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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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18.お茶会への招待とダンスの練習



 困った。どうしてこうなった。



 ティナはアリシアからの手紙を読み終わり、ガックリと膝をつき両手で顔を覆った。


 7月は自分の誕生日がある。今年は二十歳になるのでティナとしては特別だ。あちらの世界では成人、てやつである。


 毎年、家で両親と祝うのだが、なんと今年はお祖父様の屋敷に顔を出すようにとのお達しがきた。というか、お祝いしてやるから来い、と言ってきたらしい。



 「ど、どうしよう。私――」


 その日はお祖父様のお屋敷でお茶会兼誕生祝いを開くので、その際に皆の前で挨拶をしなければならないのだ。


 一般教養として婦人学校で習っていはいるが、マナーなどきちんとできるか不安だ。



 実はこのお祖父様というお方、かなりの曲者でアリシアの父に当たる方なのだが所謂お貴族様なのである。



 しかも侯爵様なのだ。



 「確か最後に会ったのは、五年前だったはず……」


 過去の忘れたい思い出がまざまざと甦る。


 そうあの時、たまたまお祖父様が従兄のケビンと私にダンスを踊ってみろと言い出した。婦人学校でも習っていたのだが、全く踊れなかったのだ。


 その時のお祖父様の目が蔑むような眼差しで、とても痛かったのを覚えている。



 「どうしよう。 しかも二週間後には薬学試験もあるのに……、泣きそう」



 誕生日まであと約一月。とにかくやれるとこまで頑張るしかない。ティナは目を潤ませながらも、唇を引き結び気合いをいれた。




 「クラヴィスさん。恥を忍んでお願いがあります」

 「何かあった? ティナ」



 クラヴィスの部屋を訪ねると読書中だった。突然やって来たティナの顔をみて、ただ事ではないと感じ取ったのか気遣う様に聞いてきた。



 アリシアからの手紙の内容とお祖父様のことを伝えると、彼はうんと頷いた。


 「テーブルマナーや所作については明日カトリーヌさんに相談してみようと思います。 ……クラヴィスさんには、その、ダンスの練習相手になって頂けるとありがたいのですが――」


 「勿論良いけれど……お茶会だろう? 多分ダンスはないと思うが……」

 「いえ、またお祖父様の戯れでケビンと踊らされるかも知れないんです。 万一のことも考えて準備できることはしておきたいんです。 でもクラヴィスさん無理しないで下さいね、もし駄目なら別の人に――」

 「俺が教えてあげるから、他の人に頼まなくていい。 いつから始めようか、……なんなら今から試しにやってみようか?」



 ティナの言葉を遮って、クラヴィスは立ち上がりその手を恭しくとった。腰にはすでに手を回されている。いつにない密着具合に顔が火照った。



 彼がこちらを見下ろし覗き込んで優しく笑った。


 「さあ、あまり考えないでまずは一緒にリズムを感じてみて?」

 「うう……、クラヴィスさんの足を踏まないように頑張ります」

 「ん、気にしなくて良いから。動きを俺に委ねて……ほら、出来てきてる、上手。 そろそろ、足を出して――」


 流れるような動きで促され、自然とティナの足も進み出す。



 (すごい。クラヴィスさん教え方上手――)


 始めはこわばった動きだったのが、今は彼のリードにどうにか付いていける様になってきた。一体感を感じ楽しくなってきたティナは顔を上気させ、クラヴィスを見上げ笑いかけた。



