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dear…  作者: 平平方
終章Ⅲ
54/66

054

 リーフ…キルヤの記憶から解放され、現実世界へ戻ってくる。


 気づけばゴールドコーストのハイタワービル、その1階のエレベーターホールに立っていた悠馬は、同じくリーフの記憶を見たセレスが横にいるのを確認し、安堵する。


 続いて目の前に立っているリーフを確認する。


 いや、もう二代目異能王のキルヤと呼ぶべきだろうか?


 目の前にいるオーストラリア支部総帥が、自分の大先輩である異能王だと知った悠馬は、今後彼とどう接するのが正解か考える。


 下手に敬っていたら周囲から怪しまれるだろうし、かと言って上から目線で指示も出しづらくなった。


 リーフの腹の中はわからないし、彼はどういう待遇を求めるだろうか?


 二代目だと知ってしまった以上下手に接することができず、扱いに困るな。


「俺のことは気にしなくていいですよ。実力だって他の総帥と同じくらいだし、覚者の域でもない。デカい顔できるような立場じゃありませんから」


「ああ…わかった」


 リーフは今までと同じ待遇をご所望らしい。


 エレベーターホールに設置されている時計を確認すると、世界会合が終わってから数分しか経っていないことに気づく。


 どうやらさっきまでのリーフの記憶は、脳に一方的に情報を流し込まれただけで、一瞬の出来事だったようだ。


「ひとまずお疲れ様でした。悪神は力を振るっていませんが、少しでも力になれていたら嬉しいです」


 リーフは言葉で締め括る。


 この記憶が悠馬の役に立つのかはわからないが、悪神のこと、混沌とエルドラの戦いに関しての記憶を見せたリーフは満足そうだ。


「ああ…それと最後の悪羅だが…お前はどこまで知ってる?」


 最後に尋ねる。


 去り際のリーフへと声をかける。


 リーフは悠馬に声をかけられると、ゆっくりと振り返った。


「アレは…わかりません。俺と同じくらいの歳月を生きてきたのは知ってますが、残念なことに接触する機会がほとんどなかったんです」


 リーフと悪羅はほとんど接触していない。


 顔を合わせることはあっても、言葉を交わす機会がなかった彼は、悪羅が何者であるかは知らない。


 パラレルワールドの夕夏は悪羅に会えと言っていたが、さっきのアレは会った扱いになるのだろうか?


 いや、アレは記憶の一部を一方的に見ただけだし、会ったことにはならないだろう。


「そうか。呼び止めて悪かったな」


「いいえ。何かあればなんでも聞いてください。知っている範囲で答えますから」


 悠馬はリーフを見送る。


 ハイタワービルのエレベーターホールから抜け出すリーフの口元は、緩んでいる。


「…エルドラ。貴方が物語能力を捨てた理由が、ようやくわかりました」


 なぜエルドラがあの日、物語能力を返却する決断を下したのか。


 それはきっとティナや混沌を経て、暁悠馬が悪神を倒すための下準備だったのだと思う。


 これがエルドラが意図して仕組んだことなのか、それとも偶然なのかはわからない。


 でも、リーフはここに至るまでの連なりが、偶然ではなく必然だったのだと考えている。


 エルドラも混沌も悪羅も暁悠馬も、全てが繋がっているからこそ、ここまで辿り着いた。


「そして…3人目の時間遡行者の可能性…か。調べてみる価値はありそうですね」



 ***



 リーフと別れてから、別荘へと向かった。


 今日はゴールドコーストで一夜を明かし、翌朝空中庭園へと帰還する予定だ。


 今日空中庭園へ帰っても良かったが、戻ったところで急務はないし、ならば一晩ゆっくりして帰ったほうがリフレッシュにもなるだろう。


 基本的に世界会合当日は、どこの支部の総帥も現地にて宿泊する。


 だから他支部で総帥絡みのいざこざが起こる心配はないし、一晩は気楽に過ごせるという算段だ。


 もしかすると誰かがこの別荘を訪ねてくるかもしれないしな。


 そんなことも考えて滞在しているが、やはり悪神絡みの事件以外は世界的に至って平和らしく、総帥たちからの連絡もなければ訪問もない。


「暇っていいなぁ…」


 大きなリビング、学校の教室二つ分ほどの大きさのリビングの大ソファにて横になっている悠馬は、1人で呟く。


 ソファの大きさとしては、悠馬が戦乙女全員と座っても余裕があるくらいだ。


 15人ほど座れそうなL字型のソファを、ゆったりと独占している。


「ふふ、お疲れのようですね」


「まぁ…リーフの件もあるし、ここんところ万が一に備えて業務を前倒し前倒しでやってたからな」


 ソファの背もたれ部分から覗き込むように声をかけてきたセレスと話す。


 戴冠記念パーティーから、戀のグール事件、イギリス支部のジャックザリッパー事件、そして世界会合とあったため、万が一に備えて先の予定の業務まで終わらせれるように頑張ってきた。


