41.ティナの告白と婚約の打診
「それはどうして?」
「ラヴィの家もルーン領にあるのよね。デュヴァリエ家は昔からちょっと特殊な役割があるの。あの地域一帯を護るためにね」
「知っている。でもそれとティナと何か関係があるの?」
「それが……、何とも言えなくて。その事をお祖父様に聞いてみたいの。ただ、今の時点では私は魔法が使えないので、家の力になることは無理だと思うのだけど」
デュヴァリエ家は血筋が優先される。他家に入ろうが爵位を失くそうが、市井に落ちようが関係ない。一滴でもその血が混ざっていれば、それは等しくデュヴァリエ一族である。そして彼らはその特殊な事情のために各々力を尽くす。
故にティナにも何らかの役割があるのではないかと思っている。考えすぎかも知れないが。
そう、これはただの勘だ。ソルソフィアは何か知っているようで、アルスガルドは大人になるまで待つと考えているようだ。
でもティナはもう大人になっている。
「機会をみて、そのことを姉さまとお祖父様に聞いてみようと思ってるの。それにラヴィ、私は薬師の養成機関を修了するまでは結婚なんて考えてなくて……」
「ティナ」
勉強と結婚、どちらも中途半端にしたくない。だから一つ一つ頑張れたらな、と思う。
ティナは笑みを浮かべた。
「だからラヴィも無理しないで。他に誰か好きな人ができたら、その人と幸せになって?」
「……ティナはたまに酷いことを言うね。君と一緒にいることが幸せなのに。 俺は君以外に誰かを好きになることはない、絶対だ」
クラヴィスは苦しそうな切なそうな表情でティナを見つめている。そして髪の一房をそっと手に取り口づけた。
「……さっきの返事は? 俺のことどう思ってる?」
「ラヴィのこと、…………好き、だよ」
「は、さっき嫌いって言った」
「あれは……つい勢いで言っちゃっ――ん、」
唇が彼のそれに塞がれた。すぐに離れる。ティナは真っ赤になって、ぱくぱくと魚の様に口を開閉した。
「ラ、ラヴィ、何やってっ……」
「今のは嫌い?」
「え? ……ふぁ」
もう一回。クラヴィスがその整った顔を近づけた。微かに触れるだけの口づけ。
何かを答える余裕なんて全然ない。ティナの頭はもうパンク寸前だ。
絶対彼はからかっている。楽しそうにこちらの反応を見て、けれど碧目はしっかりと熱を帯びていて。
クラヴィスが耳元でそっと囁く。
「初めのは、忘れた?」
「……わ、忘れた。忘れたから、だからもういいから! もういっぱいだからっ――」
混乱する頭をどうにか働かせて、ティナは自分の口を手で塞いだ。それを見て彼は残念そうな顔をしている。
「ティナ、お願いだ。婚約だけは早めにしたい。結婚は養成機関を修了してから。それじゃダメ?」
「それは……、婚約しても、もしかしたら結婚が延期になるとか、もしくはそれ自体が流れてしまうかも知れないけれど――ラヴィはいいの?」
「構わない、それでもいい。破談なんて絶対させないけど、もし何かあっても君の体裁は俺が必ず守るから」
クラヴィスは真剣な顔で見つめてくる。その必死さに申し訳なくなって、ティナは唇を噛んだ。
「うん、ラヴィが良いならいいよ。私も頑張ってみる。あと……」
「何?」
「私、ちゃんとラヴィのこと、好きだからね」
「……あのさ、そういうこと今言うの反則」
何だかラヴィの方が私のこと沢山好きみたいだから、私だってそうだよと伝えたら、彼を真っ赤にさせてしまった。
そうして、最後にもう一回だけ私達は唇を合わせた。
◆ ◆ ◆
結局、魔導具のネックレスはクラヴィスが造り直してくれることになった。
壊れた理由はティナの身に危険がおよび、守護の力が最大限まで働いたせいらしい。改良はせずそのままにしてみるとのことだ。
(まぁ、あんなこと滅多に起こらないとは思うのよね)
自室に戻り、ティナは机上に置かれた小箱を手に取った。
これはお祖父様から誕生日に貰った物だ。あの時、たしか必要な時に開くと言っていたはずだ。
だがどうやっても全く開かない。軽く振ってみると中でカタカタと音がした。この感じ、やっぱり天球儀のような気がする。
「今は必要な時ではない、という事なのかなぁ。今度、姉さまの所に持っていってみようかな」
とりあえず小箱の件はおいておく事にした。どのみち自分はまだ魔法が使えないのだ。
ティナは息を吐き、そっと小箱を机上に置いた。




