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別のお話で少し書いた龍王様たちのお話です。単体でも読めます。
「お姉様はいつもリーファにはわからないようわざと難しくお話されるんですの。」
そう言って悲し気に涙を拭くリーファリア。ピンク色のふわふわとした髪は真珠で飾られ、後ろ側をガーネットで留めている。確か、ガーネットは殿下の瞳の色だったかしら?
そんなどうでもいいことを考えていつもの茶番をやり過ごす。
「まぁまぁ、リーファニア。クレアスティーネは大聖女だから、それだけ大変な仕事を抱えているんだよ。わかってやってくれ。」
そう言って妹の髪を優しくなでる王太子殿下。婚約者とのお茶会という名目であるにも関わらず、婚約者の自分は対面で、妹はなぜか殿下の隣に座っている。
悲し気に俯き涙を流す妹。殿下の言葉も、妹の言葉を暗に肯定していることに気づいているんだろうか。
はぁとため息を吐きだしたいのを、紅茶を飲んで堪える。
こんなところで無駄なお茶会をするよりも早く帰って本の続きが読みたい。
まだあの病についての考察をまとめきれていないのだ。資料をもう少し読み込まねば。
そう思っていると、殿下が大げさにため息を吐きだした。
「はぁ。クレアスティーネ。君ももう少し妹に配慮してやったらどうだ?大聖女と呼ばれ讃えられても、人として基本的な優しさを忘れてしまっては相応しいとは言えないよ。」
「はぁ。」
人としての基本的な優しさとは、婚約者の前で他の女性と隣り合って座り、その髪を撫で慰めることなのだろうか?
つい生返事になってしまったのが気に入らなかったのか、婚約者こと、リオルド殿下は眉間にしわを寄せてこちらを睨んだ。
「その返事はなんだね?君は本当に心まで傲慢になってしまったのか?」
「お言葉ですが、わたくしは魔力に頼らない医療を推進して欲しいとお願いしていただけですわ。それも、妹にではなく、殿下にお話ししていたつもりです。」
「もう止めてください!殿下まで悪く言うような、そんな事!わたくしが悪いのですわ!ですからっ」
妹がわざとらしく大きな声で会話を遮り、大粒の涙を流す。それを再び優しくなだめるリオルド殿下。いつもこの調子で一向に私のしたい話ができない。
「君は大聖女と呼ばれるほどに治癒力があるんだ。それなのに魔力に頼らないなど、まるで獣のような発想だな。理由を付けてまで聖女の仕事をサボりたいのか?」
そう言って私をきつく睨んでくるリオルド殿下は先ほどの話を何も聞いていなかったのだろうか?
「先ほども言いましたが、私は朝から晩まで神殿で人々に治癒を施しております。サボったことなどありません。それに、魔力に頼らない方法が必要なのは聖女の怠惰のためではありません。人々の魔力の低下と魔晶石の採掘量不足、これが原因ですわ。」
先ほど言った言葉をもう一度繰り返すが、リオルド殿下は大げさにため息を吐きだし首を振った。
「君は大聖女と讃えられ驕ってしまっている。その高慢な態度を改めなければ、次期王妃にふさわしいとは言えない。……君の次の休暇は3日後だったか。枢機卿には掛け合っておくから、その日も教会でしっかり人々の治癒に勤めなさい。真面目に働けば少しはその驕りも減るだろう。」
そう言って再び妹の涙を拭き始める殿下。
その休暇は実に半年ぶりの休みなんですが?それも忙しい中にやっととれた1日だけの貴重な休み。
「殿下、それでは殿下がお休みをとられた意味がなくなってしまいますわ!せっかくお忙しい公務の合間を縫ってお姉様のためにお休みをとっていらしたのに!」
「いいんだ、リーファニア。これもクレアスティーネのためだ。私も耐えよう。」
「でも、それでは殿下のお身体が心配です。お休みもなく働き続けるなど…。そうですわ!その日はわたくしも予定が空いております。お姉様に変わって、わたくしが殿下を我が家の庭園にご案内しますわ。」
私は半年以上休みなく働かされているんですが?そして殿下の公務は週4日、3日間は完全にお休みで執務すらしていませんよね?