 ようやくひと段落、この先の予定に関しては平常通りに戻ったことで息を抜く悠馬は、セレスの両手に頬を包まれ、大人しく目を瞑る。


「なぁローゼ。今日の出来事で引っ掛かることはあったか?」


 リーフの見せた過去の話。


 悠馬自身はある程度自分なりに解釈して落とし込もうとしているが、一緒に見ていたセレスは何か感じるものはあったのだろうか?


 何か感じていることがあるなら、聞かせて欲しい。


 セレスは悠馬に尋ねられると、真っ赤な瞳を動かす。


「真っ先に引っかかったのは蒼の聖剣が折れていたことですね。300年前に聖剣が折れているなら、オリヴィアさまの持っているアレは一体、なんなのでしょうか?」


 蒼の聖剣は、エルドラと混沌の戦いでへし折れていた。


 しかし現代にある蒼の聖剣は折れていないし、なんならオリヴィアが現役で使っている武器でもある。


 あの場では絶対に折れていたはずなのに、どうして現代の蒼の聖剣は綺麗な状態なのか。


「クラミツハの神器と同じで、職人が治した可能性が高そうだな」


 17年前、混沌にシャドウレイを放つ際、悠馬はクラミツハの神器を粉々にしている。


 最大火力で反発する異能同士を同時発動させた結果、神器でも耐えられずにひび割れてしまったのだ。


 だがクラミツハの神器は、未だに悠馬が使用している。


 実はあの後、スウォルデンにクラミツハの神器の打ち直しをお願いした。


 世界的に見ても神器の破損は少なからずあって、その度にどこかの鍛治職人や大手企業が修理するのだが、基本的に修理が可能なのは一部が欠けた神器のみ。


 スウォルデンは以前も似たような経験があったから、砕け散ったクラミツハの神器を打ち直すことに成功したが、蒼の聖剣も、折れた状態から見事に打ち直した職人がいるということ。


 あの透き通るような蒼が打ち直しで再現できるのかはわからないが、オリヴィアが持つ蒼の聖剣は本物である可能性が高い。


「だが不純物は混じってるんだろうな」


「不純物、ですか?」


 セレスは蒼の聖剣に不純物が混ざっていると聞き、首を傾げる。


「ああ。聖剣関係は色と同じ異能…つまり蒼なら氷、黒なら闇というように、使える異能が決まってるんだ」


「仰るとおりですね。ですからオリヴィアさまや花蓮さま、ルクスさまがそれぞれの色の聖剣を保有しています」


「そうだ。だけど俺は蒼の聖剣で、一度シャドウ・レイを放ったことがある」


「そんなまさか…」


「本来なら氷の異能以外を発動させようとした時点で弾かれてもおかしくなかったが、蒼の聖剣は他の異能を使うことができたんだ」


 17年前、あの時は咄嗟で気づきもしなかったが、蒼の聖剣は他の異能を使用することができた。


 翠の聖剣では不可能だったが、蒼の聖剣では可能だったのだ。


 しかしだからといって、偽物の可能性は低い。

 蒼の聖剣に触れて弾かれる人だっているし、偽物ならばアメリカ支部が国宝として保有することもなかったはず。


 様々な状況的な証拠から見て、オリヴィアの蒼の聖剣は本物で、何者かが打ち直しした可能性が高い。


 そう結論づける。


 セレスも話を聞いて納得したのか、打ち直しの可能性で疑問を落とし込んだようだ。


「他にも悪羅や悪神に関して引っ掛かるところはありますが、大まかな流れは理解できたつもりです」


 混沌は悪神との接触を謀ってタルタロスを襲撃し、堅牢の間へと向かった。


 混沌の動きを知っていたエルドラは、混沌の陽動に騙されるふりをして大罪異能たちと戦っていた。


 その間にハイツヘルムはタルタロスへと向かい、混沌のボディガードをしていた憤怒の体力をできる限り削り、死亡。


 ハイツヘルムの死を引き金に強制ゲートを発動させたエルドラは憤怒の前に現れ、大罪異能たちを掻い潜って憤怒を撃破。


 最後にエルドラと混沌は互いに戦い、悪羅の助力で混沌を次元の狭間に幽閉することに成功した。


 エルドラは物語能力を返却し、大半の人間から忘れ去られ、タルタロスの最下層から身動きが取れなくなった。


 流れとしてはこんな感じか。


 セレスと話をして、ある程度今日の出来事を脳内でまとめていると、インターホンの音色が室内に鳴り響く。


 セレスはインターホンのチャイムの音を聞くと、即座に振り返り、来訪者を確認する。


 モニター越しに映る人物を確認したセレスは、悠馬の方へと振り返る。


「ローゼ?」


「アルデナさまのようです。出られますか?」


 アルデナぁ?


