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dear…  作者: 平平方
最終章Ⅰ
12/43

012

 それから八神に、昨晩変なことがなかったか確認した。


 結論から言うと、八神は昨晩のパラレルワールドの出来事を知らない様子だった。


 それから陸軍の動きや他支部との合同軍事演習なんかがどういう状況か話を聞いて、今度公務ではなく個人的にご飯に行く約束をして解散する運びとなった。


 異能王と陸軍隊長という世界有数の仕事に就いている2人の休みが合うことは少なく、実は今日会ったのだって約5年ぶりだ。


 前回は八神が副隊長になるかもしれない!っていう話をしていたのに、5年で隊長まで上り詰めたのだから大したものだ。


 ちょうど世代交代の時期ではあったが、彼が隊長になれたのは、間違いなく実力あってのことだ。


 なんだか同級生が出世してると嬉しいな。


 八神に続いて南雲も出世しているなんて、本当にすごい世代だと思う。


「ふふっ、悠馬くん嬉しそうだね」


「ああ。みんながいい暮らしできてるって知れると、なんだかこっちも嬉しくなっちゃってさ」


 そういう夕夏も嬉しそうに微笑んでいる。


 亜麻色の髪を靡かせ、両手を背後で組んで歩いている夕夏は、まだ4月とあって少し肌寒い空の下、真っ青な空を見上げながら大きく一歩を踏み出す。


「悠馬くん、なんだか変わったね」


「え?」


 夕夏の不意な発言に、立ち止まる。


「だって戴冠してから去年まで、パーティーには最低限の人しか呼んでなかったし、友達に会うこともほとんどしてなかったのに、急に色々変えたじゃん?何か心境の変化でもあった?」


 夕夏の鋭い質問に、口籠る。


 流石に結婚して16年経過してるだけあって、心境の変化くらいお見通しか。


 戀の一件を建前に動いていたため、うまく騙せていると思っていたが、夕夏は気づいていたようだ。


「まぁ…ちょっとこの歳になってから色々考えてな。…十代後半と二十代の時は子供も居て仕事を上手くこなすのに必死で忙しなく過ぎてったけど、三十になってからなずなんところに子供お願いして、仕事も慣れて自分だけの時間ができた時に、ふと高校の時の記憶が浮かんだんだ」


 これは事実だ。


 十代後半と二十代を費やして異能王として世界平和に尽力してきた。


 子供も出来て子供の成長を見守って、それがすごく楽しかった思い出だが、三十になって子供が空中庭園から出ていくと、昔のことが思い浮かんでくる。


 そういえば高校の時の奴らは何してるんだろう、久しぶりにあそこに行ってみたいな、そういえばこんな約束してたな。なんて。


 きっと誰だってそうだ。


 忙しい時期が終わり、心にも自分の生活にも余裕が出てきたら、連絡が遠のいていた友人に連絡をしたくなる。


 それと同じ心理だ。


 夕夏は悠馬の話を聞くと、「ふーん、そっか」と呟いて再び大きく一歩を踏み出す。


「ところで今日はなずなちゃんちに泊まる?」


「うーん…子供もお世話してもらってるのに俺たちもお世話になるのはまずくないか?一応ホテル取ってるけど」


「え!?ホテル取ってたの!?特に何も言わないから、てっきりなずなちゃんの家に泊まるんだと思ってた!」


 いや、別に泊まってもいいんだけどさ。


 なずなの家は広いし、子供達に部屋を一つずつ与えたってまだ空き部屋があるし、泊めて欲しいって言ったら歓迎してくれるだろう。


 でもなんか、子供は1人2人ではなく、8人もお世話してもらってるのに、そこに大人2人もお世話になるなんて流石に図々しいだろう。


 いくらなずなとの関係が深いとはいえ、流石にそこまでお世話になれないと考えていた悠馬は、ちゃんとホテルを予約して日本支部に訪れている。


 夕夏はなずなの家に泊まらないと聞いて、少し嬉しそうだ。


 多分、なずなの家に宿泊したら久しぶりの2人の時間が減ってしまうことを危惧したのだろう。


 久しぶりのデートを楽しみたい夕夏にとって、なずなの家に泊まらないのは嬉しい誤算のはずだ。


「どこのホテル取ったの?」


「芳賀ん所の1番高いやつ」


「それ本当に高いやつじゃん!大丈夫?朱理のためにグングニル落札したいんでしょ?私がホテル代払うよ?」


 ホテル事業で大きな財を成している芳賀財閥の1番高いホテルなんて、一体いくらするんだろうか?


