祭日
兄の剛毅と直兼千里を会わせてから三ヶ月が経っていた。
煌大の心配は杞憂に終わり、二人は良い関係を築いているようで、偶にお昼を一緒に食べたり、頻繁にスマホで連絡を取っているようだ。
兄貴は毎日でも一緒に食べたいと思っているようだが、偶にとお願いしているのは千里の都合であり、兄貴が理由とは彼女は言ってはいないようだ。
多分兄貴に言っても理解できないと思うので、俺もそれには賛成だ。
彼女のおかげで、兄貴の他人に対する態度もすこーーーーーーーし緩和されたと思う。それにスマホも見るようになったので、直ぐに返信がくるようになった。
それより何より、学校を辞めたいと口にする回数が少なくなった。
これには母が大喜びしていた。
でもまだ諦めたわけではないので、予断は許されない状況だ。
(直兼さんから言ってもらったら諦めるんじゃないか)
自分の考えに思わず苦笑する。
(そんなに単純な兄貴じゃないか)
窓から外を眺めると、陽が落ち始めていた。
図書館で勉強をしていた煌大は、集中力が切れたのが分かると片付けを始めた。
残り一週間で夏休みも終わるが、そのほとんどを図書館での勉強に費やし、時々友達と遊び、稀に兄貴のトレーニングに付き添った。
(あっという間の夏休みだったな)
図書館を出て伸びをすると、階段下で座っている人物と目が合った。
「お疲れ」
「兄貴?ここで何してんの?」
剛毅は立ち上がり軽くお尻を叩くと煌大に近寄る。
「図書館で勉強してるだろうと思って待ってたんだ」
笑いながら弟の頭をクシャクシャに撫でる。それを受け入れながら兄の顔を凝視する。顔を赤くし汗をかいている。
「それなら連絡してよ、いつから待ってたの?」
鞄に入れていた水筒とハンドタオルを渡すと、剛毅は笑って受け取り喉を潤す。
「勉強の邪魔したくなかったから連絡しなかったんだ、気にするな」
「気にするよ」
不貞腐れ顔の煌大に、思わず笑みが零れる剛毅。
「じゃあ、行くか」
「?どこに?」
水筒を鞄になおしながら首を傾げる煌大。その仕草をカワイイと思いつつ、気を取り直すと輝く笑顔を煌大に見せる。
「祭り」
剛毅に連れて来られた場所は、千紫寺商事が主催する夏祭り会場だった。
たくさんの出店に人、活気と熱量に煌大は目を丸くさせ、その隣で剛毅は穏やかな笑みを注いでいた。そしてその周りで女の子達の熱い視線が剛毅に注がれていたが、それには気づかない剛毅。
「オヤジの会社が初めて夏祭りをするって聞いて、絶対煌大と来ようと思ってたんだ」
「・・・・・・」
「勉強も大事だけど、今日の夜ぐらいは俺に付き合ってくれないか?」
「・・・・・・」
反応がなく無言の煌大に、サプライズはまずかったか?それとも祭りは嫌いだったか?と剛毅は内心焦る。
「あ、ちゃ、ちゃんと母さんに許可もらったから、お、遅くなっても大丈夫・・・あ、それとも静かな所に行くか?それともなにか食べる、か?」
兄の心配をよそに、煌大は違うことを考えていた。
(・・・・・どうせなら直兼さんを誘えばいーのに)
弟優先の兄にダメ出ししながらも、兄の気遣いに喜ぶ弟だった。
「もちろん兄貴がおごってくれるんだよね?」
煌大が無邪気に笑うと剛毅もつられて笑う。
「当たり前だろう!俺に任せろ」




