噂
誰もいない教室で自主学習をしていた煌大は、窓から他の生徒達が登校してくるのが見え始めると、キリの良いところで勉強を切り上げた。
ちょうど教科書を机の引き出しにしまっているところで、教室のドアが開いた。
「煌大おはよー、今日も早いなー」
「おはよー」
「今日もめっちゃ寒いよな」
同級生達は自分の席に座ると、鞄から教科書を取り出し引き出しに入れたり、ロッカーに上着をかけたりする。
隣の席の同級生も上着を脱ぎながら、ちらちらと煌大を見てくる。
(・・・・・・・?)
不快ではなかったが、気になるので声をかけてみた。
「何?俺に聞きたいことでもあるの?」
「!・・・あ、その、あの・・・さ」
あからさまに動揺している同級生。その頬は少し赤いように見えるが、煌大は意味が分からず首を傾げる。煌大の視線に観念した同級生は思いきって口を開いた。
「煌大って、直兼千里と付き合ってるの?」
「・・・・・・は?」
思いも寄らない同級生の質問に、煌大の表情は固まる。その表情を見た途端、その情報はでまかせだと、同級生は察した。
「やっぱり違うのか。他のクラスのやつから煌大と直兼が一緒にいるところをよく見るようになった、って聞いたから、付き合っていると思ったんだけど・・・・・・悪かったな、勘違いして」
(・・・最悪)
同級生の言葉に頭を抱える。確かに千里に何度か勉強を教え、また、兄貴から頼まれた物を渡したりしたことはあるが、回数もそんなに多くないので、誰かに見られても友達にしか見えないと思っていたのだが、まさかそんな噂が流れているとは思わなかった。
(俺の読みが甘かった)
顔をあげると、ハッキリと同級生に答えた。
「付き合ってない」
「だよな、その顔見れば分かる。ごめん」
同級生は苦笑しながら手を合わせ謝罪する。彼に悪気がないのは分かっているので、心の中で小さなため息をつきつつ、謝罪を受け入れようとすると、教室のドアが勢いよく開いた。
「杞龍、いるかな?」
ご指名された煌大はドアの方へと視線を移す。そこには稲生修一が、冷ややかな表情を携え立っていた。
彼の登場に、不安しか感じない煌大だった。
(嵐の前触れだな)




