白鳥の静けさ
## ≪雪の訪れ≫
サリバの首都白鳥は初雪を受け、より白くし。周囲の森の木々は赤に染まり森に降りた白鳥をより美しく見せていた。
光雷卿の軍は街を取り囲むように布陣していた。東門には重装歩兵、南門には騎兵隊と弓隊がそれぞれ一万五千ずつの兵力が本隊に1万威圧的な秩序を持って配置されている。
## ≪最後通牒≫
光雷卿は白鳥城門前に設営された天幕で最終確認を行っていた。地図の上に指を滑らせながら彼は副官に指示を出した。
「降伏勧告文はすでに完成している。これを街内に散布せよ」
副官が恭しく頭を下げる。「御意」
白鳥の城壁に取り付けられた投石器から矢文が放たれ始めた。各家庭の窓辺や街角に紙切れが舞い落ちていく。
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**《最後通告》**
**ベルガー軍総司令官 光雷卿より**
本日から十日後、白鳥への総攻撃を開始する。
それまでの期間内に降伏する者は生命を保障し、武器を捨てて即時に安全地帯へ退避せよ。
また非戦闘員の市民には四十八時間以内の退去を認め、妨害行為を行わない限り保護の対象とする。
賢明なる決断を期待する。
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夜の闇に紛れて、密偵部隊が街へと潜入した。彼らの任務は一つだけ――「白鳥内で何が起こっているか正確に把握せよ」
翌朝、内部から最初の脱出者が現れた。老夫婦が荷車を引いて北門を目指している。それを見て他の住民たちも続々と動き始めた。
「あの噂は本当なの?」「軍が攻撃するって」「家財道具はどうなるの?」「まずは命が先だ!」
人々の不安と困惑が混ざり合う中、白鳥の外を目指す、反乱軍は意外にも一切の人々が外に出る行為に妨害行動を取らなかった。ただ静かに見送るだけだった。それはまるで舞台の幕を上げる前の静けさのようで……
## ≪違和感の芽生え≫
光雷卿の天幕に斥候の報告が届いた時、彼は既に違和感を抱き始めていた。
「白鳥市民の退避は順調です。既に半数以上が郊外へ脱出した模様」
通常ならばこの段階で反乱軍による妨害工作が予想されるはずだった。しかし現実は市民の流れを止めなかった。
## ≪静寂の罠≫
白鳥包囲の6日目。朝霧がまだ地表を這う時間帯に光雷卿は天幕から現れた。冷たい空気を吸い込みながら城壁を凝視する。遠くで微かに煙が立ち上るだけの白鳥。通常なら防衛準備の喧騒が聞こえてくるはずなのに……
「静かすぎる……」
幻影の奇襲対策で傍らに控えるダリオに向き直る。「敵は我々の目を白鳥に釘付けにしている」
巨躯の将軍が首を傾げた。「確かに奇妙ですな。城壁の修復も行われていない様子」
光雷卿の脳裏に過去の戦役記録が蘇る。特に幻影の手口──彼等は決して正面から戦わず、常に最も予測されにくい一点を突く。今回の不自然な静寂も計算の内だと確信した。
「ダリオ。仮に私が敵の立場だったらどうする?」
ダリオが太い腕を組んで唸る。「俺であれば……籠城戦はやだですね兵糧がないし。反乱軍は数で劣る。援軍も期待できない士気も低い、逃げの一択ですね」
「そうだ」光雷卿が遮った。「そこでお前なら一番怖い攻撃は何か?」
ダリオは頭で答えを探すように虚空を見つめた後、何を勘違いしたのか閃いたとばかりに、「妻からの攻撃でしょう」即答した。
「妻?」光雷卿の瞳孔が一瞬収縮した。
「えぇ。妻のマリイカの攻撃が一番怖い」光雷卿が難しい顔をする。間違ったなと少し言い換える「それに彼女に危害を加えられたら怒りで正常な判断ができなくなる」ダリオの声には珍しい真摯さがあった。
この正直すぎる発言が光雷卿の脳内に電撃のように走った。マリイカと妻ファリスの姿が重なり合い、そして──ヒヘル市に残してきた二人の子供たちの顔が浮かぶ。
「……まさか」
光雷卿が素早く地図を広げた。白鳥からヒヘルへの街道を指で辿る。迂回路もある。そして当初の市民解放──あれは単なる人道主義ではなく。
「市民の流出に紛れて自らの軍を動かしヒヘルへの攻撃……?」光雷卿の表情が歪んだ。「市民の脱出を黙認したのはそのためか」
「しかし閣下」ダリオが懐疑的に声を上げる。「それが可能ですか?」
「不可能ではない。市民の中に偽装した兵が相当数いればな」
光雷卿の顔から血の気が引いていく。もし敵の狙いが本当に──
「ヒヘルへの攻撃で光雷卿のご家族を人質に取る……あるいは」ダリオが恐る恐る続けた。「家族を殺せば光雷卿に、すれば最大の打撃となる」
「間違いない」
光雷卿が拳を強く握った。その爪が掌に食い込む。
「ヒヘルは現在どんな状況だ?」
「通常の守備隊が配備されていますが」伝令が地図上に指を置く。「兵は多くはありません」
「まずいな……!」光雷卿が天幕の柱を強く叩いた。「すぐに騎馬隊で我はヒヘルに向かうあと!少なくとも一個師団を後から送れ」
そういうとダリオが真っ先に馬を全力疾走で走らせる、ヒヘルには妻マリイカと生まれたばかりの子供がいた。
「ダリオ! 止まれ!」
クラウディオの制止は風を切る騎馬の轟音に掻き消された。騎馬の尻は白い泡が滲み、足元の大地が蹄跡で抉れている。
「あれじゃヒヘルまで馬が持たんぞ」
光雷卿は馬の限界の速度でヒヘルへ後方から続く。光雷卿とカルロス大尉(元近衛騎士兵隊長)と近衛兵の騎馬隊が鎧が軋む音だけがの響いていた。
ダリオは既に視界から消えていた。しかしヒヘルにダリオが一番遅く到着することになる。




