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世界会合。
7カ国の総帥と、異能王から直接冠を賜りし冠位、および総帥秘書が参加するこの会合は、毎年開催月と会場が異なる。
今回は悠馬が異能王戴冠16周年記念パーティーを開催してから間もないというのに、こうして再び合間見えることになった各国の面々。
彼らはそれぞれがそれぞれに、思っていることを表情で伝え合っている。
「なんだアメリカ支部。さっきからニヤニヤと笑いやがって。喧嘩でも売ってんのか?」
「おっと…これは失礼。武器商人が武器の販売のために遠路遥々砂漠地帯から来てくれたんだ。どれ、ノルマ達成しないと帰れないんじゃないのか?仕方ないから買ってやるよ」
「そんなに武器が欲しいならいいモノ販売してやろうか?特別に無料でお前の体にブッ刺してやるよ。刺さった分だけ持ち帰っていいぞ?」
今年の開催国はオーストラリア支部。
広大な敷地を持つオーストラリア支部の、ゴールドコーストの高層タワーの一室で開かれる世界会合は、早くも開始前からピリついていた。
エジプト支部総帥、サハーラ。
武器を販売する会社の御曹司だった彼は、悠馬が高校3年生時のフェスタで、覇王を倒して優勝した。
そしてそこから空白期間を経て、現在エジプト支部の総帥になっているのだ。
黒髪に浅黒い肌、真っ黒な瞳でアメリカ支部総帥を睨むサハーラは、腰に携えていたデバイスを引き抜く。
「おー…戦争始めるって言うならいつでも歓迎するぜ?こっちの軍は王様のせいで戦争なくて退屈してんだ」
「やれやれー、第6次世界大戦だー」
アメリカ支部総帥、ローガン。
悠馬やサハーラよりも5つほど年齢が下の彼もまた、その当時のフェスタで優勝を果たしている。
金髪にロン毛、青色の瞳でインテリ系な雰囲気を醸し出す彼の姿は、一言で言うと強くは見えない。
しかし実力は折り紙つき。
世界最強と謳われる軍隊を保有する彼は、額に青筋を浮かべるサハーラを見て挑発を続ける。
そしてそんな2人に、第6次世界大戦を推奨しながらスマホに視線を落とすオーストラリア支部総帥、リーフ。
彼は見た目が変わる気配が全くなく、17年前と全く同じ姿に見える。
すでに異能王以外のメンツが集まっているというのに、好き勝手言い争っている2人を見る夕夏は、額に手を当てて深いため息を吐いた。
「はぁ…」
世界会合に参加するのは久しぶりだが、最近はいつもこうなのだろうか?
危うく一触即発、サハーラがその気になれば戦争が始まりかねない状況は、戦乙女として肝が冷える部分がある。
「相変わらず、若いのは楽しそうだな」
「そう言ってる場合か?止めてやれよ年長者」
「ハハハ、今や私は名ばかりの総帥だよ。勘弁してくれ」
サハーラとローガンのやり取りを眺めるロシア支部総帥、ザッツバームとイタリア支部総帥、アルデナ。
十数年前は自分が言い合う立場だったというのに、すっかり他人行儀なアルデナは、止めてやれよと言いながらも楽しそうにしている。
きっと以前自分とアリスが言い合っていたのを思い出して、その光景に近いやり取りを繰り広げる2人に親近感を抱いているのだろう。
ザッツバームはサハーラとローガンの言い争いを見て、呆れたようにため息を吐く。
この場の最年長者はザッツバームだが、彼は現在総帥としての事務的な業務を行なっているだけで、第一線は退いているも同然だ。
彼は悠馬が異能王になった16年前から最年長者の総帥だったが、未だに最年長者をキープしている。
もう年齢的にも70近く、そろそろおじいちゃんの代わりを見つけてあげてと言いたいところだが、彼はロシア支部からの人気が絶大すぎて辞め時を見失っている。
来年で辞めよう、来年で辞めようと思いながらも、周りからの声で辞めることができないザッツバームは、彼自身の言うとおり名ばかりの総帥に近いと言ってもいい。
実力行使の問題は軍部や警察に任せているし、会見やメディア露出はしっかりとしているものの、メインでやっている仕事は前述の通り総帥の事務作業。
そんな彼が、脂の乗っているローガンや、現役バリバリのサハーラの間に割って入ることはできない。
