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兄弟の絆  作者: 木邑 浩二
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決意

「ごめん!遅くなった!」


息を切らしながら杞龍家に駆け込む煌大。それを剛毅達の息子が出迎える。


「いらっしゃい、煌おじさん」


「お疲れさま〜」


「・・・・・遅いよ」


「煌おじさんだー!!」


末っ子の総が煌大に抱きつく。

剛毅と千里が亡くなってから、六年が経っていた。今日は総の誕生日で、休日と云うこともあり、家族全員でお祝いをしていた。唯、煌大は緊急手術が入り、遅れての参加となってしまったのだが、他の家族は既に帰ってしまったようだ。

総は煌大から身体を放すと、彼の両手に目を移す。


「それ何?」


少し気まずそうにしながらも総に差し出す。


「こっちは誕生日ケーキで、こっちは総へのプレゼント。誕生日おめでとう、総」


目の前の大きな包にキラキラと目を輝かせる総。プレゼントのほうへと抱きつくと、無邪気な笑みを煌大に向ける。


「ありがとう、煌おじさん!三兄見て!」


「良かったな」


「開けるか」


「うん!」


興奮した表情で、包むを開けていく総。そしてそれを見守る二番目の兄、継と三番目の兄、翔。


「ケーキ預かります」


「ありがとう、嗣。もうみんなで食べたとは思うけど」


「今日はお祝いなんですから、たくさん食べれて総も嬉しいですよ」


「なら良かった」


「夕飯まだですよね、すぐに用意するので総達と遊んで待っててください」


冷蔵庫にケーキをしまいながら、煌大用に除けていた夕飯を取り出す嗣。


「ちょっとしたら帰るから気にしなくて」


気遣いを口にしようとしたら、瞬時に嗣が詰め寄ってきた。


「ダメです。これから総の誕生日パーティー第二弾をはじめるので、煌おじさんも参加してくれないと!」


笑っているが目は笑っていない。甥っ子の威圧感に圧倒され、煌大はすぐに首を縦に振り、降参のポーズをとる。

満足した嗣は背を向け、用意を始める。煌大は総達と遊ぶ前に和室へと向かう。


「兄貴達に挨拶してくる」


「はい、できたら声かけますね」





和室の襖を開けると、室内には仏壇が置かれていた。そして、そこには満面の笑みを浮かべ寄り添う剛毅と千里の写真が飾られている。

仏壇の前に座り手を合わせ目を閉じる。


(兄貴、千里さん。元気にしてる?子供達も元気にしてる。子供の成長ってあっという間だよ)


兄達が亡くなり六年。過ぎてしまえばあっという間だったが、今だあの日からの喪失感は消えない。子供達も何とかやっていってはいるが、やはり時折寂しそうな表情を見せることがある。

だから、嗣達には言えない。

剛毅達が死んだのは事故ではなく、誰かに殺されたのだと。



一年前。千紫寺家を訪れた際、道成と鳴﨑が話しているのを、偶然耳にしてしまった。道成はずっとそれを調査していて、煌大達に話すつもりもなかったと。

でも、知ってしまった以上、煌大のすべきことは決まっている。


(犯人を殺す!)


煌大は両拳を握りしめる。


「煌おじさん、嗣兄が準備・・・・・どうしたの?」


煌大の夕飯ができたので、総が呼びに来たのだが、初めて目にする暗い表情に臆してしまう。


「兄貴の、お父さん達のことを思い出していたんだ。ごめんな、怖かったよな」


無理矢理笑顔を取り繕う。総はひっそりと煌大に近づき、彼の膝の上に座る。


「・・・・ねえ、煌おじさん」


「ん?」


「僕のお父さんってどんな人だったの?僕、あんまり覚えてなくて・・・・・お母さんは何となくだけど、覚えてるんだけど・・・・・三兄に聞くのも、その、悪いのかな、って思って・・・・・」


「・・・・・総」


剛毅は父と一緒で、基本的に家を空けることが多かった。根が真面目なので、道成の海外出張にも着いて行くことがあったからだ。特に総は、剛毅と過ごしたのは三歳になるまで。父親を覚えていないのは無理もない。そして、両親を求めてしまうのも当然のことだ。

煌大は小さな総の身体をギュッと抱きしめる。


「お前のお父さんはカッコよくて、強くて、優しくて、自分に厳しくて、ちょっと過保護で、そして、どんな時でも家族を想う、素敵なお父さんだった。お前達を残して天国に逝ってしまったのは悔しいし悲しいと思ってるだろうけど、今もきっと総達を見守ってる」


「・・・・本当?」


「ああ」


大きく頷く煌大。


「そっか・・・」


総が照れながら嬉しそうな表情を見せると、煌大もつられて笑う。そして総を抱き上げる。


「ご飯を食べながらもっとお父さん達のことを話してあげよう」


「え、でも・・・」


気まずそうな総に心配いらないと微笑み、総の頭をクシャクシャに撫でる。


「お父さん達を知りたいと想う気持ちは悪いことじゃない。我慢して聞かないほうが悪いことだ。それに嗣や継、翔もお父さん達のことをもっと知りたいはずだ」


自信満々に言い切る煌大に不安を払拭され、勇気を貰った総は心の底から笑う。


「うん!ありがとう、煌おじさん!」


総を抱きかかえたまま、和室をあとにする。

仏壇の写真に温かな笑みを送りながら、襖をそっと締めた。

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