会えなかった期間が進めた気持ち
あの後、お盆と正月と帰ってくるタイミングで智里とご飯を食べに行った
恋愛感情なんて全くなかった
ただ単にオタク友達としてお互いが好きなことを話しあって食事をしただけの仲だった
けど例のウイルスが俺たちを進ませた
「(テレビ)4月に入ってからウイルスの感染者が増え医療機関が・・・」
「一気に増えて来たな・・・」
と仕事場のテレビを見つつ事業計画書の準備などをしていると電話が鳴る
「? 家から? もしもし・・・え?佐藤の家でコロナでたの?」
と町内で付き合いがあった親からの情報で智里の弟の康太が感染したと聞いた
康太とは二つ違いで部活の時の後輩でもある
智里はかかってないと思うけど念のためにライン入れておくかと連絡してみる
「おつかれさん。康太コロナだって?」
「そう、私はいないからいいけど親が心配」
「こればっかりは仕方ないよね・・・俺お盆は帰るのやめようと思ってるし」
「私もそうしようと思ってる。食事会もなしだね」
「だなー一年もすればある程度収まると思うし今はお預けだな」
「そうねー、じゃあこっちも何かあったら連絡するねー」
と書かれてスタンプを送り返す
まさかこの連絡から二年も会えないとは思ってもなかった・・・
二年後
コロナもある程度日常化して平穏を取り戻しつつある
さすがに年末は帰郷して親にはあったが智里には連絡だけして会う事はなかった
お互いにまだコロナの事を気にして遠慮したのであった
二年ぶりに会う智里はどうだろうと今日の日は少し楽しみであった
ゴールデンウィークも開けて二週間ぐらいにお互いに休みを取って遠出しようと話していた
一日かけての遠出
でも行くところは決まっている
奈良へ観光
電車でもいいけど車がいいという智里に俺が頑張るかーと腹をくくって了承した
智里の家に着いてインターホンを慣らしてドアが開くと
「あれ? 佐藤?」
「え? なんか変?」
「いや、髪もどしたの?」
「うん、金髪に染めるの疲れちゃって」
以前まで金髪だったのが黒髪にもどり薄い青色のロングワンピース姿の智里にちょっとドキッとした俺
二年ぶりに会うとこうも違うのかとちょっと動揺する
車に乗り込み奈良に向かう
「今日はよろしくね」
「おう任された」
といって安全運転で奈良に向かう最中に智里から要望があった
「真人ってさ、いつも苗字呼びだよね私の事」
「え? ああ、中学時代の癖が抜けないだけだよ」
「じゃあ下の名前で呼べる?」
「え?智里って呼んでいいのか?」
「別にいいに決まってるよ。周りがそう呼んでるのに真人だけそれじゃあさ」
「そうか、じゃあそういう風に努力する」
といってその後はたまーに佐藤と呼ぶときもあったが基本智里と呼ぶようになった
奈良では神社仏閣を基本的にめぐっていた
普通なら聖地巡礼を選ぶはずの智里がここを選んだ理由
「修学旅行だと京都じゃん? 奈良ってあんまり細かく見たことないし」
なるほどと思いつつ色々と見て回ってから帰路につく
車の中ではアニメ談義
ずーっとこの調子だ
だけどこれが心地いい
俺は帰るときにルームミラーで智里の顔をチラチラ見る
「(かわいいという部類じゃないけど悪い部類でもないのに男っ気ないって本当かこいつ?)」
とアニメ談義を遮って聞いてみることにした
「智里はさ・・・男友達とかで出かけないの?」
「え?真人だけだよ」
「は?」
「男友達は真人だけ。後はみんなオタクの女子ばっかり!」
「え?じゃあ聞くけど男性経験は?」
「え?あーそのー、無いの、男性とのデートは何回かあるけど・・・」
その言葉に俺は動揺する
信頼の証か?それとも俺なら手を出してこないという確信でもあるのかと勘繰る
「てか真人はあるの?」
「え?彼女は一度できただけだけど経験もないし、経験する前に破局した」
「じゃあ私と一緒なんだ」
「じゃないだろ!俺が何もしてこないと思った?」
「うーん、確信はなかったけど、真人なら多分自制心が勝つと思って信じた」
どんな確信だよこの野郎と思った
けどこれを聞いて思った
男と言うのを知らなさすぎる
多分押し活優先しすぎて今までこういう誘い自体断りまくってたんだろうなって
「推し活優先しすぎて遅れたオタク女子やな」
「はいそうです! でも今が楽しいから」
そういわれたら否定できない
俺も今が楽しいし智里とのお出かけも楽しい
俺の気持ちは?
智里に揺れ動いた俺の気持ちは?
二年も会わなかったから余計にあって実感した
俺は智里が好きなんだなって
智里はどうなんだろう
多分今の状態が楽しいで済んでいると思う
けど俺の気持ちは多分少し気にしてはいると思う
揺れ動いたこの気持ちを口にするのは簡単だけど行動したら今の仲が壊れるのが怖い
俺は今は動けない
と考えながら運転して家に着く
「智里、おつかれさん」
「真人も運転ありがとうね、今日はたのしかったよ」
「そりゃどうも」
車を降りる智里を見てやっぱり思った
寂しい
もう少し一緒に居たい
けどわがままはいけない
だから
「智里!」
「え?なに?」
「約束な!また遠出しような!」
「うん分かった!」
と言って手を振って別れた
帰ってから溜息をついてのんびりしていると携帯の電話が鳴る
「部長? もしもし・・・え?決まったんっすか! 詳細は今度っすね了解っす」
大規模プロジェクトの始動が決まった連絡だ
どんな役職与えられるかわからないが心が躍った
だが自分の心を進めるしかない選択肢だった