以前なら口出ししていたかもしれないが、もう自分の出る幕じゃないと、ザッツバームは肩をすくめて見せた。
「なぁフレディくん。最近はいつもああなのか?」
場所代わりザッツバームの真正面のテーブル。
後ろに夕夏が控えている寺坂は、陽気に隣に座るイギリス支部総帥、フレディに尋ねる。
「寺坂そ…さん。そうですね。あの2人は特に仲が悪いかもしれないです」
以前はソフィア、アルデナ、アリス辺りが言い合っていたが、今はサハーラとローガンが言い合うことが多い。
半分のメンツが入れ替わり、新鮮な言い争いを見つめる寺坂も、アルデナと同じくニコニコ笑顔を浮かべている。
彼ら古株の総帥からすると、自分たちが通った道を後輩たちが歩んでいるようで微笑ましく見えるのだろう。
フレディは基本的に温厚な人間だから、サハーラとローガンの小競り合いには関わろうとしていない。
そんなカオスとも呼べる空間が広がる中、扉が開かれた。
扉が開かれた瞬間何かを感じ取ったのか、会話をしていたザッツバームは会話を中断し背筋を伸ばし、つられてフレディと寺坂も背筋を伸ばす。
サハーラとローガンも、そんな周りの反応を見て、部屋に入場してきた人物に気づいた。
「暁悠馬…」
ローガンが呟く。
記念パーティーと同じ白と金の衣装に身を包んだ異能王・暁悠馬は、レッドパープルの瞳でローガンを一瞥し、静かに席に座る。
「定刻より少し早いが、今日は集まりがいいな」
いつもはロビーや廊下で時間を潰している総帥や冠位、総帥秘書もいるが、今日はすでに全員が集まっている。
一度室内を見渡した悠馬は、そこに数が少なくなった冠位がいることを確認する。
炎帝のレッドと、風帝のヴェント。
どちらも古株の冠位・覚者だが、2人以外の冠位の姿はない。
チャンやルーカスはどこに行ったのかと疑問を抱く人もいるかもしれないが、無論亡くなったわけではない。
彼らはここ数年の間に、冠を返上すると宣言し、冠位の座を降りたのだ。
チャンやルーカスは年齢的にも50を超え、自分たちの肉体的な衰えから、これ以上の冠位の称号は不要と考えた。
しかしそうなってくると、疑問を抱く人もいるだろう。
なぜ新たな冠位がいないのかと。
世界には覚者と推測される人物が、現在十数人確認されている。
しかし悠馬が異能王になってからというもの、冠位が減ることはあっても、増えることはない。
なぜなら悠馬は、冠位制度を廃止しようとしているからだ。
元々世界的な脅威が発生した際に、対応するのが冠位なわけだが、結論異能王が冠を授けようが授けまいが、各国は覚者を挙って囲っているのだ。
つまり有事の際は、勝手に動いてくれる。
だからすでに各国から囲われて軍人になっているような人々に、新たに冠位という称号を渡してしまうと、隊長の座を降りて冠位になる人物が現れ、単純に隊長+冠位という指揮系統が増加してしまう。
世界大戦後のパワーパランスの見直しで隊長の席を各国統一にしているというのに、そこに新たな指揮系統である冠位が増えるのはダメだろう。
そもそも冠位なんて称号、あってないようなものだ。
あの時のティナとの戦い、強欲との戦いを知っている者たちからすれば、冠位だろうが総帥だろうが、結局は同じ人間。
何人いようが結果は変わらないのに、わざわざ我の強い高レベルな異能力者をこの場に迎え入れる必要はない。
それが悠馬の判断だ。
ヴェントは悠馬の横に立つ、戦乙女隊長のセレスと目が合うと、プイッとそっぽを向く。
「相変わらずキレイな女だ…」
ぼそっと呟く。
17年前にセレスにプロポーズをしているヴェントは、未だにその当時のことを気にしているようだ。
セレスはそっぽを向いたヴェントから視線を逸らし、続いてレッドへと視線を向ける。
レッドは興味なさそうに目を閉じて、壁に背を預けていた。
眠っているのか起きているのかわからないが、元々でしゃばるような男ではないし、スルーでいいだろう。
「それじゃあ、世界会合を始めようか」
「おい待てよ異能王」
ちょうど定刻になり、世界会合を始めようとした悠馬に、アメリカ支部のローガンはテーブルを叩いて待ったをかける。
「なんだ?」
「日本支部の席にお前の女がいるのはノータッチか?」
なぜ日本支部の総帥秘書のポジションに、夕夏がいるのか。
