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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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23.腹を割って話しましょう



 ああどうしよう。


 たくさん、買い込んでしまった。


 そして、たくさん、作ってしまった。


 

 今日ティナは親睦会で中途半端な時間に軽食をとったので、夕食は抜いてもいいかな、と思っていた。


 が、クラヴィスの分は作らねばならないのでそうしたのだが、何分考え事をしながらだったので滅茶苦茶量が多くなってしまった。大変だ。


 とりあえず明日用の物をどうにかしよう。わたわたと保存用の料理を取り分けていると、クラヴィスが帰ってきた。



 「お、お帰りなさい」

 「ただいま、ティナ。何かあった?」


 「えっ、何もないですよー」


 

 こちらは全く悪くないのに挙動不審なティナである。まさかと思うがリオンと会ったこと知っていたらどうしよう。


 とにかく深刻な話は夕食の後にしようと思っている。食後のお茶の時間が最適じゃなかろうか。


 

 「ティナは今日試験どうだった? 難しかった?」

 「あっ、どうにか実技試験うまく出来ました。 予想してたのが丁度出たので良かったです」


 「そう良かった。親睦会は初めてって言ってたけれど緊張しなかった?」

 「はい。お天気も良くて城の裏庭で開いたんですけど、やっぱりお城の料理は最高ですね。 美味しかったです」



 クラヴィスは夕食を摂り、ティナは果実を絞った飲み物を飲んでいる。


 だが途中から彼はじぃっと目の前の料理を凝視していた。


 「ティナは夕食いらないんだよね。 ……にしても今日すごい量じゃないか? これ本当に一人分?」

 「はは、作りすぎちゃって――」



 これでもかなり減らした方である。


 テーブルの上はてんこ盛りの料理でクラヴィスは目を丸くしている。仕方ない。食べきれなかった分は明日の朝にまわそう。



 夕食も終わり、居間でクラヴィスに紅茶を出す。珍しくティナはテーブルを挟んだ向かいに畏まる様に座った。



 今回は心を鬼にする。いくらクラヴィスさんでも、である。


 「クラヴィスさん、ちょっとお話が……」


 「ん、どうしたの?」


 ふわりとクラヴィスが笑った。相変わらず見目麗し――大丈夫、絆されない決して。



 コホンと一つ咳払いして心頭滅却してみる。



 「今日はちょっとお互い、腹を割って話しましょう」

 「? どうしたの、深刻な顔して」

 「ちょっと、待ってください――」



 この時のために即席だけど準備した紙を小机の引き出しから抜き取った。


 「……ティナ?」


 心を鬼にする。



 碧石のネックレスを外してテーブルに置き、紙に書いた文章を読み上げる。怖いのでクラヴィスさんの顔は見れない。パスする。



 「クラヴィスさん、この魔導具はとある人から守護の効果のみならず、監視盗聴、及び位置情報を測位する機能があると聞きました。 幸いその機能は起動した形跡はないとのことです。 ですが私は異議を唱えます。これは私の基本的人権を侵害、超越した行為かと考えます。よって私は――」

 「ティナ、もういい」

 「いえ、最後まで聞いてください。 私はこの魔導具の機能の書き換えを要求します。もしそれを拒否するなら、このネックレスはお返しします、以上」


 よし、言いたいこと全部言えた。


 やっぱり怖くて顔は見れない。


 

 しばしの沈黙が漂う。辛い。何か言ってほしい。


 「…………怒ってる?」

 「クラヴィスさんはどう思いますか?」


 彼がようやく沈黙を破った。



 心は鬼だ、目力を強くしてみる。まだクラヴィスの顔は見ていない。



 「怒ってる、かな……」

 「かな、じゃないですよね。クラヴィスさんが私のこと心配してくれているのは分かってます。 でもこれはやり過ぎです。 私だってこう見えて一応乙女なんですよ? あなたは何とも思わないかも知れませんけど、もし間違って恥ずかしいとこ見られたり聞かれたりしたら嫌ですよね!?」



 そうだよ、これはあっちの世界だと犯罪なんだよ、という言葉を私は飲み込んだ。偉い。



 「こっち見てティナ」

 「嫌です。 とにかくさっき言ったこと、どっちにするか決めてください。今すぐ」


 「…………嫌だと言ったら?」

 「!」


 むむ、と顔を上げたらクラヴィスと目が合った。ものすごい至近距離だ。跪いてティナを見つめている。


 「機能は残したい、起動はさせない。それじゃダメ?」

 「ダメです」

 「強情」


 どっちがだよ、と言いたい。


 

 「……とある人って誰?」

 「もうっ、そんなの関係な――」


 ティナはクラヴィスを見て息を呑んだ。またあの目だ。暗い情欲の籠った。


 

 「会ったんだ」

 「前も言いましたけど、会うのは私の自由です。 それにリオンはそんな悪い人じゃないです!」

 「…………」



 彼は体を起こし、ソファーに座るティナを囲い込みその顔を近づけた。


 「悪い人じゃないってどうして分かるの?」

 「それは……。 クラヴィスさん、狡い。話をすり替えないでください。今はネックレスの話してましたよね?」

 「…………」



 ティナが話を逸らすなと訴えると、目を瞑ったクラヴィスは脱力し降参とでもいう様に天井を見上げた。



 「……分かった、書き換える。でも位置情報だけは残したい。勿論、守護もね。 それだけは譲れない」

 「分かりました。交渉成立ですね」



 もはや勝負に勝ったのかどうかすら分からない状態で、何かちょっと腑に落ちない感じだ。クラヴィスさんも少しは謝ってほしい。



 「まだ怒ってる?」

 「謝ってください。 私がちょっと魔法が使えないからって、言わなきゃ分からないって思ってやったんですよね? 馬鹿にしないでくださいね」


 「馬鹿になんてしていない、 ……ごめん」



 謝ったから許す。ちょっとクラヴィスさん可哀想とか思ったけど、決して絆されてなんかいない――多分。



 「じゃあ、仲直りのしるしに握手しましょうね」



 そうして、監視盗聴機能の件については一応の決着をみせた。



 が、その後クラヴィスがやたら名前を呼び捨てにしろと要求してきて何度も断るのが大変だった。


 クラヴィスさんはクラヴィスさんじゃないか。



 何故にと思うティナである。

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