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前説
杞龍家の人間は、必ず刀と共に生まれる。
何故刀と共に生まれるのか、父さんも祖父さんもその理由は分からないらしいけど、恐らく主である千紫寺家当主を守るため、というのが有力説だ。
俺も刀を持っているが、兄貴のように常時携帯はしていない。
理由は簡単、必要がないからだ。
戦国時代なら分かるが、今の時代に刀を所持しているのがバレたら間違いなく捕まる(笑)
それに今は父さんが当主を護衛しているが、いずれは兄貴がその責を負う。
だから俺には必要ない。
俺が刀を握ったのは二度だけ。
一度目は三歳の誕生日。刀の名前を知るために、わけも分からず父さんに無理矢理握らされたらしい。
二度目は十三歳の冬の日。あの日が人に刀を向けた最初で最後の日で、俺にとって特別な一日となった。