当然世情に詳しい総帥が知らないわけがないと思うが、どうやら夕夏が日本支部の席にいるのが気に入らないらしい。
彼がそう尋ねると同時に、ドン!とテーブルに足を置く音が響く。
あからさまに不快感を露わにするローガンに、反応したのは悠馬ではなくサハーラだった。
テーブルの上に置いた足を組んだサハーラは、ローガンへと冷めた眼差しを向ける。
「見てわかるだろ。アメリカ支部は世情に疎いな。寝ぼけたこと言ってんなら帰れよ」
「あ?武器商人如きが口を挟むな。俺は異能王と話してんだろうが。ラクダでも売ってろよ」
「さっきからガタガタうるせえな。お前の口、今すぐ塞いでやろうか?」
2人の間に漂うピリついた雰囲気が、最高潮に達する。
悠馬が入ってきたことで一度は矛を収めた2人だったが、互いの発言が気に食わなかったのか、この場で争うつもりらしい。
室内に砂が舞う。
どこからともなく入ってきた砂たちは、砂塵というには少ないが、人の口を塞ぐには十分な量があるように見える。
サハーラは砂の異能を発動させ、容赦なくローガンへと攻撃を繰り出す。
しかし砂の異能がローガンへと向かう寸前、サハーラの異能は紫色に輝く何かで抑え込まれた。
「やめろ。暴れ足りないなら俺が相手してやる」
「サイコキネシス…」
「チッ。良いとこだったのに。止めるなよシラけるな」
悠馬が発動させた念動力に、サイコキネシスと呟いたサハーラと、毒づくローガン。
彼は悪態をつくと同時に、両腕を後頭部の後ろで組む。
異能王にも他支部の総帥に対しても、舐め腐った態度は変えない。
そんな態度をとるローガンにピクリと眉を動かした悠馬は、人差し指をグイッと動かして、異能を発動させた。
悠馬が指を動かすと同時に、ローガンは紫色の光に包まれて立ち上がる。
「ぐっ…!」
「…お前のせいで各国の総帥の時間が無駄になってる。お前には価値のない時間かも知れないが、俺にとっちゃ価値のある時間だ。黙らないならお前をここから引き摺り出すぞ」
黙らないならここから退出させる。
彼にその意思がなくても、黙る気がないなら異能を使って強制的に追い出そうとする悠馬は、歯を食いしばって抵抗しようとするローガンを睨みつける。
「議題で触れようと思っていたが…日本支部の一件に関しては、ご存知の通り双葉戀の辞職により、前総帥の寺坂と俺の戦乙女の夕夏に、一時的に業務処理をお願いしている」
別に日本支部に干渉したくて夕夏を置いているわけじゃない。
無論ローガンもそんなことはわかっているだろう。
彼の発言は、悠馬に対する明らかな挑発だ。
悠馬が日本支部の一件に関して触れようが触れまいが、彼は夕夏を日本支部に配置していることを内政干渉だと騒ぎ立てたはずだ。
今回は悠馬よりも先にサハーラが反応したことで矛先が変わり、結果実力行使で黙らせる結果になったが、未だにローガンの考えは読めないところがある。
アメリカンファーストを掲げる彼は、異能王を必要としない社会を作り上げようとしている。
簡単に言うと、今の異能王の立ち位置に、アメリカ支部を据えようとしているのだ。
世界を調停する側、アメリカ支部が全てを管理する社会を作り上げようとする彼と、現在世界を調停する悠馬とでは、最初からソリが合わない。
だからどうにかして、揚げ足を取りたいというわけだ。
目の上のたんこぶとも言える悠馬を前にして喧嘩を売るローガンは、悠馬が発動させた異能のせいで、指先すら動かせないことに苛立ちを覚え舌打ちをする。
「チッ…」
「異論はあるか?」
舌打ちをしたローガンを無視して、悠馬は手を挙げて尋ねる。
この場にいる総帥や総帥秘書たちは、悠馬から異論を問われ、沈黙を貫く。
実際他国の事務処理なんぞ、今ここで話すことではないだろうって気持ちの方が強いことだろう。
何しろ極論隣の国の事務処理を他国の人がしていようが、その過程に問題がなければ自国にはなんの影響もない。
日本支部の総帥、および総帥秘書の代役で寺坂と夕夏を据え置いていると話した悠馬は、全員が数秒間沈黙を貫いたことにより、手を下ろす。
「それじゃあ異論なしってことで。話に進ませてもらうぞ」
これで日本支部の話は終了。
ローガンも場の雰囲気を察したのか、舌打ち以降何も発することなく、世界会合は幕を開ける。




