真意
「初めてじゃない?あなた達が喧嘩したの?」
「・・・そうだっけ?」
朝食の味噌汁を一口流しこんでいると、テーブルを挟んで、反対側の椅子に座った母が、楽しそうに自分を見つめてくる。
母にはあの日のことは何も言ってない。でも、毎日弟にベタベタしていた兄が、急に弟に構わなくなったら、二人の間に何かがあったのだとすぐに気づくだろう。
あの日から、三日が経っていた。
あの日以来、剛毅の姿を見ておらず、間違いなく兄は自分を避けている。
「母さん、何で嬉しそうなの?」
「二人が喧嘩するなんて初めてでしょ?またひとつ、二人が成長したんだと思ったら嬉しくって」
「普通は兄弟喧嘩したら悲しんだり怒ったりするんじゃないの?」
少し(?)ズレている母の感性に、度々悩まされている煌大だったが、こんな母だからこそ、杞龍家でやっていけてるのかな、と思う。
「どうせ剛毅のほうが耐えられなくなって、また元通りになるんだから、そんな心配はするだけ無駄よ。今回の喧嘩の原因だって、剛毅があまりにも自分を大切にしないから煌大が怒ったんでしょう?あとは少しでも弟離れをしてもらうためかな?」
思わず箸の手を止め、両目を見開くと、母の顔を凝視する。
「よく分かったね。もしかして俺達の知らない超能力でもあるの?」
「何言ってるの、それぐらい二人の母親なんだから分かるわ!」
「・・・普通は分かんないと思う」
息子の真顔に母は苦笑する。
「剛毅は私達家族を本当に大切にしてくれてる・・・・・特に煌大、あなたのこととなると周りが見えなくなるのよね。だから先走って自分で何でもかんでも抱え込んで解決しようとしてしまう・・・・・それは悪いことではないけど、剛毅が傷ついたら私達が悲しむってことを、もう少し分かって欲しいわね」
「・・・・・うん、兄貴にはもうちょっと広い視野をもって欲しいね」
母の意見に心から賛同する煌大。兄が自分達を大切にしてくれるのは嬉しい。でも兄もいつかは自分の家族をもつ日がくるかもしれない。その時にはその家族と、そして家族のために自分を大切にして欲しい。だから今からでも、少しずつ兄を矯正していかなくてはと思う。そう思うようになったのは、直兼さんのおかげだと煌大は感じている。
(兄貴、顔は良いけど、直兼さんに振られたら次はないんじゃないかな?)
自分の夢想に耽っていると、母の熱烈な視線を感じた。
「どうしたの?」
「煌大、あなたまだ中学一年生よね?」
「そうだよ」
「言うことが大人び過ぎてる!もうちょっと子どもらしくしなさい!」
「何でだよ!」
「ダメよ!まだ可愛い盛りなんだから!」
「何言ってんだよ!」
兄の性格は間違いなく母譲りだと思いながら、これ以上母に絡まれないうちに、朝食をさっさと済ませた煌大は、そそくさと学校に向かった。