そして妹に至っては、同じ“聖女”なのに教会で働くこともしていないし、私に代わって、というのも訳がわからない。
「ありがとう、リーファニア。君の思いやりにはいつも救われているよ。」
そう言って手を握り合う二人。
これはもうアウトなんじゃないでしょうか。
婚約者の前でとるべき態度ではないし、未婚の男女としてもなかなかにアウトだろう。
しかし、ここで何を言っても私が悪いことにされ、休みを取り上げる口実にしかされない。それがわかっているだけに、私はまたため息の代わりに紅茶を一口すするのだ。
はぁぁぁぁ。私のお休み。
東の端で獣王国と魔境に接する小さな国、それが我がエーデル王国だ。大陸の東側を魔境と呼ばれる魔物が占めるこの世界で、残りの大陸の南側を広く占める獣人の国ドラゴニア。そして北側にいくつか存在する人の国。
周囲の大国に飲み込まれることなくこの国が残ってこられた理由は、獣王国に触接接したくない、という隣国の思惑と聖女を輩出するほど魔力の高い人間がいる、この2点に尽きるだろう。
聖女とは強い光魔法を使える人間のことだ。人には潜在的に魔力が備わっており、それにはいくつかの適正がある。火、水、風、土といった風に分類される中で治癒魔法に特化した光魔法は希少性が高い。そのため光魔法に適正があるとわかると“聖女”または“神官”と認定され教会で働くことが義務付けられている。貴族も平民も例外はなく、特に光魔法の強いものは“大聖女”、“大神官”と呼ばれ特別な地位を与えられる。教会で働くことは平民には憧れとなっているが労働を嫌う貴族には蔑まれる傾向にあった。
公爵家の長女であったクレアスティーネは、その魔力の強さからわずか7歳で“大聖女”として認定されたが、それ以降ずっと教会で働いているため貴族社会では“けっこうな働き者”と揶揄されている。
それでもこの国が“聖女”や“神官”を失えないのは医療の全般をその治癒魔法に頼っていることと、隣国に派遣し恩を売ることで自国の地位を守っているからである。
“大聖女”が認定されたら国にとどめるために王子の婚約者になることが義務付けられている。
そのためクレアスティーネも“大聖女”と認定された時点から王太子のリオルドの婚約者となった。
影で揶揄しながらもその力を手放せないエーデル王国。
周囲に馬鹿にされるような婚約者がいることがリオルド殿下には受け入れがたかったのだろう。昔から自分にきつくあたる王子の態度を見ていると、この先結婚してもやっていけないのではないかと思う。
そして鬱憤を晴らすかのようにクレアスティーネの2つ下の妹にかまうようになった。
妹のリーファニアはピンクブロンドに緑の瞳の美しい娘だ。甘えぐせがあるが、幼く可愛らしい顔立ちの彼女が甘えれば、両親も周囲も咎めるどころか可愛らしいともてはやす。彼女にも光魔法の才があり聖女となったのに、教会で働くなんてできない、と泣いたおかげで免除された。
対してプラチナブロンドの髪に同じく緑の瞳のクレアスティーネは真っ直ぐな髪とややきつい目元のせいで厳しいだとか、冷徹だと言われることが多い。
“働き者”と揶揄されることも両親のプライドを刺激したのだろう。いつの頃か、両親は妹ばかりをかわいがるようになり、クレアスティーネのことはすべて教会に任せきりの状態だ。
今更愛されたいとは思わないが、妹の教育はどうなっているのだろうか?
それだけは少し心配になってくる。今年で彼女も16歳、デビュタントを迎える年だ。それなのに姉の婚約者への態度ですらこれでは、礼儀や慣習が重視される貴族社会でやっていけるだろうか。
そんなことを考えているうちにお茶会は終了したらしい。リオルド殿下が妹をエスコートして退室していくのを尻目に自分も立ち上がり帰宅の準備を整える。
自宅で開かれたお茶会にも関わらず、クレアスティーネが帰るのは自室ではなく教会だ。7歳の頃から教会に預けられた身としてはもはや実家は他人の家だ。私室も残っているのか怪しいもので、泊っていくかと聞かれたことすらない。
はぁ、とようやくため息を吐きだして帰りの馬車に乗り込んだ。
とりあえず帰ったら資料漁りの続きをしなければ。