 「従兄と踊るの?」

 「はい多分。 お祖父様に言われたら、ですけど」


 「…………妬けるな」

 「え?」


 吐息のように微かに呟いた言葉はティナの耳に届かず消えていった。


 なんでもない、と彼は腕の力を込めて言った。




◆ ◆ ◆



 王都にあるカトリーヌの屋敷はとても広い。彼女の父クルト子爵はマーカスの父の商会と業務提携し、それなりに収益を得ているらしい。


 ティナの相談を受け、カトリーヌは二つ返事で頷いてくれた。今は庭園へ誘われ一緒にお茶を飲みながら、これからのことを話し合っている。



 「ティナさんのお祖父様が貴族だなんて驚いたわ。それも侯爵様なのね」

 「ほとんど会う機会はないんですけれど……五年毎にお呼ばれしているんです」


 そう、彼は五、十、十五歳と五年刻みに会いたがるのだ。


 「しかもアルスガルド・デュヴァリエ侯爵といったら、この国でも相当力のある筆頭侯爵家の一つよ。 ティナさんのお母様はお父様との結婚をよく許して頂けたわね」

 「私のお父さんはお祖父様の元執事で、お母さんとの結婚を許してもらうのは凄く大変だったみたいです。 ですがお祖父様の信頼が厚い人だったのでどうにか認めてくださったとか」



 結婚と同時に執事を辞めた父は、現在お祖父様のいくつかの事業を手伝っている。


 普通は令嬢である娘を何の爵位も地位もない男に嫁がせるなど考えられないことだ。ましてや侯爵。政略結婚が当たり前の時代である。


 それなのに結婚を許してくれたのだ。


 何だかんだいって、良いお祖父様なのかも知れない。


 「とにかく、そのお茶会までに私がティナさんに令嬢として大切なことを沢山教えてあげるわね」

 「カトリーヌさん、よろしくお願いします」


 ティナはぺこりと頭を下げる。


 「まず、お茶会用のドレスをまた検討しないといけないわね!」

 「えっ!? また買いに行くんですか?」


 「実は今回はうちの父の商会関係で可愛いらしいドレスの新作があるのよ。 ぜひティナさんに着ていってほしいわ」


 目を輝かせて手を組み、カトリーヌは話し出した。侯爵家主催のお茶会なのでティナがそのドレスを着て御披露目することで、かなりの宣伝効果があるらしい。


 広告塔のようなものである。


 (でもカトリーヌさんがいてくれて良かった)


 彼女の部屋で侍女が持ってきてくれた新作ドレスの試着をし、丈や寸法の修正部分を確認する。


 薄桃色の可愛らしいドレスである。ティナは一目で気に入った。


 お茶会での所作やマナーをカトリーヌから学び、どんな会話をすれば良いのかや今流行りのものを教えてもらう。


 彼女の話によるとティナは思ったよりきちんと出来ているので大丈夫、とのことだ。


 

 「お茶会はこじんまりと親戚のみの参加らしいですが、懇意にしている方も数人呼ぶようです」

 「だったらまだ良い方ね。 あと家でもお茶の飲み方や食事の取り方、食器の扱い、常に意識してみてね」



 あれよあれよという間に夕刻になっていた。カトリーヌが馬車で送ってくれるとのことでクラヴィスの家の近くまで乗せてもらうことにした。


 家に着いたあと帰ってきたクラヴィスと共に食事を摂り始める。


 カトリーヌに教えてもらったことを意識しながら食べていると、ふと目の前にいる彼の食べ方が気になった。



 (……今さら気づいたけど、クラヴィスさんの食べ方ってとても綺麗なのよねぇ)



 ティナの家はざっくばらんに食事中でも会話はするのだが、元執事の父と元御令嬢の母の影響もあってか食事風景はいつでもきちんとしていた。


 そんな両親を見て育った自分はそれが当たり前だと思っていたし、ある意味幼い頃から自然な形で教育を受けていたのかも知れない。



 なのでクラヴィスの実家も家柄が良いとか、家族がそういった方なのかと思ったのだ。


 「どうした? 何かあった?」

 

 ティナの視線に気づいてか、彼がキョトンとこちらを見ている。


 「いえ、今日のお肉の味付けどうですか? 市場でこれがおすすめだよって言われて、香辛料替えてみたんですけど」

 「とても美味しいよ、ピリッと少し辛めで」

 「ふふっ、良かったです」


 

 今日は食後に焼いておいた胡桃のケーキも出そう、とティナは心の中でくすりと笑った。

【登場人物】

・カトリーヌ・クルト……ティナの同級生、友人

・マーカス……ティナの同級生、友人

・アルスガルド・デュヴァリエ侯爵……ルーン領にいるティナの祖父

・アリシア……ティナの母、ルーン領に住んでいる

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