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兄弟の絆  作者: 木邑 浩二
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理由

杞龍剛毅(きりゅうこうき)は毎朝五時に起床する。

眠たい目を擦りながら洗面所に行き、簡単に身支度を整え家の近くをジョギングする。そして杞龍家と深い繋がりのある千紫寺家所有の道場に向かうと、場内では彼の父親が正座で待ち構えていた。

場内に入室する前に一礼し、父親の前に座る。

剛毅が座ると開口一番に告げた。


「剛毅、この間言っていた学校の件は認めん」


(それでこそ、お父様)


怒りを抑えながら静かに告げる父親に、剛毅は心の中でひっそりと腹黒く笑った。


「・・・・・いずれ私は父さんの後を継いで千紫寺家の当主を守る。それなら学校を辞めて一日でも早くその役目を担いたいです」


息子の頑なな態度に父親は頭を抱える。


「高校に入学したばかりだ。大学を卒業してからで良い」


「父さん!」


非難の声を上げる息子にこれ以上父親は取り合うつもりはなかった。


「話しは以上だ。始めるぞ」


「・・・はい」


(頑固ジジイ)


それ以上の会話はなく、父親が立ち上がると剛毅もそれに習い、毎日の日課である乱取りを始めた。

代々、杞龍家の長男は千紫寺家の当主に仕えている。それは平安時代から続き、現在は剛毅の父親がその役目を担っている。いずれは剛毅が引き継ぐため、朝は父親や千紫寺家が手配してくれた各武術の先生達と稽古し、夜は自主トレーニングを毎日繰り返している。

剛毅としては、さっさと学校を辞めてその役目を担いたいと思っている。

だから数日前に両親にその話しをしたのだが、猛烈に大反対された。

そして今日も断固として譲らない父親に内心苛立つ剛毅だが、両親(特に父親)が簡単に首を縦に振らないことは予想済みだったので、これくらいで諦めるつもりはない。

既に将来(みち)は決まっているのに、何故それを引き延ばそうとするのか・・・・・・・学校に通い続ける意味が剛毅には見出だせなかった。






稽古を終えた剛毅は道場を清掃すると、自宅に戻りシャワーで汗を流した。リビングに行くと父親は既に千紫寺家にご出勤していたようで、姿はなかった。

母親が準備してくれた朝食を食べようと席につくと違和感に気づく。


「母さん、煌大(こうた)は?」


いつもなら母親と弟の煌大の三人で朝食をとるのだが、今日はかわいい(・・・・)弟の姿がない。


「昨日の宿題を終わらせるって言って学校に行ったわ。昨日終わらせておけばいいのに」


一緒に朝食を摂りながら、慌てて家を飛び出したもう一人の息子、煌大の姿を思い出し溜息を零す母。


「いいじゃん。宿題をしない誰かよりはマシだろう」


味噌汁を口に流し込みながらにやりと笑う息子を一瞥する母。その大きな両目が極限まで細められている。


「そうね、誰かさんは宿題を学校に置いて帰る毎日よね」


母の言葉を否定せず、苦笑しながら席を立つ。


「ごちそうさま」


「待って、剛毅」


「?」


呼び止められ振り返ると、お弁当箱を二つ渡された。


「こっちは剛毅で、こっちは煌大のお弁当。あの子急いで家を出たから忘れたみたいなの。だからよろしくね、お兄ちゃん」


満面の笑みを向けてくる母に、剛毅もつられて笑う。普段、お昼は学食で済ませる兄弟だが、偶に母が弁当を作ってくれる。今日は当たり日だったようで、一生懸命作った母としては意地でも食べさせたいとの思いがヒシヒシと伝わってくる。

実際母の料理は美味しいのだが・・・・・。


「了解。お母様」


二つの弁当を受け取ると、剛毅はいつもより軽い足取りで学校に向かった。


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