 ただでさえ朱理に結界契約をさせるためにお金が必要な時期に、そんな高級ホテルに宿泊する余裕なんてあるわけがない。


 少しでも節約して、数百万の差で落札できなかったなんてことがないようにするべきではないだろうか?


 そう考える夕夏は、なぜか余裕そうな表情の悠馬を訝しげに覗き込む。


「ていうか悠馬くん、結婚する前から口座別々だけど、一体いくら貯金してるの?」


「うーん、夕夏は?」


「私は…最後に見た時は13億くらい…」


 結構持ってますね。

 そこいらの家だったら余裕で購入できちゃうじゃん。


 悠馬は彼女たちと貯金を一緒にしていない。


 そりゃそうだ、全員と貯金を一緒にしていたらもはや何が何だかわからないし、花蓮やセレス、オリヴィアなんかは結婚前からの貯金額もかなりあった為、そんな彼女たちにお金を一緒にしようというのは気が引けるねという話になったからだ。


 今まではお金に不自由なく暮らしていたから、お互いの貯金額なんて開示しなかったが、推定落札額20兆円と言われている神器を落札しようとしている悠馬の貯金額は、気になるだろう。


 悠馬は夕夏の貯金額を聞くと、自分の手を広げる。


「俺はこのくらい」


 夕夏は悠馬の5本の指を見て、眉間に皺を寄せる。


「5兆…じゃないよね?50兆…?ごめん悠馬くん、なんか悪いことしてるでしょ?」


 旦那がいつの間にか50兆も貯金してました。


 悠馬の貯金額を聞いた夕夏は、真っ先に悪いことをしてるんじゃないかと考える。


 なにしろ夕夏は、悠馬の異能王としての収入を知っている。


 いくら上手に貯金をしようが、年収を16で掛けたって届かない貯金額に到達しているため、不正を疑うしかない。


 異能王として、実は裏で武器の取引や上納金なんてやってるんじゃないかと考える夕夏は、徐々に青ざめて行く。


「もしかして、最近聖魔さん見ないのって、どこかの国に超高額で派遣してるからとか…?」


 どうやら余計な心配をさせてしまったらしい。


 戀の問題行動よりもそっちの方が大問題だよ!と言いたげだ。


 そんな彼女を見る悠馬は、笑いながら口を開く。


「はは、そんなことしてないよ。高校時代にあったお金全部、なずなと相談して投資に突っ込んでたんだよ。それで少しずつ現金化してて、貯金できてるのが50兆ちょっと。株の資産とか全部売却したら、もうちょっと行くと思うよ」


 厳密に言うと全部売却すれば1.3倍は行くと思う。


 本当になずな様だよ。豊かな生活をするためには彼女との出会いは欠かせなかった。


 高校3年の頃からなずなの勧めで投資を始めていた悠馬は、最初こそ軽い気持ちで投資をやっていたものの、最終的に大成功を収めている。


 夕夏は突然聞かされた衝撃の貯金額と貯金方法に、唖然としている。


「私もなずなちゃんに相談してたら、お金もっと増えてたのかな…」


「いや、そんなにお金あって何買うつもりなの?」


「それはこっちのセリフだよ!?グングニル出品されなかったらその貯金一生かけても使えなかったよね!?何するつもりだったの!?」


 お互い使用用途の決まっていなかった圧倒的な貯金。


 異能王、戦乙女として多忙なため特に使う予定がないのは仕方がないのだが、お互い一体何を買うつもりだったんだ?と疑念を抱いている。


「アヤシー…実は隠し子とかいないよね?」


「いないよ…高校の時の関係から増えてない」


「うん、それなら私が知ってる人だけで関係終わってるね!」


「うん。女性関係のスキャンダルは世間に与える影響大きいからね」


 隠し子がいないと聞いて、安心する夕夏。


 高校卒業以降、女性との深い関係を築いていない悠馬に安堵する彼女は、横に並んだ悠馬の肩に軽くぶつかる。


「貯金の話聞いたから、ワガママ言うね。朱理にたくさん貢ぐんだから、私にも少しくらい何か買って欲しいな?」


「わかった、任せといて」


 朱理と夕夏は高校時代からよく悠馬のことで張り合っていたため、夕夏も何かして欲しいのだろう。


 いつもなら私はいいよ!と答える控えめな彼女が、珍しく私にも少しくらい何か買ってと言うのが可愛い。


 いつも誕生日プレゼントのやり取りとか、記念日とかでプレゼントを贈ることが多かったが、もうちょっとプレゼントを買う頻度を増やしたほうが良いだろうか。


 そう考えた悠馬は、今後も意外とお金がかかりそうな気がしてきて不安になる。


 今度のオークションで貯金が半分になるのは確定だし、これからちゃんと生きていけるだろうか?


