絶望
煌大の意味不明な発言に、隆一は笑い飛ばす。
「ビビっておかしくなったか?」
「隆一、さっさとやっちまおーぜ」
「さんせー!」
「じゃあ、隆一の次は俺がやる」
煌大の前で隆一達が好き勝手騒ぎ出す。
「始めるとするか」
手始めに煌大の顔を殴ろうと拳に力を込め、鼻息荒く殴りかかろうとした隆一。
しかし煌大の間の抜けた言葉に身体が止まる。
「あの〜、ケガしますよ」
「何を・・・・・・うわっ!!」
すさまじい勢いで煌大と隆一の間に物体が飛来し、反射的に隆一は後ろに飛び下がる。
それは煌大の両足を縛っていた縄を切り裂き、床に突き立つ。
ひとつ間違えれば自分の足が大怪我を負っていたのに、煌大は平然としている。
視線の先には煌大の片割れで、分身でもある刀【火坐丸】が光り輝いている。
隆一達は突然現れた刀に目を奪われ、驚きのあまり声がでず、動けなかった。誰かが意図的に投げたにしては軌道がおかしく、まるで刀に意思があり、煌大を助けにきたかのように見えてしまい、その場の空気が一瞬にして凍りつく
「煌大!!」
「!?」
静まり返った室内に声が響き渡り、隆一達は一斉に声の方へと振り向く。
そこには竹刀袋を握り締め、駆け込んできた剛毅の姿があった。
「・・・・・杞龍が、何で・・・・ここに?」
剛毅の両目は、両手が縛られ、隆一達に取り囲まれている煌大へと釘付けになる。
どう言い訳しても、一方的な暴力行為の現場だ。
(こいつら!)
剛毅のこめかみに血管が浮かび上がり、迷うことなく煌大の元へと駆け寄ろうとする。
「兄貴!直兼さんを!」
「!?」
煌大の叫びに足が止まると、彼が向ける強い視線の先へ首を動かす。
そこには眠る千里の上に跨り、衣服を脱がせる修一の姿があった。
「!!」
剛毅はゆっくりと修一へと向かいながら、手にしている竹刀袋から自分の刀を取り出す。
すると煌大の刀【火坐丸】と、剛毅の刀【火壬切】が振動する。煌大の場所から剛毅の表情は見えないが、確信する。
(あいつ死んだな)
剛毅が一歩、また一歩と修一に近づく。慌てて千里から離れ、修一は近くにあった鉄パイプを手に取ると剛毅に対峙する。無数の殺気が自分の身体を貫き、全身から汗が吹き出てくる。初めて目にする刀もそうだが、それを当たり前に持つ剛毅の姿を神々しいと思ってさえしまう。
「・・・何でそんな物、持ってんだ・・・俺の邪魔を」
「黙れ」
「!」
剛毅の迫力に息を呑む修一。身体がガタガタと震え出すが、止まらない。
しかしここで引き下がれない。修一は自分を鼓舞して剛毅に襲いかかる。日常的に鍛錬を積み重ねている剛毅にとって、修一の動きはあまりに幼稚なもので、振り下ろされる鉄パイプを避けると修一の足を蹴り払う。彼は手に持った鉄パイプを手を放してしまいそのまま地面に倒れるが、急いで上半身を起こすと自分を見下ろす剛毅と目が合う。
「お、おい、ちょっと待て!武器を持たない人間に」
「・・・・・一般人に刀を使うのには抵抗がある」
「・・・だ、だよな」
剛毅の呟きに、修一は一筋の光が見えたと思った。
しかし、剛毅は無情にも修一の左足に刀を突き立てる。
「うわぁぁーーー!!!」
激しい痛みが修一を襲い、血が流れ出す。
苦しむ修一の姿を見ても剛毅の表情は変わらない。むしろ虫けらを見る鋭利な目が、彼の感情を語っていた。
「お前は一般人じゃない。クズだ」
「や、やめ・・・」
剛毅は刀を抜くと両手で柄を握り、怒りの感情を刀にのせて振り下ろす。
「修一!!」
血飛沫を吹きながら、修一は絶命する。
全く予想していなかった弟の無残な姿にすぐさま駆けつけようとする隆一。
しかし、彼は動かなかった。
否、動けなかった。
助けに動けば直ぐに殺されると本能が叫んでいる。
恐る恐る首を動かすと、両手の縄も解かれた少年がゆっくりと立ち上がっている。
右手に【火坐丸】を持つと、切っ先を隆一に向ける。
「あんたの相手は俺だろう?」




