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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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49.久しぶりの叡知の世界とティナの乙女心



 『おっ、久しぶりだなぁ。でかくなったなお前。……で、それは何だ? その手は』


 「はは、やっぱり無理でした」



 ここは辺り一面白い世界だ。あるのは目の前の白い影とズラリと並ぶ本棚だけ。


 私は先程まであった、ありったけの天球儀を魔術でこちらへ転送しようとした。が、その手は空を掴むのみ。



 『バカだなぁ。ここには物質は持ってこれない、何度も俺は教えたはずだぞ』

 「でも、叡知だし、中身だけでもこっちに持って来れるかなぁと……」


 『あー、だってそれ魂じゃないだろう。所詮それは魂に似せた偽物。 だからそこに入っているのはただの情報だ』



 白い影は笑った、ように見えた。



 『叡知は魂に根付く、魂は肉体に宿るんだ。お前達は魂だけの保管法を知らない』


 「……アカシャ?」


 相変わらず表情は分からない。顔が無いからだ。いつの頃からか、私はその白い影をその名で呼ぶようになっていた。



 名は所詮、他者と自分とを隔てる為の符号に過ぎない。


 白い影はその名を呼ぶなと言ったことは、一度もない。だからきっと良いのだろう。



 アカシャはゆらりと私を指差した。



 『……面白いことを教えてやろう。ここにそいつらの叡知は保管されていない。肉体ごと全て喰われた。実に合理的だが同時に野蛮なやり方だ。無知とは恐ろしい。人間とは恐ろしいものだ』

 「肉体ごと……? 殺されたということ?」


 『いいか、肉体は死ねば魂は離れていく。お前達が魂ごと保管するには、生きたまま手に入れるしかない。……その先はもう、分かるだろう』



 生きたまま喰えばいい、とアカシャは言った。



 その言葉にハッとする。


 「私はもう行くわ、アカシャ」

 『ゆっくりしていけばいい。どうせここには時間の概念はない。過去は今であり今は未来であり、その逆も然りだ』


 「ううん、行くわ。私はやらなければいけない事があるの。また来るから、ごめんね」

 『……仕方ないな、それならまたあれ持って来いよ。あれは叡知だ』



 私は堪えきれず笑った。昔と同じように、あんなのを叡知だと喜ぶ。なんて変わった番人なのか。


 「分かったわ。また持ってくる」

 『約束だぞ。じゃあな』



 そうして私はまた還ってきた。




◆ ◆ ◆




 ソルソフィア達との話も終わり、ふと窓の外を見ると暗くなっていた。


 

 「ティナ、今日は一日疲れただろう? 遅くなったし久々にここに泊まっていくと良いよ」


 良い考えを思いついたとルーデウスは提案してきた。たしかにこの屋敷の浴場は広いし、たまには良いかもと思案しティナは頷いた。



 しかも未だに作業着姿なのだ。破れていたり、砂埃があちこちついているし、髪も汗でベトベトだ。一刻も早くお風呂に入りたい。



 「そうね、そうしようかな。あっでもクラヴィスさんが心配するわね」

 「大丈夫、今から魔法で連絡するよ。今夜はティナ、この屋敷に泊まっていくって」


 「ありがとう。ルー」



 早速、彼は魔法で送信してくれた。その間に首から提げていた天球儀をソルソフィアに返す。魔力測定の結果は後日教えてくれるとの事だった。


 杖はティナの物だからと言われたので、持ち帰るつもりだ。



 「所でティナ、魔法はうまく使えそうかい?」


 ソルソフィアが心配そうにこちらを向く。ティナは満足顔で頷いた。


 「魔力の封印を第五階層にまで施せば、生活魔導具は扱えそうです。 一度全て解放できたのが功を奏したのか、出力も微調整できそうです」

 「それは良かった」



 すると、門にいた髭男がやって来てソルソフィアに来客を告げた。その名を聞くなり彼女は苦い顔をする。


 「……ティナ、クラヴィス君が来たって」

 「えっ? 連絡したのにどうして」


 訳が分からず戸惑っていると、髭男に案内されてクラヴィスがやって来るのが遠目に見えた。


 思わずギョッとしてしまう。


 (わわっ、どうしよう。私、こんな格好じゃ汚いよ。恥ずかしい)



