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dear…  作者: 平平方
終章Ⅲ
61/67

061

 草原の中、目を覚ます。


 新緑色に生い茂る草原の中、風にゆらめく草を確認し、次いで空を見上げる。


 空には真っ白でまん丸な月が浮かんでいる。


 まん丸な月の横を黄金の流星が流れ、消えていく。


 なんて幻想的なんだろう。


 あまりにも美しい、これまで見たことがないほど芸術的な月夜に、ついつい魅入ってしまう。


 この展開には、少し慣れつつある。


 眼前に青いシステムウィンドウが現れ、見覚えのある定型文が浮かび上がる。


 〝この世界を救ってください〟


「はいはい、わかったよ…」


 これで3度目だということ、2回目の夕夏のパラレルワールドと違い別途条件ありという文字がないため、いちいちシステムウィンドウを確認せずとも記されている文章くらいわかる。


 前回のようなおかしな文章が記されていないことを確認した悠馬は、草原で上体を起こす。


「そんで…ここはどこだ?」


 1度目は日本支部異能島、2度目はイギリス支部と、パラレルワールドに飛ばされる時の場所の法則性はないと思われる。


 唯一法則があるとすれば、それは関わりのある人間がいる付近で目覚めていることくらいだろうか。


 そこから考えるに、今回も関わりのある人が近くにいるのだろうか。


 そう考えながら振り返る。


 振り返るとそこには、大きな城壁のようなものが聳え立っていた。


「え…?」


 なんだこの壁。


 いや、○撃の○人かよ。


 ほぼウォール○リアじゃん。


 何かから内部を守っているのか、外界との接触を避けるようにして建てられている城壁のようなものは、高さにて50メートルほどあるような気がする。


 しかもその外壁のすべてが、白亜の大理石?いや、クリスタルか?半透明の何かで生成されている。


 月夜で輝く城壁を見るからに、クリスタルの類の宝石で設計されていると見て間違いないだろう。


 もし仮にこの城壁の全てがクリスタルで生成されていると言うのなら、とても人類が作った建造物とは思えない。


 そもそもこんな大きさのクリスタルが、そういくつもあるものなのか?


 異能王の空中庭園ですら大理石が基本なのに、城壁のこれら全てをクリスタルで賄っているという衝撃が大きい。


 こんなものを見せられたら、察さざるを得ない。


 今回の特異点は八神や夕夏の時のように簡単にはいかないだろう。と。


 これだけ大きな城壁を作る財力、全てを一枚岩のように見せる技術力を見るからに、文明の進歩は元の世界と比較して、こちらの方が上。


 無論文明の進歩は異能には関係ないが、空中庭園に備え付けられていたレーザーのように、時に文明は異能に勝利するため、一概に油断していいものではない。


 そう考え、サーチの異能を発動する。


 何をするにも、今回の特異点は最大限警戒しておくべきだ。


 初手からクリスタルの城壁を見せられた悠馬は、八神や夕夏の時と違って、最初から異能を発動させる。


 そうして顕になる、城壁内の全貌。


「おいおいマジかよ…」


 悠馬はサーチ範囲を広げ、中に住まう人々の数と反応を確認し、この城壁内にどれだけの人が住んでいるのかを知って冷や汗を流した。


 ざっと1億近くは城壁内に生体反応があるぞ?


 それに城壁の規模だが、城壁内の人の反応を見るからに、日本支部が丸ごとすっぽり入るほどの規模があると思われる。


「こんなことができる国なんてアメリカ支部くらいだろ…」


 現状、記憶にある中でこんな大逸れたことが実現可能なのは、ローガン率いるアメリカ支部くらいだ。


 あそこは財力も軍事力も頭ひとつ抜けているから、その気になればクリスタルの城壁くらい作りかねないが、そもそもこんなものを作る理由が見当たらない。


 異能の前ではいくら鉱物といえど無意味だろうし、こんな城壁作る意味がないのだ。


 今ある断片的な情報だけだと、どこの国かも断定できないし、今が西暦で何年なのかもわからない。


 一先ずサーチで見つけた、城壁よりも少し外側に出ている生体反応に近づくべきか。


 そう判断した悠馬は、おそらく城壁の門があるであろう場所へと向かう。


「にしてもでかいな…」


 生体反応があった場所が近くだからよかったものの、日本の国土がすっぽり入る規模の外周を歩くのは、流石にきつい。


 周囲も見る限り草原が広がっているだけで、それ以外のものは見えないし、道路も見当たらない。


 普通、こんな大規模な城壁があれば、その周囲も自然と発展していくものじゃないのか?


