約が完全に消失している悠馬は、セカイという大きなアドバンテージしかない状態だ。


 しかしセカイしかない状態でも、暁悠馬は強すぎる。


 向かうところ敵なしと言ってもいい悠馬だが、彼には一つの不安があった。


 このまま悪神と戦ったらどうなる?


 決着は正直想像できないが、星屑に死ぬと言われている以上、劣勢は必至。


 どう足掻いたって勝てない可能性もあるが、今この現状から成長できていないことこそが、何よりも怖い。


 レベル99に至ってからと言うもの、シャドウ・レイを体得して以降、明確に実力が上がったと感じるようなことはなかった。


 だが今回、目の前の騎士団長の暁悠馬、自分自身ならばヒリヒリとしたスリルを感じられるような、ギリギリの戦いが演じられるかもしれない。


 なるべく騎士団長の実力を引き出したい悠馬は、鳴神を初見で使いこなしてみせた彼に強い関心を抱いている。


「ガッカリさせてくれるなよ」


 ここまで来て、結界が使えないなんて言うなよ。


 悠馬は彼が腰に携える神器が剣型なのを確認し、右手に氷の異能を発動させ、同じ形の氷の剣を生成する。


「結界…」


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