 慌てて、わたわたとルーデウスの後ろに隠れる。向こうでソルソフィアとクラヴィスが話し込んでいるのが見えた。もしかしたら婚約の事を説明しているのかも知れない。



 ルーデウスがティナの動揺している姿に驚いて、見下ろしてきた。


 「大丈夫だよ、ティナ。彼が心配するよ?」

 「だって……」


 「ティナ?」



 クラヴィスの声だ、ビクッと体が強ばる。ルーデウスがそんな様子にククッと笑い出した。そうしてトンと背中を押してくる。


 「さぁ、行きなよ」

 「わわっ、ルー。ダメだよ」


 押し出された先には不思議そうに私を見ている彼がいた、私服姿だ。ああ、どうしよう、その目がまともに見られない。真っ赤になって俯いた。



 「迎えに来た」


 「あの、今日は泊まるって――」

 「知ってる。でも帰ってきて?」


 土埃のついた頬にも関わらず、彼の手が触れてくる。おずおずと見上げると、優しげに揺らぐ碧目がそこにあった。



 「じゃあ、今日は二人とも食事だけでもしていきなよ。彼女も疲れているだろうから、それなら良いでしょ?」


 ルーデウスが苦笑して、クラヴィスに問いかけた。それなら、と彼は頷く。


 「じゃあ、決定だね。ティナはまずお風呂に入っておいでよ」

 「……う、うんうん。行ってきます!」


 ささっと頬にかかる手を避けて、ティナはお風呂場へ足早に駆けていく。



 (ルー、ありがとう。今度、焼菓子作って持っていってあげよう)


 彼の気遣いに感謝する。


 早く汗と埃を落としたい。電光石火の勢いで入浴し、新しい衣服に着替え、ほっと息を漏らした。


 それから四人で食事をする。ソルソフィアはあの時の勢いとは打って変わって、特に婚約の事に触れなかった。何だか拍子抜けしまった。


 ただ、王太子の誕生祝賀会だけは気をつけるようクラヴィスに念を押していた。


 

 「一応、ウィルにも伝えておいたからね。女神教の奴らがティナに変な事しないように見守れって」

 「……ウィル?」


 「ああ、王太子ウィリアム殿下のこと。気さくな方だよ、ソルへの理解もあるし。あの子の御代はきっと良い時代になるね」



 横からルーデウスが説明してくれた。彼女は王太子殿下と親しいらしい。


 

 そうか、良かった。今日、女神教とのやり取りを見たせいか、彼女の中に一瞬孤独を感じたからだ。親しい相手がいるのは良いことだ。


 だからたまに思うのだ。姉さまが私に執着する時、つかの間孤独が癒されるのなら嬉しいと。



 「姉さま、ルー、今日は遅くまでありがとうございました」

 「うん。またおいで」

 「それはそうと、今度ティナの祝賀会用のドレス見に行こうね」



 今日は彼は転移術でやって来たらしく、ティナは彼と手を繋ぐ。挨拶が終わると、瞬時にクラヴィスの居間へ転移した。


 ティナはふぅと息を吐く。


 「やっぱり転移は速いね。ラヴィありがとう。ちょっと今日はヘトヘトで私も流石に疲れちゃって……」

 「……無理に迎えに行ってごめん。でもやっぱり君がいないとダメなんだ」

 

 「ラヴィ、」


 クラヴィスは切なそうにそう言うとティナの頭上にキスを落とした。


 そうしてそこで二人で少しだけ話した後、いつの間にか眠ってしまったらしい。翌朝目を覚ますと、自分のベッドの中にいた。





 

 「どうしたんだい、君がここに来るなんて珍しいね」

 「……ソル、昨日の嬢ちゃん一体何者なんだ?」



 発掘日誌を確認していたソルソフィアが、後ろを振り返りもせずに低い声で呟いた。



 声の主は赤茶の髪の男、ジュークだ。



 作業員は僻地での作業が多く、盗賊や魔物と遭遇することもままある。その為どうしても魔術や身体能力に長けた者を優先して雇っている。


 彼もまたその上で選ばれた者の一人だ。国家魔術師の資格を持ちながら、過去、宮廷騎士団にも所属したことのある男である。



 「……君は何を見たんだい?」

 「あんなの今まで見たことない魔術ばかりだった。それをあの嬢ちゃんは、まるでそれを実験のように楽しんでいた。 ただ、それだけじゃない――」



 ジュークの声は震えていた。だがそこには微かな羨望も混ざっていた。



 「あの剣はなんだ? あんな物、創造出来るなんて信じられない。魔術で出来ることなのか? 俺はこの国であんな剣は見たことがない。……いや、周辺諸国にも存在しないはずだ」

 「……ああ、そうだった、君は騎士でもあったね。あれはあの子が魔力を使って、想像で造りあげた物だ。 現実には存在しない剣だ」


 「そうなのか」

 「そうだよ」



 分かった、とジュークはホッと安堵し部屋を出ていった。



 ソルソフィアは目を伏せて日誌を閉じる。



 そう、この世界には存在しない。だが異界には存在した刀だ。ティナの前世で生まれ育った国に在ったモノだ。



 たしか彼女はそれに名前があると言っていた。なんと言ったか。


 忘れてしまった。


 「今度、また聞いてみよう――」


 ソルソフィアはにこりと笑った。

 


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