 ここだけ見ると、RPGなんかで出てくる、モンスターから身を守るために城壁を作った王国のように感じてしまう。


 まさか本当に、モンスターでもいるんじゃないだろうな?


 世の中には結界の暴走により使徒となる人間もいるくらいだし、今度の世界は人間の大半が使徒になった世界線だって言われても、おかしくはない。


 そんな恐ろしいことを考えながら数分歩みを進める。


 数分も歩くと、目的の生体反応があったところまで辿り着いた。


「…wow」


 突如として草原が拓け、3車線ほどの車が通れる道が出てくる。


 道路を見た瞬間、ここにきちんとした文明があったんだ!と喜びを感じるとともに、道路に車が通ってないことに違和感を覚えた。


 いや、車が通る以前に、信号がないのと城壁の門が閉ざされている。


 いくら夜の時間帯と言えど、流石に城門は閉ざさなくないか?


 そんな奇妙な違和感に襲われる。


 その時だった。


 城壁の方からガタン!という大きな音がして、身体をビクッと震わせる。


「誰だ!?」


 声のした方を振り返ると、そこには軍服を着た衛兵が城壁の上に立っていた。


 彼は銃のようなものをこちらに向けて、険しい顔で睨んでいる。


 これは刺激しない方がいいな。


 初手からいきなり警戒されている理由はわからないが、下手に刺激せずに敵意がないことをアピールすればいい。


 このパラレルワールドでやらなけれなならないことは、世界を救うことなのだから、現地住民と敵対するのは得策じゃない。


 そう考え、両手を上げる。


「…悪い。中に入りたいんだ。ここが入り口だろ?」


 生体反応からして、ここ以外に稼働している入り口はなさそうだ。


 おそらく今眼前にいる衛兵こそが、外側付近にあった生体反応の主なのだろうと考える悠馬は、敵意がないことをアピールしながらそう話す。


 衛兵は銃を向けたまま、眉間に皺を寄せる。


「異能は?」


「異能?」


「今この場で異能を使って見せろと言っているんだ!」


「あ…はい」


 異能を使えと言われ、とりあえず氷の異能を発動させる。右手に氷の結晶を生成し、その上から炎の異能を発動させて蒸発させて見せる。


「…これでいいのか?」


 なんで異能を使えと言われたのかはわからないが、これでいいのだろうか?


 警戒心剥き出しの衛兵へと尋ねる。


 すると衛兵は、異能を見るや否や、銃を下ろして手を振ってきた。


「同志よ!歓迎するぞ!」


「おお…同志よ…感謝する…しぇいしぇい?さんきゅー?」


 異能を見せたら、なぜだかメチャクチャ歓迎された。


 別に大した異能を見せてないのに、なぜか衛兵は熱烈に歓迎してくれているらしい。


 衛兵がアジア系の見た目だったから、ひとまず複数の言語で感謝を述べてみる。


「少し待っててくれ!すぐに城門を開く!」


「ありがとう、ここで待ってる」


 城壁の上から手で合図を出し、見えなくなる衛兵を待つ。


 するとしばらく待った後、ガチャン!と言う音を立て、城門の横の小さな扉が開いた。


 いやそっちが早くのかよ。


 こっちの大きい門が開くのかと思って期待したじゃねえか。


 クリスタルでできた城門が開くかと思いきや、横にあるペット用みたいな小さな扉が開いたことで、思わずよろめく。


 期待外れというか、なんというか…


 勝手にこっちが期待していただけだから衛兵には何を言うつもりもないが、この肩透かし感からくる虚無感はどこへ向けていいのかわからない。


「ようこそ、聖王国へ」


 悠馬が虚無感を覚えていると、小さな扉から現れた衛兵は、そう言って手を差し出してきた。


 武器も完全に置いてきていることから、油断させる作戦ではなさそうだ。


 まぁ、この程度の相手なら油断させられたところで対処もできるし、無問題とみていいだろう。


 差し出された手を握り返し、深く頷く。


 ところで男の発した聖王国って何だろうか?


