43.誕生日プレゼントと昔の思い出と
鶏肉に下味つけて小麦粉をまぶし油で揚げる。今回はお祝いということで、唐揚げを作ってみた。
サラダとスープ、チーズを乗せたグラタン。カットしたフルーツも用意した。
気になってティナの様子を見にきたクラヴィスが目を見開き、驚いている。
「すごいねこんなに。ご馳走だ」
「お誕生日おめでとう。ラヴィ」
作るのを手伝ってくれると言ってくれたが、テーブルに料理を運ぶのだけお願いした。
準備が終わり席につくと、二人とも果実酒で乾杯する。お互いのグラスをカチンと合わせた。
「これでもう暫くは私がお姉さんじゃなくなるね。残念」
「ふっ、一ヶ月しか違わないけどね」
そうしてティナは、ごそごそと棚から綺麗にラッピングされた箱を取り出した。クラヴィスに畏まりながら手渡す。
「ラヴィにプレゼントです。どうぞ」
「ありがとう。開けてみても?」
「もちろん、どうぞ」
ほんの少し赤くなって見えるのは気のせいだろうか。ティナは目元を和らげ、心の中で笑う。
箱の中から出てきたのは天球儀の台座だ。クラヴィスがそれに目を留めた。
「これは天球儀の……」
「うん、この前ラヴィの台座が無くて、特に置いてないのかなぁと思ったの。良かったら使ってください。 ちなみにこれは姉さまと私とで考えた特別製で、守護と結界と認識阻害の魔法が魔石に込められているの。しかも――」
ティナは近くにあったもう一つの箱を手に取り、それを開けてみせた。
「同じ台座だ」
「へへー。私も同じもの姉さまに造ってもらったの。魔石も元々一つの石から取り出したので、兄妹石もしくは夫婦石と呼ばれているの。 簡単に言うとペアの台座ってやつです」
天球儀は大切な物だ。高位の魔術師はそれを自分用に書き換えて保管する事が多い。その際、他者に奪われないよう結界を張ることがある。
台座もそういった機能を付帯することでより安全性が増すのだ。
彼は目を伏せ、愛おしいものに触れる様にそっと台座に指を伸ばす。
「ありがとう、ティナ。早速使わせてもらう」
「喜んでもらえたみたいで、良かった」
そうして出来上がっていたケーキを出す。今日のは生クリームをのせ、桃に似た食感の果物を生地の間に挟んでみた。
するとティナの髪からふわっと白い綿毛が現れた。契約精霊のシアだ。ケーキをじぃっと見つめている。
『美味しそう』
「シア、皆で一緒に食べましょう。待ってね今切り分けるから」
シアとクラヴィスにケーキを皿に取り、差し出す。
「美味しい」
『甘いー。いっぱい食べれそう』
「この果物、美味しいのよね」
三人それぞれ口にケーキを運ぶ。そうして楽しい時はあっという間に過ぎていった。
「ティナ。今度、ルーン領の俺の家族に会ってほしいんだ。婚約のこと伝えたら、ぜひ君に会いたいと五月蝿くて」
食器の片付けを一緒にしながら、クラヴィスがやれやれと困った顔をした。ちょうどティナもその事を考えていたので頷く。
「私もラヴィのご両親にご挨拶したいと思っていたから、行きます」
「ありがとう。泊まりで休み取れる様に調整してみる。後でティナも空いている日、教えて?」
「うん」
クラヴィスの父は公爵である。昔、ティナは彼の体を治すため何度も屋敷に通った時期がある。その時二人に顔を合わせ挨拶したのだが、お母様は淑やで美しい方、お父様は何というかクラヴィスに面影が似ていた。
彼がそのまま年を経た様な感じだった。美形の家系だな、と当時は思ったものだ。所謂イケオジである。
懐かしい記憶が浮かび、ティナは微かに笑った。隣のクラヴィスが目をパチパチとさせた。
「どうしたの、突然笑い出して」
「ごめん。昔、あなたのお屋敷に通っていた頃を思い出して懐かしくて。 お父様、ラヴィにそっくりですごく大人で格好いいなぁって思ったの」
言われてもピンと来ないのか、彼が首を傾げた。
「……そうかな」
「そうよ。きっとラヴィももっと年を重ねたら、絶対イケオジになると思う」
「……イケオジ?」
「いけてるおじさま。うんと、格好いいおじさまってこと」
クラヴィスがキョトンとして、その言葉の意味を知った後笑った。
「は、ティナは相変わらず可笑しい」
「ラヴィは私のこと昔から知ってるでしょ。変わってるって」
「そういえば……、昔言ってた、君の中にいる女の人はまだいるの?」
片付けが終わり、居間のソファーに二人で腰を落ち着ける。穏やかな雰囲気の中、低い声で彼が言った。
確かに昔、彼に話したことがある。覚えていたのか、そんな子供の頃の他愛もない話を。
この人はどれだけ私に夢中なんだろう。
少しだけドキリとしてしまった。
「いるよ。でももう中にはいない」
「離れたの?」
「ううん。繋がってて、だけどずっと上にいる」
「上?」
「そう、ずっとずっと空の上で私を見ている。というか見守っているの。あ、でも何かあった時は助けに来てくれるみたい」
「そうなんだ」
そんな自分のするおかしな話をきちんと聞いてくれる彼が、やっぱり好きだなぁと思うティナであった。




