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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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152.消えたティナと集まる者たち

 「ルーデウス様! 大変だ、ティナが!」


 白銀の精霊が賢者ソルソフィアの屋敷に駆け込んできたのは、それからほどなくの事だった。


 王国魔術師団に属するクラヴィスはまだ勤務中。精霊シアが彼のいる師団に救援を要請したとして、すぐに職務を離脱するのは困難とシアは判断した。


 それに加え城内に正体不明の精霊が出現し、騒ぎになるのも厄介だ。


 その為迷わず向かった先は賢者と眷属のいる屋敷だった。


 ここは侵入者を防ぐため、あらゆる事態に対応可能な結界が縦横無尽に張り巡らされている。だがシアは屋敷の主と親しいティナが許可を得ているため、難なく入る事ができる。


 その頃、丁度ルーデウスは地下に設置された研究室で仕事をしていたが、シアの気配を感じ、すぐに一階にある広間に飛んできた。


 「どうしたんだい、シア?」


 珍しくもシア一人で来たことにルーデウスは驚いている。今日この国は感謝祭という名の特別な日を迎えている。そしてこの時間、ティナがパトリシア聖教会で聖歌隊に参加している事を知っていた。


 ただならぬ様子の精霊を見てルーデウスは続きを促した。


 「聖花を捧げに行った子と一緒に、ティナが教会奥の祭壇の向こうに連れ去られたんだ!」


 「なんだって!?」


 シア以外に精霊王と風の神もそばにいたはずだ。それを問い質すと、二人は今ティナの指示で代わりに聖歌隊に出ているとの事だった。


 その説明だけではよく話が見えてこない。さらに深く聞いていくと、どうやら三年前の感謝祭で行方知れずになったエルドナ商会の使用人を探しに、商会の息子が今年の聖歌隊に参加しているそうで、花を捧げる役に選定された彼は教会奥の祭壇に向かい、それを追ったティナも一緒に壁から出てきた沢山の手に捕らわれ飲み込まれていった――らしい。


 「教会奥か……まずいな」


 ラルフェリア王国において、賢者ソルソフィアの権限は強い、大体どこの部署でも強権発動可能だ。だが国教、殊更女神デライアを奉る教会関連施設にだけは難しかった。


 大司祭ガルシアにだけはソルソフィアの強権は通じない。


 以前ティナにも話したが、教会の機密部や禁止区域にはどうしても入れない。


 どうしたものかとルーデウスが頭を抱えていると、広間の扉が開きソルソフィアが王城から帰ってきた。


 「どうしたの、ルー。深刻な顔して」


 「あっソル、いい所に戻ってきた! ティナが――」


 ルーデウスが教会での事を話す。すると彼女は「えぇっ」と青くなった。


 「聖歌隊の人間が消えるなんて聞いたことがないな。ルー、過去にも感謝祭で人が消える事件があったのか念のため調べてきて」


 「わかった。あとティナに頼まれてた聖花メリシアの分析結果がでたよ」

 「それで?」


 「やはり呪花だった。精霊王の森にあった花とほぼ同じ。はじめは白色で何の変哲もない花だけど、魔力を得ると途端に様々な色に変化しその辺りの魔力を奪い尽くす。魔力量によって花は増殖もするんだ」


 続きを促し、一通り結果を確認したソルソフィアは分かったと返答する。ルーデウスは再び資料室に戻った。


 「所で白銀の精霊シア、他の子達はまだ教会にいるのかい?」


 「多分そうだと思う。歌は午前中で終わると言ってた」


 消えたティナは呪花の影響で魔力を奪われている可能性がある。精霊王と風の神はティナと契約している。契約主からの魔力供給が滞れば、ティナの身代わりを持続する事は難しい。それは魔力を多く消費するためだ。


 ふと白銀の精霊の状態が気になった。


 「君はティナからの魔力供給は断たれていない?」


 「ううん、魔力は少ししか流れてこない。あ、でもこれがあるから俺は平気なんだ」


 「?」


 懐からシアが三つ編み状になった髪の毛を取り出してみせる。この髪からティナの魔力がじんと伝わってきた。


 「髪には命が宿りやすいんだって、前にティナが言ってた。魔力も込められやすいって」


 たしかにシアは小柄で精霊王達ほど魔力を必要としない。そのためこの毛量程度に込めた魔力で存在を維持できる。


 髪は切っても少し位なら生きている。そうティナは言いたいのだ。


 面白いことを考えるものだなとソルソフィア笑った。


 「教えてくれてありがとう。そういう事なら君については大丈夫そうだね。でも他の二人が心配だ。我々も一旦教会へ行こう」


 ソルソフィアはシアを肩に乗せ、屋敷に設置された転移陣を起動させた。




 ラルフェリア王国における年に一度の感謝祭は特別だ。国賓も招かれる為、警備に騎士団、魔術師団が就く。だが国民の祝日ともあってシフトは極力配慮されたものとなっていた。


 副師団長クラヴィスも今日は午前中のみの勤務でその後は帰宅を許可されていた。


 午後は教会そばの広場でティナと待ち合わせをしている。勤務を終え祭りをまわるため身支度を済ませたクラヴィスは馬車で移動する。


 感謝祭は普段より多くの人がごった返していた。クラヴィスは少し離れた場所で馬車をおり、徒歩で約束した広場に向かう。


 が、突然、心臓がドクンと痛み呼吸を止めた。


 「――!」


 それはほんの一瞬の出来事。

 胸元の服を掴む。


 「なんだ?」


 何かがいきなり切り離された感覚にクラヴィスはひどく困惑した。


 これまでずっと身近に存在した、とても大切で何にも代えがたいもの――それは


 「……ティナの、魔力が、消えた……?」


 クラヴィスの魔力とティナの魔力はとてもよく似ている。その為、互いに拒否反応なく魔力を分け与えあえるのは勿論、相手の状態もそれとなくだが感じ取れる。


 だがその感覚が今はない。始めからそれは存在しなかったかのように、跡形もなく消え失せた。


 「ティナ!」


 嫌な予感がした。

 険しい表情になったクラヴィスは行き先をパトリシア聖教会へと変え、走り出した。

 

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