 今の悠馬の心理は、貯金が一定より減るのを不安がる一般人のそれだ。


 見慣れた金額が急激(半分)に減る予定の悠馬は、その光景を想像し焦り始める。下手な投資家がグングニルの落札に動けば、貯金が全額消し飛ぶ可能性もあるしな。


 よし決めた、最悪なずなにお金借りよう。


 最終手段、伊奈姫財閥に乞食するという手を思いつき、即決定する。


 伊奈姫財閥は現在なずながトップを務めているし、そもそもこの投資を持ち掛けたのだってなずなが始まりだ。


 ならば彼女も、仕事だけではなく投資でもとんでもない財を成しているに違いない。


 高校の時、無職になったら全員養ってくれると話していたし、現に今子供達を養ってくれているし、絶対にお金くらいなら貸してくれるだろう。


 何故かなずなに対する絶対的な信頼を寄せている悠馬は、お金の心配がなくなって一気に気楽な表情に変わった。


「そろそろ迎えが来る時間だな」


「うん、わざわざ静岡から車出してくれるなんて、なずなちゃん本当に優しいよね。一緒に戦乙女やれたらよかったなぁ」


 いつも何かと協力的ななずなのことを、夕夏も気に入っている。


 日本支部に来た時はこうして車まで出してくれるし、子供たちもちゃんと大切に育てて養ってくれるしで、実際結婚はしてないが家族みたいなものだ。


 可能なら一緒に仕事をして見たかったと夕夏が話をしていると、横に黒塗りの高級車が停車する。


「噂をすれば、迎えだな」


「うん…相変わらず怖い車だね…」


「これに乗ってるのは本物の金持ちか反社だろうな…」


 貴族の乗り物、Rのマークが付いた車は、車を知らない人から見ても怖い印象を与える車だ。


 富の象徴とも言えるこの車に日本支部で乗っているのは、大体社長か反社の2択。


 圧倒的高級感の滲み出る車へと乗り込んだ悠馬は、そこに座っている人物と目が合い、手を振った。


「久しぶり、なずな。元気してたか?」


「久しぶり悠くん。超元気だよ。パーティーの時直接話せなかったから、会って声を聞きたくて、ずっとウズウズしてた」


 嬉しいこと言ってくれるじゃん。


「なずなちゃん久しぶり!いつもありがとう」


「夕ちゃん久しぶり。私が協力できることは少ないから、できることは全部協力させてもらうよ。」


 和気藹々と話す夕夏となずな。


 相変わらず容姿は超一級品だ。


 大海を彷彿とさせる青い髪に、悠馬と同じレッドパープルの瞳。


 あまり日焼けしていない真っ白な肌と、スタイル抜群のプロポーションは三十を過ぎてもモデルのそれだ。


 なずなとは月1くらいの頻度で密会していたが、いつ見ても凄まじいと感じてしまう。


 悠馬が舐め回すようになずなの身体を見つめていると、彼女はその視線に気付いたのか、あざとく髪を払って首を傾げて見せる。


「ん?3人目作る?」


「サラッとぶっ込んでくるな…」


 ていうかまだ欲しいの?


 すでに2人子供がいるなずなは、どうやら3人目を作っても問題ないと考えているようだ。


 身体を舐め回すように見ていたこちらに完全に非はあるが、まさかそんな変化球な返答が来るとは思っていなかった。


 なずなは返答に困っている悠馬を見て、ふっと笑う。


「冗談だよ。言ってみただけ」


「それを聞いて安心した」


「悠くんが欲しいって言うなら頑張るんだけどな」


 そう言ってなずなはけたけたと笑う。


 いや、頑張らなくていいからね?


 悠馬が目でなずなに訴えかけると、彼女は察しているはずなのにニヤニヤしながら首を傾げてくる。


「そういえば黒羽も会いたがってたよ」


「アイツが?」


「黒羽ちゃんゾッコンだもんね〜」


 夕夏、アレはただの高校時代のそういうお友達だよ?


 なずなの策略で日本支部の情報操作の下処理をした際、餌食となってしまった黒羽はいまだに独身を貫き、日本支部の芸能業界のトップに君臨している。巷では女王と呼ばれているらしい。


 もう会わなくなって何年くらいだろうか?


 久しぶりに会ってお茶でもしたら喜んでくれるのかな?


 なずなの話を聞いて、ふとなつかしの人物を思い出した悠馬は、星の散りばめられた天井を見る。


「何も起こらなければ数日間は日本支部にいる予定だから、ちょっと顔出しとこうかな」


「まぁ、それはお任せするよ。私は伝えたからね」

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