 そんな国、元の世界には無かった気がするが、やはりパラレルワールドだから、違う分野で発展した国があるのかもしれない。


 ここで聖王国って何?と聞くと怪しまれるだろうし、どうやって情報収集をするべきか。


 衛兵と握手を交わしながら、思考を逡巡させる。


 ここに知り合いでも居てくれたらいいのだが、現状現地民もこの衛兵しかわからない状態だし、無い物ねだりだ。


「とりあえず城壁の中へ入ろう。いくらここが聖王国の目と鼻の先でも、奴らが何をしてくるかわからない」


「…?ああ、わかった」


 衛兵は悠馬が握手に応じると、満足げに何度か頷き、小さな扉の中へ入るように誘導してきた。


 クリスタルでできた城壁の中へ入ると、中も煌びやかなクリスタルで覆われている。


 真っ白で分厚いクリスタルの中にランタンが備え付けられ、城壁の中だと言うのにあまり暗さは感じない。


 例えるなら、クリスタルでできた洞窟にいるような感覚だ。


 高級感漂うクリスタルで削り出された地面と壁面は、見るものを魅了させる。


 まるで洞窟を探検しているような、不思議な感覚を感じさせてくれる。


「まさか外から異能力者が来るなんてな。よく殺されなかったな!」


 前を歩く衛兵から、不意にそんな言葉が飛んできた。


 悠馬はその言葉を聞いて、ぴくっと反応を見せる。


 いきなり物騒な言葉だな。


 よく殺されなかったと言う単語を聞いて、この壁の外が危険な場所であることを知る。


 確かにこの衛兵は銃を持っていたし、やはり外には何かあるのだろう。


 サーチを発動した際、特別おかしな反応はなかったが、やはりモンスターでもいるのだろうか?


 とりあえずここは一旦、話を合わせて様子を見るべきか。


 そう判断した悠馬は、怯えたような仕草を見せる。


「ああ…危うく殺されるところだったよ」


 何に殺されるかはわからないが、それらしい言葉で返事をする。


 すると衛兵は一度だけ振り返り、哀れみのような眼差しを向けてきた。


「やっぱりか…でもお前、見た目からして高校生だろ?よくその歳まで異能力者だって気づかれずに生きてこられたな。キセキって言ってもいい」


 衛兵の言葉に、悠馬の歩くスピードが一瞬遅くなる。


 自分が高校生の見た目だと言う話は一旦置いておいて、その歳まで異能力者だって気づかれずに…ってどういうことだ?


 使徒やモンスターが城壁の外を闊歩している可能性を考えたが、発言からして異能力者だってことに気づかれた場合に殺されるってことになる。


 つまるところ、そこから割り出される可能性は…


 つい最近、初代異能王が広大な土地を得て、異能力者だけの国を作ろうとしていたのだと知った。





 もし仮に、もし仮にだ。






 この世界が、エルドラの望んだ世界だとしたら?


 外界と隔絶し、異能力者と旧世代の人間が距離を置いている世界なのだとしたら、今の衛兵の言葉は多少なりとも理解できる。


「いや、俺も異能を隠して生きてきたんだけど…ほら、異能病で周りが死ぬもんだから怪しまれてさ…」


 彼との言葉のやり取りの中で、最も可能性が高い世界線を割り出した悠馬は、少し踏み込んだ話をしてみる。


「ははは、そりゃ怪しまれるな。お前サイコパスか?よく周りが死ぬのに平然と無能力者演じてたな!」


「失礼な…」


 確かに、自分のせいで周りが死ぬのを知ってるのに、高校生になるまで何食わぬ顔で周囲を病で殺して回ってるのはサイコパスだな。


 衛兵からサイコパスだと言われ反論したかったが、反論する言葉が見つからないため口を噤む。


 しかしこれでこのパラレルワールドはどんな世界なのか確定した。


 このパラレルワールドは、エルドラが混沌に勝利した世界線だ。


 エルドラが約束通り、アメリカ支部から広大な土地をもらい、そこに王国を建設した世界線。


 だから日本支部がすっぽり入るほどの広大な国土を有しているし、物語能力を使用したならば、この大規模なクリスタルの城壁も頷ける。


 仮にエルドラが混沌に完全勝利している場合、彼は現状7割の物語能力を有していることになる。


 そんな彼にとって、鉱石で城壁を作るのは造作もないことだろう。


「でも、お前が異能病で無能力者をたくさん殺してくれたなら、俺は清々するぞ!アイツら俺たち異能力者を見つけるや否や、病原菌って言って化学兵器を使って殺しにかかってくるからな!」


 衛兵の言葉に、一度思考を中断する。


 やはり、というか聖魔の話した歴史通りになっているのか。


 無能力者による、異能力者に対する迫害。


 異能力者を見つけたら化学兵器で殺されると物騒な話をする衛兵。


 それは悠馬の知るはずのない世界の話だった。


 異能力者しか住んでいない世界で生きている悠馬にとって、縁のない話。


 異能力者たちの差別と迫害の話。


 エルドラは無能力者との共存を望んだ。


 みんなが笑って生きられる世界を望んだはずだ。


 その結果がこれなのか?


 差別と迫害。

 これじゃあまるで、イギリス支部の魔女裁判が世界的に広がっただけじゃないか。


 悠馬は衛兵の話を聞き、ようやくこの世界がどういう有様なのかを理解し始める。

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