 セレスの言葉を聞いて、首を傾げる。


 イタリア支部総帥、コイル・アルデナ。


 悠馬よりも古株の総帥で、フェスタの視察の際から絡みがあるアルデナが別荘を訪ねてきた。


 別に彼とは、そこまで特別な仲ではない。


 なぜか悠馬のことをリスペクトしている節はあるが、悠馬もそれに応えるようにアルデナのことをリスペクトしている。


 ただ、それ以上でもそれ以下でもない関係性だ。


 ご飯を食べに行くことも、仕事の話以外もしたことのない彼が、いったいなんの用だろうか?


「とりあえず通すか」


「かしこまりました」


 別荘まで訪ねてきたってことは、重要な話があるのだろう。


 そう判断した悠馬は、セレスにアルデナを通すようお願いし、起き上がってソファに座り直す。


 すると数秒で、リビングへとスーツ姿のアルデナが現れた。


 金色の髪に触れ、乱れていないかを確認しながら部屋に入ってきた彼は、40代を過ぎて少し老けたような気がする。


 世界会合の時と同じ服装で現れた彼は、悠馬と目が合うと会釈をした。


「どうぞ座って」


「ありがとう」


 悠馬から離れたソファに座ったアルデナは、両膝の上で手を合わせ、別荘内を見渡す。


「綺麗な別荘だな。私も老後はこういうところで過ごしたい」


「いや、私もって、俺まだ老後じゃないけど…」


 なんならアンタより年下だぞ?

 なんか油断してたところをサクッとナイフで刺された感じがする。


 老けていると言いたいのかなんなのかは知らないけど、突然のアルデナの発言に、悠馬は苦笑いを浮かべる。


 老けてるなんて言われたことないんだけどな。


 確かに高校時代から比べるとはるかに老けているだろうが、こっちはまだ30代だ。


「ははは、冗談だ」


「冗談じゃなかったら凹んでたところだ。それで?話したいことがあるんだろ?」


 アルデナに問う。


 こんな冗談を言いにきたわけではないだろうと言いたげな悠馬に、アルデナは表情を引き締める。


「悪神繋がりかどうかはわからないが…ここ最近、イタリア支部総帥邸に、悪羅百鬼を名乗る者から手紙が届いている」


「悪羅…?」


 悠馬は悪羅百鬼を名乗る手紙と聞いて、ソファから立ち上がる。


 夕夏の悪羅百鬼に会えという言葉と、先ほど300年前の記憶で悪羅を見てきた悠馬にとって、タイムリーすぎる話だ。


 アルデナは悪羅を名乗る者から手紙が届いているという前置きの後に、内側の胸ポケットから薄汚れた手紙を2通取り出した。


「汚ねえな…」


 ぱっと見で判断したが、封筒はどこに置いてたんだ?と疑問を抱くほど黒く汚れている。


 アルデナから手紙を渡され触れてみるが、汚れはデザインなどではないらしい。


「まさか総帥邸の床をこれで拭いたりしてないだろうな?」


 そんなことまで疑ってしまうほど汚れている。


 アルデナは悠馬の冗談の問いかけに笑うと、首を横に振った。


「確かに、私は父親を悪羅に殺されている。恨みを持っていそうだからそんなことまでしそうだと思われるかもしれないが、無論重要な証拠品にそんなことはしてないよ」


 先先代、つまりティナの後の異能王であるコイル・レーヴァテインはアルデナの父親だ。


 そしてアルデナの父親は、悪羅に殺されている。


 どういう経緯があり殺されたのかまでは知らないが、アルデナが気にしていないならとやかく言われる筋合いはないだろう。


 重要な証拠を汚したりはしないと話すアルデナ。


 悠馬は悪羅を名乗る者からの手紙を封筒から取り出す。


「先に言っておくと、私はこの手紙を悪羅が書いたものではないと思っている」


 アルデナは断言する。


 自信を持って、悪羅が書いたものじゃないと話すアルデナに、悠馬は手紙を取り出すのを中断する。


「なぜそう言い切れる?」


「なぜも何も…私が悪羅と繋がっていたからだよ」


 アルデナの口から発せられた、衝撃の事実。


 ちょうどリビングに戻ってきたセレスは、アルデナの発言を聞いて大きく目を見開いた。

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