怒気
午前中の授業が終わった煌大は、高校の校舎へと足を踏み入れていた。
高校の午前中の授業ももうすぐ終わるはずなので、剛毅の教室近くで待ちながら、スマホのアプリを開き、今朝兄に送ったメッセージが既読になっていないことを確認する。
(ホント、メッセージ送ってもなかなか見ないんだよな)
兄の行動に溜息を零しているとチャイムが鳴り、高校生達が教室から出てくる。
高校生達は中学生の煌大の姿を目にすると、不審に思いながらも、昼食をとるため食堂や屋上へと向かう。
人の流れが落ち着くと、煌大は教室を覗く。
(えーと、兄貴は・・・・・・いた!)
教室の後方で気怠そうにしている兄を見つけた。
どこからか自分を凝視する視線を感じたのか、目が合い、軽く手を挙げる煌大。
「煌大」
思いも寄らない来訪者に、先程まで見せていた怠惰な表情は消え、笑顔で弟の元へと駆け寄る。
そんな剛毅の姿に、教室で昼食をとっている生徒達がザワつく。
煌大は兄の身体に隠れながら、兄の同級生達の反応を見逃さなかった。
(ホント、兄貴はどこでも人気者だな)
見慣れた光景に煌大は苦笑いを見せる。
「どうした?こっちに来るなんて・・・何かあったか?」
「・・・いい加減スマホ見る癖つけてくれよ」
「あー、ごめん。悪かった」
頭を掻きながら謝る剛毅だが、また同じことを繰り返すだろうなと思う煌大だった。
「じゃあ、ついてきて」
「?」
「早く行かないと昼休みが終わる!」
「あ、ああ?」
煌大の気迫に圧倒され、おとなしくついて行こうとすると同級生に呼び止められる。
「杞龍、それお前の弟か?」
視線を横に移すと、体格の良い男達が立っていた。
昨日、帰り際に剛毅を遊びに誘った男だった。
(・・・イヤな感じ)
無遠慮な視線と嫌らしい笑みを兄に向ける彼らに、嫌悪感を覚える煌大。そしてその予感は正しかったとすぐに分かった。
男の一人が自分を凝視してくる。
「?」
「似てない兄弟だな。お前ホントに杞龍の弟か?」
ピキッ!
「!!」
(やばい!)
瞬時に剛毅を見ると、煌大は息を呑む。
父親と疎遠である剛毅だが、それでも家族を、家族の心を尊重している。だから無謀なことはせず、今も学校に通っている。
そして家族の中でも、特に弟の煌大は、剛毅にとって目に入れても、例え彼に殺されても喜ぶほど特別な存在だ。
そんな二人は似ていない兄弟だと言われるが、煌大はまったく気にしない。
しかし、剛毅は違う。
小学校の時も似たようなことが起こり、剛毅は同級生をボコボコにし、大惨事になった。
今もあの時と同じように剛毅は同級生へと襲いかかろうとするが、あと一歩のところで煌大が彼の腕を思い切り掴んだ。
「煌大、放せ!」
「昼休みが終わる!」
有無を言わさず兄の腕を引っ張る。
「煌大!・・・邪魔するな!」
隠すことなく怒りを露わにする剛毅を見ることなく腕を引っ張りながら歩みを進める。
「あんなのに構うなんて時間の無駄」
「煌大!」
「初めて言われたわけじゃないし、俺は気にしてない。それに間違いなく兄弟だって、俺達は分かるだろう?それとも兄貴は分からない?」
急に剛毅の足が止まり、つられて煌大の足も止まる。
後ろを振り返ると真っ直ぐに自分を見つめてくる兄の姿がある。
「俺達は間違いなく兄弟だ」
真剣な眼差しを受け止めると煌大は笑う。
「じゃあ、他人が何を言おうといいじゃん」
「・・・・・・・・・・・・そうだな」
納得はしていないが幾分冷静さを取り戻した剛毅は小さく笑う。そんな兄の姿を見ながら心の中で苦笑する。
(とりあえず病院送りは回避できたな・・・)




